羽島市民病院
(岐阜県 羽島市)
山田 卓也 院長
最終更新日:2022/12/05
市民目線で急性期から慢性期まで全般に対応
岐阜県南部の木曽川、長良川に囲まれた三角州に位置する羽島市。「羽島市民病院」は市の公立病院として1955年に開設されて以来、主に急性期医療を担い、地域に貢献してきた歴史がある。2014年より地域包括ケアシステムへの貢献を行動指針の一つに掲げ、地域包括ケア病床を開設、急性期医療を終えた患者の回復期を支える役目も果たしている。内科、外科とも満遍なく診療科をそろえ、同院ができる治療は同院で、より専門的な治療は大規模病院へ迅速に紹介するなど役割分担を徹底し、的確な医療が市民全体に行き渡るよう努めている。「6万7000人の市民のためには当院のような小さな規模で、全般的な診療ができ、どなたでも来やすい病院は必要だと思っています」と山田卓也院長。その目線は優しく常に市民に向いており、「小さなことです」と謙遜するが、患者の意見をもとに駐車場の1台分の枠を広げたり、トイレの改修を行ったりしてきたこともある。「これからも当院の規模に合った診療を行い、地域の皆さんの健康を守りつづけたい」と穏やかに話す山田院長に同院の特徴についてさまざま聞いた。(取材日2022年11月9日)
これまでの歩みや地域における役割について教えてください。
当院は昭和の半ば、1955年に羽島市国民健康保険直診羽島病院として開設されました。長らく急性期医療を中心にしてきましたが、地域の高齢化もあって急性期医療を終えた方々の受け皿をというニーズもあり、自宅や社会に復帰するまでの回復期や介護への橋渡しといったことにも力を入れるようになりました。数年前より全281床のうち一般病床と地域包括ケア病床を半分ずつぐらいの割合で運用してきています。公立病院として市民の方への適切な医療提供、健康管理はもちろん、健康維持のための啓発活動を行ったり、最近では新型コロナウイルス感染症専用の病床を設けたりとさまざまな役割があります。24時間体制の二次救急病院として救急搬送受け入れも多くあるのですが、当院で対応困難な重篤な症例の場合は岐阜大学医学部附属病院、大垣市民病院、松波総合病院などに送っています。
病院との連携がしっかりされているのですね。
当院ですべて抱え込むのではなく、より専門的な治療が必要な場合は高度急性期病院にお任せすることが大事だと思います。そして超急性期、急性期医療を終えられたら、また当院でお迎えするという体制ですね。急性期治療を終えてすぐ退院し自宅で生活するということは難しく、当院のように回復期を過ごしていただく病院も市民にとっては必要だと自負しています。また病病連携に加えて開業医さんとの病診連携も大事にしており、勉強会を一緒に行うなど顔の見える関係づくりに努めています。当院の総合受付前には市内はもとより岐阜市南部や安八郡のクリニックの情報をプリントした紙を置いてご自由に持ち帰っていただけるようにしているんですよ。地域連携室のスタッフも8人とこの規模の病院にしては多いと思います。さらに福祉分野とのネットワークも重視しており、皆さんが安心して長く生活するための体制づくりに貢献していきたい考えです。
診療科の特徴としてはどんなことがありますか?
内科・外科にわたり豊富な診療科をそろっているので、市の公立病院として全般的に診られる環境を整えています。ただ、医師の数については、5~6人いる科もあれば、1~2人しかいない科もあり、すべての診療科で専門的な治療に対応できるわけではありません。それでも2021年に私が就任して以降、10人ほどの医師が増えています。例えば婦人科では腹腔鏡手術が得意な医師が着任し、岐阜県南部では対応している医療機関が少なかった子宮内膜症などに対する低侵襲の腹腔鏡下手術も行えるようになりました。整形外科では膝関節専門の医師が加わったことで人工関節置換手術の患者さんが増えています。脳血管内治療の医師も増員されましたし、麻酔科の医師も常勤となりました。また、耳鼻咽喉科に「音声」に特化した外来があることも特徴で、岐阜大学医学部附属病院はじめ岐阜県各地から咽頭がん手術後の方などの紹介患者さんを受け入れています。
病院の雰囲気や職員の方々についても教えてください。
都市部とは違ってのどかな地域だからでしょうか。患者さんも穏やかな方が多く、同様にスタッフも優しくて相手の立場に立って考え行動できる人がそろっていると思います。私は2011年から当院に勤務していますので職員はほぼ顔見知り。何かあれば良いことも悪いことも直接職員から言ってもらえるような関係ができていて、風通しの良い職場ですね。看護師などコメディカルスタッフは、病気を中心に観察する医師よりも患者さんに近い存在です。ですからまず医療のプロフェッショナルの知識や技術など基本をしっかり持ち、その上で、人としての温かさや思いやりを忘れず患者さんに接してほしいと思っています。それらがきちんとできてこそ真のプロであり、患者さんとの信頼関係も築けるでしょう。医療プロフェッショナリズムとは何か、自分は何ができるか、また病院の方向性は、など職員に対しては毎年アンケートで問いかけ、考えてもらっています。
今後の展望についてお考えをお聞かせください。
これまでどおり病病連携、病診連携のもと、急性期から回復期、介護まで切れ目なく患者さんを支え、どなたでも気軽に相談できる、羽島市民のための病院でありたいです。「地域政策医療」といって救急医療、回復期医療、災害医療、小児医療など、公立病院として行政が求める医療を地域に合わせて提供する役割も全うしていきたいですね。実は収益面を考えれば難しい分野もあるのですが、地域にとって必要不可欠な医療であり、当院が対応していくことが責務だと思っています。羽島市に限らず日本のどの地域でも大きい病院だけでは医療が回っていきません。繰り返しになりますが、大きい病院、小さい病院それぞれ役割を分担し連携してこそ、皆さんの健康を守れるのだと思います。当院はこれからも6万7000人の羽島市民のための病院という立ち位置を軸に、職員一同、全力で頑張っていきたいです。
山田 卓也 院長
1988年岐阜大学医学部卒業。同大医学部附属病院医員となり、岐阜赤十字病院、郡上中央病院、美濃市立美濃病院などに勤務、数多くの消化器外科手術に携わる。岐阜大学大学院医学系研究科地域医療医学センター教授などを経て2011年羽島市民病院に赴任。外科兼消化器外科部長、副院長を歴任し2021年4月より現職。現在は外来メインで診察にあたる。日本消化器外科学会消化器外科専門医。専門は肝胆膵領域。