東海大学医学部付属病院
(神奈川県 伊勢原市)
渡辺 雅彦 病院長
最終更新日:2023/05/15
患者第一を掲げて高度な医療を提供する
神奈川県中央部近くの伊勢原市にある「東海大学医学部付属病院」は、湘南西部、県西部、県央地域における急性期医療の基幹病院であり、多様な診療分野で高度医療を担ってきた。さらに、高度救命救急センターでは重篤な患者の受け入れ、地域がん診療連携拠点病院として悪性腫瘍の専門的な診断・治療を行うほか、先進医療にも積極的に取り組む。また、2020年2月からは新型コロナウイルスの重症患者を受け入れながら、通常の高度医療の提供も続ける診療体制を維持。その困難な状況を乗り切れたのは、「東海大学建学の理念『ヒューマニズムと科学の調和』が、職員にもうまく伝わっているからではないでしょうか」と渡辺雅彦病院長は話す。「患者さんのために何ができるか?と全員で考え、行動するチーム力が当院に根づいていると感じています。当院で開発し、先進医療の実施施設として行う各種の治療法も、同じように患者さんのための努力が実ったものといえます」。今後は地域の健康寿命延伸にも貢献したいと語る渡辺病院長に、同院の特徴や近年の動きなどを詳しく聞いた。(取材日2023年3月7日)
この病院の特徴や地域医療での役割をお聞かせください。
当院は湘南西部、県西部、県央部と広範なエリア、約200万人を対象に高度な医療を提供する特定機能病院の役割、また、伊勢原市や平塚市など身近な地域の基幹病院の役割と、多面的な役割を持っています。他の病院からのご紹介に加え、近隣の開業医の先生方からも患者さんを多くご紹介をいただき、地域で医療を完結するための重要な拠点となっています。また、高度救命救急センターは日本救急医学会救急科専門医が各診療科の医師と連携して、日々多くの重篤な患者さんの受け入れや重症熱傷や急性中毒などの受け入れにも対応しています。同センターは神奈川県ドクターヘリ事業の運用医療機関として遠隔地からの要請にも応えています。加えて、湘南西部から県央部を対象にハイリスク出産や妊婦の救急搬送に対応する総合周産期母子医療センターを設置し、2007年から地域のがん診療の中心となる地域がん診療連携拠点病院にも指定されています。
高度な医療での新たな取り組みについて教えてください。
先進医療Bとして「集束超音波治療器を用いた前立腺がん局所焼灼・凝固療法」や「自己軟骨細胞シートによる軟骨再生治療」をご提供しています。どちらも当院で開発した技術をもとに厚生労働省から先進医療の適用を受けた治療法で、前者はがんの場所や形状、大きさを高精度に診断できる手法を併用し、がん病巣を局所的に超音波で治療する方法。後者は変形性膝関節症の患者さんに、ご本人の細胞を培養して作製した軟骨細胞シートを移植し、膝関節の軟骨の修復を図る治療法です。また、2019年に「がんゲノム医療拠点病院」の指定を受け、諸条件が適合する方に保険適応となったがん遺伝子パネル検査をご提供しています。このほか、循環器内科の多様な症状に対するカテーテル治療、脳神経外科で従来は困難とされていた頭蓋底腫瘍の治療、整形外科の脊柱側弯症の治療など、他医療機関からも見学希望が多い治療です。
手術支援ロボットやCTなどの設備も更新されていますね。
2014年に導入した手術支援ロボットは、今や外科手術に欠かせないツールです。患者さんのご希望や保険適用となる手術の拡大に応え、2023年からは2台体制としました。新たに導入したCTは、非常に高精細な画像が撮影でき、エックス線量を低減させた機種で、従来は判断しにくかった肺がんなどの画像も鮮明で血管狭窄や骨融合の状況などもわかり、より適切な診断・治療に役立つでしょう。がんなどの放射線治療に用いる装置も高精度の機種を追加し、3台が稼働中で、限られた範囲への短時間照射により、被ばく量を抑えながら治療ができます。当院では機器を適切に扱える放射線治療専門の医師や技師が多数在籍し、より多くの患者さんに提供できる環境を整備しています。ハイブリッド手術室では、心臓弁をカテーテルで置き換える手術・TAVIが盛んに行われています。
病院長になられてからの感想はいかがでしょうか?
2019年の就任以降、病院経営や診療体制へのインパクトが大きかったのは新型コロナウイルス感染症の広がりです。2020年2月に神奈川県から新型コロナウイルスに感染した重症患者さんの受け入れ要請があり、当院では主要な部署の責任者が集まりその場で確認・決断しながら、新型コロナウイルス対応と通常診療を並行して行う体制を整えてきました。当院は災害拠点病院でもあり、今後も感染症や大地震を含む災害医療には力を入れたいと考えています。そうした経験で改めて感じたのは、みんなが「患者さんのために」と協力して目的をやり遂げる当院のチーム力の強さです。これも東海大学建学の理念「ヒューマニズムと科学の調和」が、職員にもうまく伝わっているからではないでしょうか。また、前述した先進医療のもとになった研究も、「患者さんにもっと良い医療を提供したい」との想いがベースである点が特徴と考えています。
病院の今後の展開や地域へのメッセージをお聞かせください。
これからも高度な医療、地域医療を大切にするのはもちろんですが、総合大学である東海大学の強みを生かし、各学部と協力したプロジェクトも進行中です。例えば健康学部とはスポーツを通じて地域の健康寿命の延伸を図るなど、ウェルネスをテーマに地域貢献をめざしています。これまでの医療は病気の治療が主でしたが、今後は皆さんが介護の必要なく長生きして、人生を楽しんでいただくサポートも大きな柱と位置づけています。このほか、体育学部とはアスリートの健康問題など、工学部とは災害時の医療に活躍するドローンの開発に取り組んでおり、これらの研究成果を地域に還元することを重視しています。地域の開業医の先生方に対しては、患者さんのことで、何か気になる点があればすぐにご紹介いただきたいと思っています。当院は開かれた病院、患者さんに優しい病院をめざしていますので、健康のことなどのご不安もお気軽にご相談ください。
渡辺 雅彦 病院長
1987年慶應義塾大学医学部卒業後、同大学病院や関連病院を経て2002年東海大学に入職。副院長を経て2019年4月より現職。人の役に立ちたいと医師を志し、診断や治療の努力が患者の笑顔に結びつくと整形外科を選択。専門は脊椎脊髄外科、関節外科分野。再生医療研究にも取り組む。モットーは「病に厳しく患者さんに優しく」。体力づくりにジムに通う。