公益財団法人結核予防会 複十字病院
(東京都 清瀬市)
大田 健 病院長
最終更新日:2024/03/08
専門性を追求しながら幅広い医療を展開
公益財団法人結核予防会の臨床部門である結核研究臨床部が前身の「複十字病院」は1947年開設。時代とともに薬が開発され結核が減少していく中、同院では地域のニーズに応えるため、結核以外の呼吸器疾患、がん診療、生活習慣病など幅広い分野の診療を拡充してきた。歴史的に呼吸器の診療を得意とし、特に肺がん、肺気腫を含む慢性閉塞性肺疾患(COPD)、喘息、間質性肺炎の検査・診断・治療で専門性を発揮。非結核性抗酸菌症、肺炎などにも対応し、呼吸器の広い分野で高い水準の診療の提供に努めている。大腸がん、乳がんの治療にも力を入れるほか、糖尿病をはじめ生活習慣病の診療の充実を図り、結核の早期発見に取り組んできた経験を最大限に生かして予防医療にも注力。誤嚥性肺炎、サルコペニア、睡眠時無呼吸症候群の予防と早期介入にも積極的だ。診療と予防の2本柱で地域医療に貢献する同院の現在の取り組みを大田健病院長に聞いた。(取材日2024年1月12日)
新型感染症流行時は強みを生かして地域医療に取り組まれたとか。
2020年2月にこのエリアで最初の症例が発生してから、できる範囲で全力を尽くそうという方針で、数多くの陽性者を受け入れ、そのうち約半数の方に入院加療を実施しました。併設する訪問看護ステーションでも感染症対策を整えた上で活動をしていました。地域の先生とは、私が清瀬市医師会の理事を務めていることや以前からの付き合いもあり、途切れることなく良好な関係性を保っており、PCR検査のスペースも提供しました。ここ数年は新型感染症の対応に追われていましたが、5類となりようやく日常の診療に戻りつつあり、流行中は制限を設けていた呼吸器疾患の患者さんへの呼吸機能検査も、呼吸器リハビリテーションも、ようやく通常どおりに行えるようになりました。ただ油断はできないため、感染症が入り込むのを防ぎ、入ってしまったときには迅速に適切に対応して、それ以上感染が広がらないようにすることが大切だと考えています。
現在、力を入れて取り組んでいることはありますか?
当院は、清瀬地区を含む周辺地域において長年結核健診に取り組んできました。その経験を踏まえて、誤嚥性肺炎、サルコペニア、睡眠時無呼吸症候群の予防に力を入れています。誤嚥性肺炎は高齢者の死因としても注目されていますが、嚥下機能の低下を見逃さないため、健診や人間ドックの検査項目に嚥下機能検査を加え、客観的に評価。少しでも嚥下機能に衰えがあるとわかった時点で指導をすることで、嚥下機能の維持を図っています。筋肉量の減少で筋力低下を起こすサルコペニアについては、筋力低下を数値化し、早期に介入しています。睡眠時無呼吸症候群については健診で検査後、さらに詳しい検査を入院で行い、必要に応じて外来で治療を開始するか、もしくは通院しやすい医療機関を紹介しています。睡眠時無呼吸症候群は、睡眠が十分に取れないため、日中強い眠気を催します。居眠り運転による交通事故を未然に防ぐためにも、特に力を入れている取り組みです。
がん診療についてはいかがでしょうか。
新型感染症の流行中にCTやPET/CTを先端機器に入れ替え、精度の高い検査ができる環境を整えました。肺がんや乳がん、大腸がんに対し、各診療科が専門性を追求しながら治療に取り組んでいます。大腸がんに対しては腹腔鏡下の低侵襲手術を積極的に実施していますし、肺がん治療では炎症の有無や状態によって胸腔鏡下、開胸手術など適切な方法が選択可能です。乳がんについては、根治をめざすことと整容性にもこだわった治療を行っています。手術以外についても、26床の緩和ケア病棟を開設したほか、外来化学療法室の拡充や先端の放射線照射装置の導入も予定しており、切れ目のないがん診療をめざしています。当院が専門的に扱う結核は幸いなことに罹患者が減ってきています。結核病床を有する第二種感染症指定医療機関として結核の治療を継続しながらも、結核以外の呼吸器疾患や、乳腺、大腸をはじめとするがん診療を充実させていければと考えています。
がん診療以外の治療の特徴についても教えてください。
当院が得意とする間質性肺炎は、私自身も喘息とともにライフワークとし、海外のグループとの共同研究や国内の研究会にも参加し、呼吸器センター長の田中良明先生を中心とした次世代の先生たちとともに取り組んでいます。膠原病リウマチセンター長の谷口敦夫先生は膠原病に伴う間質性肺炎の診断で、放射線診療部長の黒崎敦子先生は呼吸器のエックス線画像の読影で、それぞれ高い技術を持っています。かつ、病理診断部も充実した環境のもと最終診断を行っており、層の厚い診療が実践できています。また、アレルギーの専門施設として、喘息の治療も力を入れて取り組んでいます。さらに、生活習慣病については糖尿病の先生を中心にきめ細かな診療を、認知症センターでは、新薬である初期のアルツハイマー型認知症の進行抑制を図る点滴薬についても、適応のある患者さんには積極的に対応していきたいと思います。
最後に、今後の展望や地域へのメッセージをお願いします。
当院では、病院の建て替えを前提とした新しい取り組みを進めています。その一つとして、循環器内科と整形外科を本格的に常設にし、発生頻度の高い疾患に対する診療体制を整えていきたいと考えています。循環器内科は常勤医をそろえスクリーニングをしっかりと行って適切な治療へとつなげ、整形外科では高齢者の転倒による骨折など外傷を中心に変形性膝関節症や変形性股関節症などをカバーしていければと思います。また、病院間で相互に検査結果など診療情報を見ることのできるネットワークを構築しています。東京都医師会が運営する東京総合医療ネットワークにも参加し、情報交換を積極的に行うことで協力体制の推進を図っています。複十字病院はこれまでどおり地域に密着しながら、新しい知識や医療技術をアップデートし、さらなる発展をめざして頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします。
大田 健 病院長
1975年東京大学医学部卒業。同大学医学部附属病院物療内科文部教官助手、聖マリアンナ医科大学臨床検査医学教室講師、帝京大学医学部助教授・教授、国立病院機構東京病院院長を経て2018年7月より現職。専門は内科、呼吸器病学、アレルギー学、臨床免疫学。臨床研究では長崎大学大学院医歯薬学総合研究科と連携し、同大学院教授を務める。
自由診療費用の目安
自由診療とは人間ドック/4万4000円~