国立大学法人 鹿児島大学病院
(鹿児島県 鹿児島市)
坂本 泰二 病院長
最終更新日:2025/01/17
地域の「最後の砦」をめざし高度医療を追求
1869年に設立された島津藩医学校を前身とし、1943年に県立鹿児島医学専門学校の付属病院として開設された「鹿児島大学病院」。その歴史の中で、先進かつ高度な医療を担う病院として地域貢献を果たしてきた。現在は672病床を有し、がんゲノム医療やロボット支援手術をはじめとした先進的医療を実践しながら、地域の病院・クリニックとの連携にも注力。特定機能病院、都道府県がん診療連携拠点病院、肝疾患診療連携拠点病院、地域周産期母子医療センターとしての役割を担い、すべての部門において高水準な専門医療を追究している。「心豊かな医療人が、患者さん本位の安心・安全・高度な医療を提供する病院をめざしています」と話すのは2020年4月より病院長を務める坂本泰二先生。2005年に始まり、2028年完了予定の病院再開発整備に伴い、2024年9月には外来診療棟・病棟(A棟)が始動し、これまで以上に高品質な医療の提供をめざしている同院。外来診療棟・病棟(A棟)の特徴や同院が近年力を入れている取り組み、今後の展望について坂本病院長に話を聞いた。(取材日2024年10月25日)
鹿児島の地域医療で貴院が担う役割について教えてください。
当院の役割は、高度な専門医療の提供と難治性疾患の「最後の砦」となるべく、離島やへき地への遠隔医療支援も含め鹿児島県全体の地域医療を守ることです。がん治療においては、都道府県がん診療連携拠点病院として多くの診療科が連携しながら手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的ながん治療を提供しています。近年は腹腔鏡や手術支援ロボットを用いたがん手術に力を入れており、前立腺がんの全摘手術や腎がんの部分切除、膀胱がんの膀胱全摘出手術に対応。傷口が小さい、出血量が少ないなど患者さんの体の負担軽減につながる3Ⅾ視野下でのロボット支援手術も導入しています。またがんゲノム医療拠点病院として、がん組織を調べて遺伝子変異を明らかにする「がんプロファイリング検査」を行い、一人ひとりに合わせた治療方法を探るがんゲノム医療も行っているほか、院内チームと地域の医療機関の連携によるシームレスな緩和ケアにも注力しています。
外来診療棟・病棟(A棟)での診療が始まったそうですね。
2005年にスタートし2028年完成予定の病院再開発計画の一環として、2024年9月に外来診療棟・病棟(A棟)が完成、診療がスタートしました。旧建物は50年前の設計でしたから、使い勝手には問題点もありましたが、新しい建物になりプライバシーの確保や広い処置室など、患者さんにとって非常に使いやすい環境になったと思います。例えば、小児科、小児外科、小児歯科を5階に集めたことによる受診時間短縮の実現、外来でできるがん治療の拡充、心臓、心臓外科、腫瘍といった高齢化で需要が増えるであろう領域にも対応できる外来になりました。また、低侵襲の外来手術の需要に対応すべく、A棟には内視鏡室を5室設置しています。駐車場から病棟までの距離があるなど、病院再開発計画が完了する過渡期においては、患者さんにご不便をかける点もありますが、2026年には駐車場の問題も改善される予定ですのでご理解いただければと思います。
高齢者に多い運動器に対する取り組みについて伺います。
当院では、整形外科とリウマチ科の診療を脊椎、腫瘍、関節の3グループに分け、各分野に精通した医師が治療に取り組んでいます。難易度が高い脊柱変形から頻度の高い腰椎椎間板ヘルニアまで精度の高い手術で対応する脊椎グループ、骨、軟部腫瘍をはじめ広範囲の腫瘍切除後の運動器の機能温存に注力する腫瘍グループ、内視鏡下手術や人工関節置換術、骨を残す骨切術などを手がける関節グループが、患者さんの望むゴールに合わせた選択肢を提案しています。高齢者の運動器疾患は手術のみで完治が見込めるケースが少なく、継続的なリハビリテーションが重要となります。当院での手術後は、地域内で適切なリハビリを受けていただける医療機関との連携体制を築いています。当院には日本の国立大学病院では数少ないリハビリ学をメインとする教室がありますので、将来を見据えた新しいリハビリの開発をめざし、研究・診療を含めて強化していきたいと考えています。
診療科の特徴について教えてください。
脳神経外科では、早期から遺伝子解析を導入し迅速な診断体制を構築。次世代技術の統合的病理・遺伝子診断システムの開発も進めています。心臓血管内科では日々の治療に加え、大石充先生を中心に地元の市町村や保険団体からデータを集め、将来の治療や疾患の予測ができるデータベースの作成に取り組んでいます。鹿児島県の中心となるべく整備を進めており、データの蓄積によって精度が上がると期待されています。また、婦人科におけるがん診療では、生殖病態生理学分野教授の小林裕明副病院長を中心に婦人科のロボット支援手術を行っており、妊娠の可能性をできる限り残す低侵襲手術に取り組んでいるほか、妊娠中に子宮頸がんが見つかった場合、子宮頸がんだけを切り離して妊孕性温存をめざす珍しい手術も行っています。眼科ではスマートグラスとAI画像解析を導入し、診断精度の向上と医療安全の確保につなげているほか、医科歯科連携にも注力しています。
今後の展望をお聞かせください。
鹿児島県は高齢化が大都市圏より10年進んでいるといわれています。すでに疾患構造が変化してきており、具体的には小児の受診が新型コロナウイルス流行以降急激に減少しています。医療資源をどう分配するのか、日本で先陣を切って対応していかなくてはならない大学病院といえるでしょう。どんな人も安心して暮らせる社会づくりの一助となれるよう、さらなる体制の充実を進めていきます。外来診療棟・病棟(A棟)を当院の新たなスタートと位置づけ、鹿児島の医療の最後の砦となるように高品質な医療を提供し、信頼され安心して受診できる場をめざしていきたいと思います。職員一人ひとりの志の高さが、当院のホスピタリティーの高さにつながっていると実感しています。今後とも一致団結し、心豊かな医療人の育成と地域の医療機関との協力体制強化、患者さんやご家族とのコミュニケーションを大切にした温かい雰囲気で健康な未来へのサポートに努めていきます。
坂本 泰二 病院長
1985九州大学医学部卒業後、同大学医学部眼科学分野に入局。1992年から米・南カリフォルニア大学ドヘニー眼研究所客員研究員。1995年より九州大学大学院眼科分野助手を務め、2001年九州大学大学院医学研究院眼科助教授を経て、2002年に鹿児島大学医学部眼科学教室教授に就任。2020年より現職。専門分野は網膜硝子体疾患。日本眼科学会眼科専門医。