骨粗しょう症性椎体骨折に対する
体の負担が少ない外科治療
医療法人社団苑田会 苑田第三病院
(東京都 足立区)
最終更新日:2024/07/30
- 保険診療
少しずつ骨がもろくなり、日常のちょっとした動作をきっかけに重度の骨折に至る「骨粗しょう症」の患者は、非常に数多くいるとされている。特に気をつけたいのが、骨粗しょう症によってわずかなきっかけで背骨が押しつぶされるように変形して骨が折れてしまう「骨粗しょう症性椎体骨折」だ。明らかな転倒などがなくても起こるため、ただの腰痛と自己判断して治療が遅れることも珍しくない。「苑田第三病院」の星野雅洋先生は、長年にわたって骨粗しょう症性椎体骨折の治療について研究を重ね、予防を啓発するとともに低侵襲な外科的療法である経皮的椎体形成術(BKP)に早くから取り組んできたこの領域の専門家だ。手術の特徴や、そもそもの原因である骨粗しょう症の予防について話を聞いた。(取材日2024年4月1日)
目次
保存療法で効果が見られない骨粗しょう症による椎体骨折に対し、小さな傷口で痛みの改善が望める手術を実施
- Q骨粗しょう症性椎体骨折とはどのようなものなのでしょう。
- A
骨粗しょう症性椎体骨折は、骨のカルシウムが減ってもろくなったために、わずかな刺激で背骨が圧迫されて押しつぶされるように変形し、骨折してしまうものです。転倒する、ぶつけるといった明らかな要因がなくても、例えば咳をする、くしゃみをする、頭を下げるといった日常生活動作によって起こることも珍しくありません。骨の代謝を調整している女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少する閉経後の女性を中心に、運動不足やカルシウム不足、加齢によっても骨粗しょう症になり、骨粗しょう症による骨折はあらゆる人が注意すべき問題だといえます。
- Q骨粗しょう症性椎体骨折には、どんな治療をするべきですか。
- A
骨粗しょう症による骨折が起きた場合、2つの治療方法があります。1つは保存的療法です。骨折した部分をギプスやコルセットなどで固定して動かないようにし、安静にして過ごします。併せて、骨粗しょう症の治療、薬を使用し、次の骨折を防ぐことも重要です。もう1つは、保存的療法で効果が見られなかったり、効果がないと予想される場合に選択される外科的療法です。背中を大きく切開し、神経を避けながら骨折した場所を固定する方法や、背骨の両脇をわずかに切開した傷から行う低侵襲な方法があります。
- Qこちらで行っている手術について教えてください。
- A
当院はさまざまな手術に対応できますが、中でも注力しているのが先ほど挙げた低侵襲な手術である「経皮的椎体形成術(BKP)」です。BKPはアメリカで開発され、2011年から国内でも保険適用されました。骨折した脊椎の中にバルーンを入れて膨らませ、骨セメントを充填する方法です。早期の痛みの改善が期待できる上、小さい傷口で手術できるため患者さんの負担が少ないのがメリットですね。ただ、専門性の高い技術と知識が必要であるため、特定のトレーニングを積まなければ行うことができません。当院ではこのトレーニングの実施にも力を入れており、多くのドクターに治療法をお伝えしています。
- Q骨粗しょう症性椎体骨折の治療に注力する理由を教えてください。
- A
少子高齢化が進展し、いずれ現役世代と高齢者の数が同数に近づくといわれています。社会保障制度を維持するには、年齢を重ねても日常生活の制限なく生き生きと活動できる健康寿命を延ばさなくてはなりません。そのために重要なのが骨の健康です。健康寿命を阻害する大きな要因が転倒による骨折です。骨粗しょう症が進んでいると、日常のちょっとしたきっかけが寝たきりに直結する骨折の原因になりかねません。しかし、医療の介入度は半分にも満たないとされているのが現実です。そこで、骨粗しょう症による骨折治療をライフワークとして研究を続けてきました。先ほどお話ししたBKPは、保険適用となった2011年から当院で導入しています。
- Q 日頃から、骨折をしないために意識すべきことはありますか?
- A
年齢を重ねたら、定期的に骨の検査をし、必要に応じて早めに治療を始めましょう。40歳以降、特に閉経後の女性は、ぜひ検査をしてもらってください。そもそも骨粗しょう症にならないための予防を意識することも重要です。できれば、10代、20代のうちから骨密度を高める努力をしておきたいですね。カルシウムを多く含む食品をしっかり取るとともに、カルシウムの吸収を助けるビタミンDを活性化するために適度に日光を浴び、適度な運動をしましょう。もちろん、大人になってからでも、こうした食習慣や生活習慣の改善は大切です。
星野 雅洋 院長
1983年日本大学医学部を卒業後、同大学病院整形外科に入局。その後、同大学医学部附属練馬光が丘病院脊椎診療チーフ、東松山市立市民病院整形外科医長、同部長、同院診療副部長を担う。そして2006年に苑田第三病院東京脊椎脊髄病センター長へ就任、2019年には同院院長となる。医師になり最初に配属されたのが脊椎に関する診療を行う班だったことをきっかけに、脊椎を専門に研鑽を積んできたベテラン医師だ。