地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立東部地域病院
(東京都 葛飾区)
稲田 英一 院長
最終更新日:2024/07/11
小児から高齢者まで医療で地域を支える
東京東部エリアの中核病院である「東京都立東部地域病院」は、東京都と東京都医師会が共同で設立した公益財団法人東京都保健医療公社が運営する医療機関として1990年に開院し、1998年には地域医療支援病院となった。2022年には地方独立行政法人化し、がん医療、救急医療、小児医療など東京都の重点医療を中心に地域に密着した医療を展開している。2023年7月には手術支援ロボットを導入し腹腔鏡手術とともに低侵襲治療を実践。小児科や呼吸器内科の外来診療、小児外科の手術にも力を入れ、小児から高齢者まで幅広い層の医療ニーズに応えるための診療を行う。新型コロナウイルスの流行時には一般診療と並行しながら感染症患者の受け入れも積極的に行い、地域の医療機関、都立病院間の連携強化に努めた。新型コロナウイルス感染症が5類に移行し、病院の診療も平常運転となりつつある中、就任5年目になる稲田英一院長がめざすのは「ずっとここで暮らす」を実現する地域医療だ。その実現に向けての取り組みや現在の病院の様子を聞いた。(取材日2024年5月9日)
重点医療の一つ、がん医療にはどのように取り組んでいますか?
当院のがん医療の取り組みで大きなトピックといえるのが、2023年7月に外科、泌尿器科、婦人科でスタートしたロボット支援下手術です。導入以来症例を増やしており、患者さんをそれほどお待たせすることなく稼働しています。侵襲度が低いことから、高齢の患者さんが多い当院ではとても役立っています。導入に先立ち、泌尿器科では順天堂大学からロボット支援下手術の経験が豊富な医師を派遣していただき、導入間もない時から安全性に配慮した手術体制を整えました。他の診療科についても大学から指導者を招き、十分にトレーニングを積んだ上で対応しています。がん医療全体では肝臓がんや膵臓がん、肺がんも多く、幅広い治療を提供しています。手術だけではなく外来化学療法も積極的に行い、患者さんの利便性を追求するとともに、できる限り地域で完結できるがん医療をめざしています。
救急医療や災害医療についても教えてください。
救急医療では土・日・祝日も含めて小児から高齢者まで受け入れ、高い応需率の維持に努めています。東京都立病院機構全体の方針で「断らない救急」を掲げていますので、とにかくできる限り受け入れていこうという姿勢で取り組んでいます。災害医療については、地域の中核病院として、葛飾区と連携して当院を拠点にした災害診療を行うことになっており、実際に大きな災害が起こったことを想定し、東京都立病院機構でも危機管理部門を中心に机上訓練や実際の訓練を行っています。この地域はやはり水害対策が重要な備えの一つになります。水害は数日前から予想ができるので、それに対して何ができるか、BCP(事業継続計画)も含めて対応しています。また、先日の能登半島沖地震では当院のスタッフを現地に派遣し支援にあたりました。地域の災害医療はもちろんですが、DMATの隊員もいるので必要であれば全国に赴き災害医療に貢献していきたいと考えています。
小児や高齢者への医療についてはいかがでしょうか。
小児医療には非常に力を入れており、昨年の新型コロナウイルス感染症に加えてRSウイルス感染症が爆発的に拡大した際には、多くの患者さんを受け入れました。感染症の他には、内分泌疾患に特化した外来、遺伝性疾患に関するご相談、食物アレルギーの検査や入院治療など、専門性の高い診療を行っています。小児外科の診療も盛んで、順天堂大学医学部附属順天堂医院小児外科の山高篤行特任教授のご指導のもと、日帰り手術など質を重視した小児外科医療を実践。また、医療的ケア児のレスパイト入院にも対応しています。一方、高齢の患者さんは、がんの他に肺疾患も多いため、地域の先生から間質性肺炎の患者さんを多数ご紹介いただいています。また、呼吸器内科医、栄養士、リハビリスタッフによるチームで誤嚥に対する治療や、予防のための検査と指導を実施。栄養状態の改善とともに、未病の段階で病気の発症を予防し、健康寿命の延伸に努めています。
その他の診療の強みや特徴についてもご紹介ください。
消化器内科では炎症性腸疾患にも対応し、高精度な内視鏡検査や胃がんや大腸がんの粘膜下層剥離術などの低侵襲治療を実施しています。循環器内科は、冠動脈疾患の検査やPCI、ステント治療を積極的に行うほか、心不全の治療にも注力しています。ペースメーカー植え込みや遠隔モニタリングも行っております。新しい血管造影装置も導入し、より質の高いカテーテル治療に努めています。呼吸器外科では、気胸、血胸、膿胸など緊急性の高い患者さんを積極的に受け入れ、呼吸器内科と呼吸器外科が高い専門性を持って取り組んでいます。また、整形外科では、脊椎や人工関節を含む関節の手術、外傷など高齢者に多い疾患を中心に扱っています。そして、新型コロナウイルス感染症については、引き続き入院患者さんの治療にあたるほか、専門知識を持った看護師が地域の医療機関に出向き感染症対策の指導をするなど、地域全体の感染制御のレベルアップにも貢献したいです。
最後に、地域の人々に向けてメッセージをお願いします。
当院では「ずっとここで暮らす」を実現するための地域医療をめざしています。その目標に向けて、より高い医師の技術、コメディカルの力、先端の医療機器の充実でさらに診療のレベルアップを図りたいと思います。私は大学にいる期間が長く、院長就任時には一般病院でやっていけるのだろうかとも思いましたが、大切なのはサイエンティックマインドを持った医師であることであり、データを分析し現状を改善して次に進むというプロセスは、臨床でも研究でも病院運営でも同じだということを実感しています。これからも職員一同、目標達成に向けて前向きに考える姿勢で治療やケアに取り組んでまいります。駅から近くて緑が多く、家庭的でまとまりがあるのがこの病院の良さです。強い地域愛や病院愛で地域に尽くしたいと思うスタッフが多いのも特徴ですので、お困りのときはぜひお越しください。地域の皆さまから頼りにされる病院、選ばれる病院になれればと思います。
稲田 英一 院長
1980年東京大学医学部医学科卒業。マサチューセッツ総合病院で心臓麻酔の知識を深め、1990年からハーバード大学医学部助教授、研究フェロー。新葛飾病院副院長、順天堂大学医学部麻酔科学・ペインクリニック講座教授、同大学医学部附属順天堂医院副院長を経て、2020年より現職。「患者さんに痛みのない治療を提供したい」と話す柔和な笑顔からは、優しく穏やかな人柄が伝わってくる。