千葉県こども病院
(千葉県 千葉市緑区)
皆川 真規 病院長
最終更新日:2024/06/20
県内の小児医療の中心的役割を担う専門病院
1988年の開設以来、千葉県内の小児の専門医療機関として多くの子どもたちに向き合い、「疾患とともにどう生きるか」を考える患者や家族に並走してきた「千葉県こども病院」。千葉大学小児科を経て2011年から同院の内分泌内科をけん引し、2024年から病院長に就任した皆川真規先生は、「専門家たちが多職種チームを組み、知恵を出し合って1人の子どもと向き合えることが最大の強み」と語る。医療は日進月歩で進化しているが、医療で根治をめざせる疾患は限られる。人工呼吸器や経管栄養の発達によって穏やかに家族と過ごせる子どもが増えた一方、先天性の疾患と向き合い続ける未来に不安を感じる患者や家族も少なくない。同院は、社会の変化や医療の役割を常に問いながら、専門家の力を結集した高い水準の医療をめざしている。「子どものための専門病院を名乗る以上、どの科もまんべんなくハイレベルであるべき」と話す皆川先生に、同院の特徴について話を聞いた。(取材日2024年5月14日)
千葉県内の小児医療を専門とする病院だそうですね。
当院は、千葉県の小児医療の中心的役割を担う専門病院として1988年に開設されました。以来、重い先天性疾患や小児がんなど、一般のクリニックや病院では対応が難しい疾患に対する高度で専門的な医療を提供する病院として千葉県の小児医療を支えています。小児の先天性疾患では、1つの疾患に関連してさまざまな疾患を併発しているケースが少なくありません。こうした場合、どこか1つ突出して優れた診療科があるよりも、あらゆる診療科で質の高い専門医療を提供できるような体制をもち、かつシームレスに連携できる環境があることが重要になってきます。当院には内科系・外科系の専門診療科が全部で22科存在し、必要に応じて柔軟にチームを組んで治療にあたっています。また、県内の小児の二次・三次救急を受け入れ、各診療科が集中治療部門と連携して新生児疾患(NICU)や重症患児(PICU)に対応しています。
チーム力が強みの病院なのですね。
そのとおりです。医師や看護師のみならず、お子さんや家族の心理社会的サポートを担当する専門のスタッフやソーシャルワーカー、薬剤師、栄養士などの多くのコメディカルスタッフが連携してチームであたっています。例えば私の専門である内分泌内科で糖尿病のお子さんを診る場合、栄養指導を行う栄養士、服薬の指導やインスリン注射の仕方の確認などを担う看護師との連携が不可欠です。当院では、お子さん自身が医療の中心でいられるよう、チャイルド・ライフ・スペシャリストという心理社会的支援を行う専門のスタッフも活躍してくれています。成人の場合は細分化されることが多い食道・胃・十二指腸・小腸・大腸などの消化管と、肝臓・胆嚢・膵臓などをひとまとめに診る小児消化器部門もチーム医療の典型例ですね。小児内科と小児外科がタッグを組み、得意分野を生かして潰瘍性大腸炎やクローン病といった難病などを治療してくれています。
成人への移行期医療についてはいかがですか。
完治が難しい先天性疾患や、慢性疾患を持つお子さんが大人になり、引き続き医療が必要になる場合、社会で生きていくための準備が必要です。当院では、病気がわかったときから家族への成人移行支援を開始し、10~12歳ごろにはお子さん自身が病気と向き合い、自分でできることを増やせるよう支援していきます。外性器・内性器が非典型的である性分化疾患のお子さんもその対象です。当院は性分化疾患診療の中核的施設として積極的に治療を行っており、泌尿器科、新生児部門、遺伝を専門とする医師、カウンセラー、看護師、助産師がセクシュアリティ支援チームとして検査・治療にあたるほか、年齢に応じて疾患の理解を深め、本人が自分自身を受け入れられるよう支えていきます。
地域との連携も大切ですね。
そうですね。地域のクリニックや小児科のある病院との連携はますます強化していかなくてはなりません。どんな症状であれば当院で受け入れられるのか、当院ではどのような小児医療を提供できるのか、勉強会などを通じて情報共有していく必要があります。訪問診療を行う医療機関との連携も重要ですね。現在の医療環境下では、人工呼吸器を装着したお子さんも訪問診療・訪問看護のサポートを受けながら自宅で家族と過ごすことができます。お子さんとご家族の思いをくんだ医療を提供していくためにも、さらに注力していきたいと考えています。また、お子さんが将来に希望を持ち、地域の一員として自分らしく生きることができるよう、千葉県を本拠地とする野球やバスケットボールなどのスポーツチームとも交流しています。
最後に今後の展望をお願いいたします。
千葉県こども病院は、開院から36年目を迎えました。施設設備に少しずつ経年劣化が目立つようになり、医療や、医療を取り巻く社会環境の変化にマッチしない部分も見えてきています。私たちが「最後の砦」としての役割を果たしていくために、メンテナンスを含めた病院そのものの進化も検討していく時期に入ったといえるでしょう。少子高齢化社会を迎えていますが、未来をつくるのは子どもたちです。彼ら、彼女らの今とこれからのために、私たちに実現可能な最高水準の医療と保健サービスをめざし追求してまいります。
皆川 真規 病院長
1989年千葉大学医学部卒業。千葉大学小児学教室入局。千葉大学附属病院、千葉市立病院、君津中央病院、千葉労災病院で臨床に携わり、小児科医としてキャリアを積む。1995年より2年間、カナダMcGill大学に研究留学。2001年より千葉大学小児科・小児病態学の助手を務め、2011年に千葉県こども病院に赴任。2024年より現職。