医療法人有隣会 わかくさ病院
(埼玉県 さいたま市南区)
矢吹 辰男 院長
最終更新日:2024/12/04


外来から入院、在宅医療までを切れ目なく
1970年11月に設立された「わかくさ病院」は、29床の入院設備を擁し、併設する訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所などと連携して、外来・入院・在宅医療を切れ目なく行っている。診療科の垣根を越えたプライマリケア、通院困難な高齢者への訪問診療、がんのターミナルケアや看取りなどにも対応。疾患や病態、年齢に関わらず患者を柔軟に受け入れられる体制を整えている。2人体制となった「わかくさ相談室」では、患者とその家族の支援にも注力。地域包括センターや近隣住民からの医療や介護に関する相談も受けつけ、適切な医療や窓口への橋渡しとして機能している。2010年に3代目の院長に就任した矢吹辰男先生は、浦和育ちで地域への想いもひとしお。近隣の小学校の学校医を務めるほか、地域の医師会活動にも参加し、子どもから高齢者まで幅広い年齢層の地域住民の健康を支えていけるよう、精力的に取り組んでいる。そんな矢吹院長に、同院で展開する医療について聞いた。(取材日2024年9月6日)
貴院の歴史と現在の医療体制を教えてください。

母方の祖父が開業して今年で54年目を迎え、私は3代目の院長になります。外来診療と、小規模ですが全29床の病室での入院加療、通院が困難な方への訪問診療を3つの柱としています。外来診療では、私が担当する内科、祖父の代から勤務する永楽清人先生の小児科、松原宙先生の呼吸器内科、矢萩裕一先生の血液内科を中心としたプライマリケアを提供しています。入院は当院に通院されていた方や訪問診療を利用されていた方を中心に受け入れ、外来から入院まで一貫してサポートします。訪問診療は私が当院に戻ってきてから本格的に取り組み、併設の「ありあけ訪問看護ステーション」の訪問看護も実施し、在宅での看取りにも対応しています。祖父の時代から通院されている方が高齢となり、通院できなくなれば訪問診療に切り替えてサポートする、それが当院の役割ですね。
外来診療では地域ニーズに応える幅広い診療を行っていますね。

外来患者さんは南浦和エリアを中心に遠方からもいらしていて、年齢層では乳幼児と高齢者のほか、働き世代の方もおられます。当院はちょっとした湿疹や咳が止まらない、なんとなく痛いといった症状で気軽に来院される患者さんも多いため、専門や診療科の垣根を越えたチームワークで皮膚科や整形外科、眼科の疾患、感染症にも対応するとともに、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の管理、リウマチなどの膠原病も診療範囲にしています。新型コロナウイルス感染症のワクチン接種を行っていたことで当院を知ってくださった患者さんも増えていますね。当院で治療が難しい疾患は、「さいたま市立病院」、「JCHO埼玉メディカルセンター」など専門的な治療が受けられる病院に紹介します。また、最近はコロナ禍では難しかった顔の見える連携が復活しつつあるので、地域の医師会の活動にも参加し、これまで以上に紹介・逆紹介を積極的に行っていければと考えています。
在宅医療に対してはどのように取り組んでいますか。

当院の在宅医療は、担当する医師が外来や病棟でも診療をしているので、在宅医療が必要になれば速やかに在宅に移行し継続して診察をすることができます。体調が悪くなったら入院を、快方に向かえばまた自宅に戻るという切れ目のない医療が強みですね。最近はがん専門病院に通う患者さんなども受け入れています。在宅ケアは併設の「ありあけ訪問看護ステーション」がほぼ担い、定期的な報告や連携を欠かさず、外来の看護師が必要な情報を共有しサポートしています。訪問看護ステーションでは毎週2回スタッフミーティングを行い、より詳しい病状説明が必要、あるいは自宅介護ではもう無理というご家族がいれば、ケアマネジャーが慢性期病院や介護老人福祉施設などへの入所を見据えて対応しています。ここに市より委託されている「わかくさ在宅介護支援センター」のサービスを組み合わせ、地域包括の取り組みの一翼を担えるよう互いが協力し合っています。
理念の「徳は孤ならず必ず隣有り」にはどんな意味がありますか。

祖父が掲げた“有隣の精神”を表す孔子の言葉です。これは「徳を積めば必ずその人のもとに人が集まり、助けてくれる」というもので、医師や看護師も、自分がしっかりと医療に関わる者として患者さんに向き合って働いていれば、仲間はもちろん患者さんにも信頼され、「何か不具合があればわかくさ病院で」となる。実際、この理念は職員に浸透していると考えています。私は若くして当院を継ぐことになりましたが、先輩職員の方々からも有隣の精神で、いろいろと教えてもらいました。また外来の先生方も、患者さんに好かれる、人間としても素晴らしい方が引き続き当院で診察をしてくれています。放射線技師は長年の経験と読影技術で今も診療をサポートしてくれていますし、検査技師も検査データを解析して報告してくれます。30年以上勤務している職員も数人おり、理念だけでなく、人材の面でも開業時の思いが今に受け継がれています。
地域にお住まいの方へのメッセージをお願いします。

看護師やコメディカルも含めたチーム医療で、病態、疾患、年齢に関わらず患者さんを受け入れ、総合診療として機能することで、適切な医療や福祉につなげてまいります。当院にはご夫婦で通われているご高齢の方も多く、どちらかが先に旅立たれるケースも経験しています。そういったとき、大切な家族が亡くなった悲しみに寄り添いながらも、その方が先の人生を前向きに歩んでいけるようサポートしていければと考えています。私は浦和育ちで地域への思いも強く、現在は近隣小学校の学校医も務めています。地域には知り合いが誰もいない独居の高齢の方や経済的な問題を抱えている人、一人親家庭など、支援が必要な人がたくさんいらっしゃるので、「わかくさ相談室」を中心に、医療や介護の悩みに応え、地域全体の健康を支えていきたいです。人は本来みんな優しいもの。迷ったらハートフルかどうかを一つの基準に、日本一ハートフルな病院をめざしていきたいです。

矢吹 辰男 院長
2001年東京慈恵会医科大学卒業。2004年に医療法人有隣会理事長に就任。2010年より現職。2017年よりブログによる病院外への情報発信を続けている。急性期・慢性期の治療からの在宅医療、緩和ケアまで幅広い診療分野をカバーし、地域のかかりつけ医としての役割を果たすことをめざす。日本内科学会総合内科専門医。浦和育ち。趣味で続けるフルマラソンは完走10回。目標は100回の完走。