医療法人社団 竹口病院
(東京都 昭島市)
康 暁博 院長
最終更新日:2025/05/29


「つなげる医療」で患者の在宅復帰を支援
JR青梅線の東中神駅から徒歩7分、静かな住宅街の中に「竹口病院」はある。開業から78年と歴史は古く、それぞれの時代で急性期治療から慢性期まで、ニーズに合わせた医療を展開してきた同院。現在は地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟からなる回復期病院として、地域の急性期病院と連携しながら治療にあたり、患者の在宅復帰を支援している。康暁博(こう・あきひろ)院長は2019年に同院に入り、副院長を経て院長に就任した。それまでは医師という肩書きがあるにもかかわらず、自ら外資系のグローバル企業に勤務していたという異色な経歴を持っている。「医師があまり経験できない企業での経験は、医療現場の問題点を客観視でき、病院機能の改善や組織改革に生かすことができていると思っています」と話す康院長。回復期病院が最も大事にする地域や医療機関、多職種との連携をどのように行っているのか。また、どのような理念を持って患者の診療にあたっているのかなど、康院長に具体的な話を聞いた。(取材日2024年5月21日)
康先生が竹口病院で最初に着手されたことはどんなことですか?

力を入れたのは病院内の組織改革です。「地域ナンバーワンの回復期病院になる」ことをビジョンに掲げ患者さまを少しでも早く住み慣れた地域・在宅にお返しするために、リハビリ、チーム医療、退院支援の3つに注力しました。それまでの機能を回復期医療に集約し「心ある、つなげる医療」の提供を基本としています。また、病院理念を一新し、「Mission(病院理念)、Vision(我々の目指す病院像)、Value(価値基準)」の3つを掲げ、その中の価値基準で患者さまへの責任、職員への責任、経営への責任の3つを明確にすることで全員が同じ考えを共有できるようにしました。さらに理念実現のためにどんな行動を起こせばよいのか、具体的なクレド(行動指針)を職員によるボトムアップにて作成しカードにして各自携帯しています。クレドが明確になれば目の前の患者さまに何をすればいいのかやるべきことがおのずとわかってくるからです。
「つなげる医療」とは地域や他の医療機関との連携のことですか?

そのとおりです。他にも回復期医療においてはチーム医療が重要ですから、多職種とのつながりを大切にするという意味合いもあります。チームで情報を共有し地域の医療機関とつながりながら、どうしたら患者さまを在宅復帰させることができるかを考えていきます。例えば、東京西徳洲会病院との連携では東京西徳洲会病院が急性期を担い、急性期を過ぎたらすぐに当院で患者さまを受け入れるという連携を取っています。2つの医療機関が一体となり治療を行うかたちです。その他に、地域の介護老人保健施設などとも連携を取っています。高齢の患者さまが疾患の治療は終えても栄養状態が良くないとか、発熱や軽い肺炎などで急性期の医療機関から紹介されてこられることもあれば、救急車で搬送されてこられることもあります。患者さまの入り口はさまざまですが、最終的なゴールはリハビリをしっかり行い、ADLを上げ在宅復帰をめざしQOL向上につなげることです。
在宅復帰のために具体的にどのようなことを行っていますか?

毎週、全入院患者さまに対して、医師も含めた多職種スタッフでカンファレンスを行っています。その中で、患者さまを多角的に捉えどのような退院支援が必要なのか問題点を出し合い協議します。地域につなげるという意味で私たちはこれを「リンクカンファレンス」と呼んでいます。また、退院したらそれで終わりではなく、退院後の生活で不安があれば訪問診療・訪問看護を行い、何かあれば24時間体制で往診に出向きます。もし緊急で入院が必要な場合は、112床ある当院の地域包括ケア病棟に受け入れ、治療を終えた後、また地域にお返しするという流れです。軽症であっても不安があればすぐに入院ができる、使い勝手がいい地域密着病院だと思っています。訪問リハビリでは、入院中に担当だったリハビリスタッフが、引き続き患者さまのご自宅に伺ってリハビリを行います。その際ゴールを明確にし、期間内までにゴールに持っていけるよう取り組んでいます。
摂食・嚥下の治療や透析入院のリハビリについてお教えください。

摂食・嚥下は、ここ数年特に注力しています。口から栄養を取ることはとても大切なことです。当院では多職種で、接触・嚥下機能を維持・回復できる取り組みを実施しています。歯科衛生士を各病棟に1人ずつ配置し、患者さまが入院したらすぐに口腔内環境をチェックします。さらに、摂食・嚥下機能を専門とした歯科医師による診察が毎週あり、患者さまの口腔内や嚥下機能に問題があればすぐに検査し、治療を行う体制を整えています。また透析患者さまのリハビリ目的の入院は、近隣以外にも23区内や都外など、広い範囲から紹介を受け入れています。当院のように、回復期病院で透析患者さまのリハビリに注力している医療機関はまだそれほど多くはありません。当院では、透析患者さまに特化したリハビリチームが患者さまの容体を把握し、透析室と連携しながらリハビリを行っています。
今後、さらに注力したい治療などがありましたらお教えください。

やはり、高齢者救急には注力したいですね。今は救急車を要請される患者さまの6〜7割が高齢者で、その人たちがすべて三次救急に集中すると地域の救急医療機能が停止してしまいます。当院には救急救命士が8人在籍し、24時間体制で救急隊やご家族からの要請で患者さまを受け入れています。救急医療も地域での役割分担が必要なので、今後も回復期病院として高齢者救急に積極的に取り組んでいきたいと思います。また、私自身は整形外科の医師でもあるので、高齢者の転倒骨折などは当院で手術治療も可能です。当院で緊急受け入れから手術治療、栄養管理も含めた早期リハビリまで行い、地域にお返しするというシームレスな医療が提供可能です。入院後すぐにリハビリを開始し、早期の在宅復帰をめざして患者さまご家族と介護サービスなどについても話し合えるメリットがあるので、今度も自分たちのリソースを最大限に生かし、高齢者救急に対応していきたいですね。

康 暁博 院長
神戸大学医学部卒業。卒業後、整形外科医師として研鑽を積み、英国リーズ大学では骨折手術に精通する教授に師事。39歳で自己成長をめざして、大手外資系のヘルスケア企業に就職。新薬や医療機器の研究開発、マーケティングから営業など、幅広い分野に携わる。2019年竹口病院に入職。副院長を経て2021年より現職。回復期病院として、運営から地域医療、高齢者医療に尽力する。