独立行政法人国立病院機構 榊原病院
(三重県 津市)
鬼塚 俊明 院長
最終更新日:2026/05/28


緑豊かな温泉地に立つ国立の精神科病院
津市にある精神科の国立病院「榊原病院」。周囲には、平安時代から湧く榊原温泉をはじめゴルフ場や農地が点在する。緑豊かな環境でさまざまな精神疾患の診療を続ける同院の歴史は古く、設立されたのは1939年。2007年には医療観察法療養病棟も開設し、三重県だけでなく近隣の県からも入院患者を受け入れている。「精神科というと閉鎖的なイメージがあるかもしれませんが、早期に治療を開始することが早期回復につながりますから、気軽に相談に来てほしいですね」と鬼塚俊明院長。法的な入院措置が必要なケースからメンタルヘルスの相談まで、地域に貢献し幅広い患者に対応する同院の診療内容について、鬼塚院長に話を聞いた。(取材日2026年4月20日)
病院の歴史や地域での役割について教えてください。

1939年に京都陸軍病院榊原臨時分院として創設されたのが始まりです。6年後に厚生省に移管され、国立京都病院榊原分院として発足。1995年には全病棟の新築工事が完了し、2004年に独立行政法人国立病院機構榊原病院となりました。2007年には医療観察法病棟18床を開設しました。医療観察法病棟というのは、公立病院にしかない司法精神医療の専門病棟で、心神喪失などの状態により重大な他害行為を犯した人の入院治療を行っています。国のガイドラインに基づいたセキュリティー設計がされた特別な病棟で、全国的にも数が限られ、病棟に空きのない施設もありますから、他県の患者さんも入院されています。再発防止と社会復帰に向けて、精神科医をはじめ看護師、心理士、作業療法士などが関わり、治療だけでなく、社会復帰に向けての外泊訓練など、退院後の治療計画に至るまで手厚くサポートしています。
どんな患者さんが多く来院されていますか?

多くは津市近郊の患者さんですが、依存症や強度行動障害の患者さんなどは、県内でも受け入れ体制のある病院が少ないので、当院に多く入院されています。自傷他害の恐れがあると判定された措置入院の方も受け入れています。日常生活の援助だけでなく、身体的ケアなど、患者さんの思いや悩みに寄り添った看護を提供しています。また、当院は県内にも数ヵ所しかない治療抵抗性統合失調症に対する「クロザピン治療」の導入施設であるため、重度の統合失調症の患者さんが入院されています。クロザピン治療の導入には専門スタッフによる血液モニタリングが必要であるため入院が必須となりますが、従来の薬物療法で改善が見込めなかった患者さんにも、新たな選択肢として注目されています。ただ、世界に比べて日本での処方率は低いので、導入施設の拡充が課題にもなっています。そのほか、外来通院の患者さんはクリニックからの紹介患者さんも多く来院されています。
診療の特徴について教えてください。

統合失調症、躁うつ病、各種依存症、認知症など、さまざまな精神疾患の診断と治療を行っています。特に依存症治療では、アルコール健康障害・薬物依存症・ギャンブル等依存症の依存症治療拠点機関にも指定されており、地域における包括的な体制づくりや依存症への理解を深めるための普及啓発活動にも取り組んでいます。重度の認知症治療に対しては、入院治療で対応し、施設に適応できるように治療を行っています。その人らしさを知り、持てる力を最大限に生かしたケアを実践しているのが特徴ですね。ユマニチュードケアも行える医師や看護師、心理士、精神保健福祉士、作業療法士、薬剤師など多職種がカンファレンスを重ねながら治療を進めています。軽度の認知症についても、外来で進行を遅らせるためのお薬も処方していますので、気になる方は遠慮なくご相談ください。
思春期・青年期を対象とした外来もあるそうですね。

精神疾患の半分以上が思春期までに発症するといわれ、早期介入できるかどうかが予後に大きく影響します。症状が出始めてから治療を開始するまでの期間が長くなるほど、その後の社会適応が難しくなるというデータもあるため、学校に行けないとか、家にこもりがちなどの症状があれば、早めに受診してください。県外では思春期の患者さんの初診予約が半年先になるなど早期治療が難しいのが現状ですが、当院では予約も比較的スムーズです。児童思春期精神医療を専門とする医師も在籍していますし、思春期の患者さん専用の入院スペースもあります。最近は、学校や職場に適応するのが難しい方も多く、放置すればうつ病になる恐れもあるので、思春期と言わず小学生でも気になる兆候があれば、早めの受診をお勧めします。近年はスマホ依存などもマスコミで取り沙汰されていますが、どのような症状であってもエビデンスに基づいた適切な診療を心がけています。
先生の診療モットーや今後の展望について教えてください。

精神科は検査数値などの客観的な指標で診断されるわけではないので、ガイドラインにあまり沿っていない治療も多い診療科です。私自身はガイドラインの普及活動もしていますので、標準的なエビデンスに基づく治療を重視しています。もちろん、同じ病名でも一人ひとり症状は違いますから個別性も大切です。ガイドラインと個別性を両立させることが重要ですね。また、生活習慣病などで薬の種類が多いことが問題になっていますが、精神科でも薬の種類がどんどん増えていくことは多々ありますから、薬物療法についてはできるだけ種類を抑えるよう心がけています。政策医療の研究にも参加しているほか、今後はアプリを用いた治療や治療補助アプリの開発などにも携わりながら、先進的な医療にも積極的に取り組んでいきたいと考えています。

鬼塚 俊明 院長
1991年九州大学医学部卒業後、九州大学精神科神経科に入局。米国留学を経て九州大学病院にて診療、研究、教育に20年間携わる。統合失調症、気分障害、てんかんに特化した外来および発達障害の診断・評価、セカンドオピニオンなどに従事。森田療法や行動療法など精神療法のトレーニングを重ね、心理療法にも精通。現在、精神科治療ガイドライン普及プログラムの研究のメンバーとして、治療ガイドラインの普及に注力する。





