東京慈恵会医科大学附属柏病院
(千葉県 柏市)
吉田 博 病院長
最終更新日:2024/05/09
患者に敬意を持って接し人間中心の医療を
東葛北部エリアの急性期医療を担っている「東京慈恵会医科大学附属柏病院」。地域住民の最後の砦となるために高度な医療を追求しながら、生活の質の維持・向上に寄与する治療や手術などを数多く手がけ、地域を支えている。2022年から病院長として同病院を率いているのが吉田博先生だ。吉田病院長は「“患者を診る”慈恵の心とともに、急性期医療を推進し地域医療に貢献する大学病院」というビジョンを掲げ、地域に暮らす誰もが「ここなら安心して診察を受けられる」と思える病院づくりにまい進している。内科の中でも、特に脂質の代謝や動脈硬化を専門とする吉田院長は、診療の傍ら、中性脂肪やコレステロールについてわかりやすく解説したリーフレットの作成や情報サイトの監修など、正しい知識の啓発にも熱心に取り組んでいる。同院の強みや地域医療への思い、また、脂質代謝の研究者としての展望についても語ってもらった。(取材日2024年1月26日)
こちらの病院のビジョンについてお聞かせください。
当大学には「病気を診ずして病人を診よ」という建学以来の理念がありますが、より具体的に伝わるよう「患者さんの思いに応える教育、研究、医療を!」というスローガンを策定しています。これを踏まえて当院としては「“患者を診る”慈恵の心とともに、急性期医療を推進し地域医療に貢献する大学病院」というビジョンを掲げています。慈恵の心というのは患者さんお一人お一人に敬意を持って接することを意味しています。それは職員同士でも同じことで、相手の立場に立って考え、人間中心のチーム医療の実践をめざしています。また当院は、東葛北部医療圏で救命救急センターを持つ病院でもあり、急性期医療でも重要な役割を担っています。また地域の方々とのキャッチボールも大切にしています。地域での医療連携や、市民の方々に向けた健康診断、予防医療、啓発活動など地域に貢献できる病院でありたいと思います。
先生は循環器内科や脂質代謝がご専門と聞きました。
脂質代謝や動脈硬化、循環器内科学、老年医学、臨床栄養学などを専門にしています。中でも脂質については啓発活動なども行っています。中性脂肪やコレステロールは健康診断の数値が高くても放置してしまう方がとても多いのですね。そのままにしておくとやがて動脈硬化が進行して重篤な病気を引き起こすリスクが高くなります。そのようなことにならないよう脂質の基本的な知識を持ってもらいたいと思い、リーフレットを作って患者さんにお見せしながらお話ししています。説明の際は、わかりやすくしようとすると、かえって本質から離れて誤解される場合がありますので、より身近で具体的な例を挙げながら話すようにしています。診療の傍ら、脂質に関する研究にも取り組んでいます。今は、善玉コレステロールが持つ本来の働きを質的に評価する方法の臨床応用や実用化に向けて研究を進めているところです。
各診療科での新しい取り組みや強みなどについて教えてください。
当院は、急性期医療を担っていることもあり外科領域が60%強、内科領域が40%弱となっています。内科領域では虚血性心疾患に対する冠動脈カテーテル治療や骨髄移植など先進的な医療を提供しています。外科では、身体的・精神的に患者さんの負担の少ない低侵襲手術を数多く行っています。例えばロボット支援手術。低侵襲の腹腔鏡手術にロボット技術を組み合わせた術式で、さらに侵襲が少なく入院期間を短縮できる利点もあります。従来のロボットに加えて最近「触覚」を持つ新たな手術支援ロボットも導入しています。また、高画質の心・血管エックス線撮影装置と手術室を組み合わせたハイブリッド手術室も整備しており、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)と呼ばれる大動脈弁狭窄症に対する先進の治療に取り組んでいます。他に眼科や耳鼻咽喉科、整形外科などでは生活の質の維持、向上をめざす手術も各種行っています。
これからどのような医療領域を重視していこうとお考えですか?
今お話しした経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)は、高齢で開胸手術が難しい方や合併症がある方に対しても行える治療法です。今後もこのようにご高齢の方でも受けていただける低侵襲の医療に取り組んでいきたいですね。また、小児科医療も大切です。柏市と流山市は若い世代の流入が増えていて子どもたちが増えています。ただ小児医療は当院だけで行えるものではなく、地域全体でチームとして取り組む必要があるため、今はその仕組みづくりについて議論を重ねているところです。地域医療において、高齢者医療、小児医療は重要な位置を占めますが、20歳から65歳までの生産世代に向けた医療も重要だと考えています。働く世代は、高齢者を支える一方で子どもたちを育てなくてはいけませんし、さらには自分たちの生活もある。いわば三重苦の状況に置かれています。健康診断も含め、この世代の方々の予防医療にも積極的に取り組んでいく必要があります。
病院長として、また研究者として今後の展望をお願いいたします。
より良い医療の実践のためにはやはり人材育成が重要です。その人が努力していることをきちんと見て評価してあげることが大切です。また10年後のあるべき姿を想定して、その実現のために1年1年何をしていくべきか考えることも必要で、そうした視点を持って若手の医師やスタッフにお話ししています。また、より一層の地域医療連携のネットワークの構築を図っていこうと考えており、そのための医療DXの活用にも取り組んでいきたいですね。研究者としては、先ほどお話しした生産世代の予防医療に対する研究として、脂肪肝関連疾患に対するヘルスケアシステムの指針策定や開発に取り組んでいます。日本人の死亡原因の1位、2位であるがん、心疾患のそもそもの発端の一つとして実は脂肪肝の可能性があり、脂肪肝は肝臓がんだけでなく他のがんや脳卒中なども引き起こします。数年後に研究の成果がかたちになって次世代の予防医療に寄与できればと思っています。
吉田 博 病院長
防衛医科大学校卒業、同大学校医学研究科修了。東京慈恵会医科大学附属柏病院にて中央検査部診療部長や副院長を歴任。2022年より現職と総合診療部長を兼任。慈恵大学理事、東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座教授・同大学院代謝栄養内科学教授。専門は内科、循環器内科、脂質代謝、動脈硬化など。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本専門医機構認定臨床検査専門医 、日本老年医学会老年病専門医。