医療法人社団富家会 富家病院
(埼玉県 ふじみ野市)
富家 隆樹 理事長
最終更新日:2025/04/11


「されたい医療・看護・介護」を追求
1980年に設立された「富家病院」は、重度慢性期医療の患者を積極的に受け入れている慢性期医療に特化した病院。急性期病院での治療後も継続的な医療ケアが必要な患者や在宅復帰をめざす患者の受け皿となり、地域医療に貢献している。先進の医療機器を活用し、「あきらめないリハビリ」をスローガンに掲げ、慢性期であっても1ミリでも良くできるような治療・ケアをめざしている。富家隆樹理事長が母である先代から同院を継承した1999年に、同院での身体拘束・抑制廃止を宣言。2009年に抑制ゼロを達成して以来、15年後の現在もその取り組みを維持継続して いる。患者一人ひとりの人生の「物語」を大切にし、患者や家族とともに物語を作っていく「ナラティブホスピタル」として、患者の人生に寄り添う同院。「当院の理念である『されたい医療、されたい看護、されたい介護』を追求し、当院に関わるすべての皆さまを笑顔にしていきたいと思っています」と語る富家理事長に、革新的で多彩な機能を持つ同院について話を聞いた。(取材日2024年9月9日)
病院の特徴について教えてください。

当院は1980年に先代である私の母が立ち上げた、病床数281床の療養型病院です。私は大学卒業後、帝京大学第二外科医局に入局し外科の医師として研鑽を積み、1999年に院長に、2004年に理事長に就任しました。現在、富家グループ内には千葉市稲毛区の「富家千葉病院」のほか、特別養護老人ホームやサービスつき高齢者向け住宅、在宅支援サービスなどの施設があり、慢性期医療を必要とする方々にグループで連携し多様なサービスを提供しています。グループ全体で「されたい医療・されたい看護・されたい介護」を理念に掲げ、医療と看護、介護までをシームレスに支援しています。そして、当院の最大の特徴であり、私自身が最も誇りにしている取り組みが、身体拘束・抑制の撤廃です。院長就任直後から「身体拘束・抑制ゼロ」を目標に取り組みを始め、2004年12月に当院での抑制ゼロを達成。現在もゼロを維持継続しています。
「ナラティブホスピタル」の取り組みについて教えてください。

「ナラティブ」とは英語で「物語」を意味します。当院では、患者さまの病歴だけでなく、これまでの人生の物語を知ることが大切だと考え、ご本人・ご家族とともに新しい物語を作っていく取り組みを行っています。この取り組みを始めるきっかけになったのが、ナラティブホームの提唱者である佐藤伸彦先生の著書との出会いでした。私が当院で診療し始めた当初は、「慢性期病院=いつ亡くなってもいいような患者さんばかり」という偏見が強く、私の母が命を懸けて作り上げた当院がそのような施設であるわけがないと強く思う反面、その偏見を払拭するためにはどうすれば良いのか、悩んでもいました。そこで佐藤先生の著書を参考に、患者さま一人ひとりが持つ物語を大切にし、それを中心に医療を組み立てていく「ナラティブホーム」の考え方を、私たちの病院でも取り入れていくことにしたのです。
具体的にはどのような取り組みをされているのですか?

患者さまごとに「ナラティブノート」を用意し、ご本人やご家族、スタッフが日常の出来事などを記録します。例えば、ある患者さまのナラティブノートには、介護スタッフが「はっきりした言葉で『おはよう』と言ってくださいました。うれしくて他のスタッフに報告しました」と書き込んでいます。このように、寝たきりになればそこで人生が終わるわけではなく、周囲にいる人たちが共有していくことで、その患者さまの物語を進めていくことができると考えています。また、当院には患者さまの写真が壁一面に飾られた「ものがたりの階段」もあります。写真は退院したり亡くなったからといって取り外すことはなく、私の母も当院で看取りましたので写真を飾っています。写真の中の患者さま・ご家族の笑顔を見ると優しい気持ちになり、私が院内で最も好きな場所です。
どのような患者さまが多いのでしょうか?

人工呼吸器や人工透析、気管切開の患者さまをはじめ、医療度の高い患者さまや重度の認知症など、重度慢性期患者さまを積極的に受け入れています。中には完治が難しい病気の方もおられますが、当院では良くなることを1ミリも諦めず、より高度な慢性期医療の提供をめざしています。そのため、24時間持続的に痰を吸引する自動喀痰吸引器や、動脈血酸素飽和度を一括管理できるサチュレーションマルチモニター、気管カニューレのカフ圧を自動調整する機器など、多数の先進の医療機器の活用や歯科衛生士による口腔ケアなどを取り入れ、誤嚥性肺炎などの合併症予防や身体機能の向上に努めています。また、2016年に物忘れの外来を開設し、自宅や施設での生活が難しくなった場合には認知症コントロール入院を行っています。
最後に、地域の皆さんにメッセージをお願いします。

当院では「あきらめないリハビリ」をスローガンに、理学療法士らが365日3交代制で患者さま一人ひとりの病状に合わせたリハビリテーションを提供しています。また、人工呼吸器装着など医療度の高い患者さまでも、車いすに乗ったまま乗車できる「ナラティブバス」を導入。例えば春には車窓から桜を楽しんでいただく花見ツアー、秋には紅葉狩りなど毎日患者さま、入居者さまを乗せて走り回っています。これからも、私たちの理念である「されたい医療、されたい看護、されたい介護」を追求し、当院に関わるすべての皆さまを笑顔にして、世界を変えていきたいと思っています。そのためにできると思われる最善の医療環境の整備に努めてまいります。今後とも富家病院をよろしくお願いいたします。

富家 隆樹 理事長
1991年、帝京大学医学部卒業後、同大学第二外科に入局。1999年医療法人社団富家会富家病院院長就任。2004年同法人理事長就任。「ナラティブホスピタル」の取り組みに注力。日本慢性期医療協会常任理事、埼玉県慢性期医療協会会長、帝京大学医学部教育センター臨床准教授などを務める。