地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立豊島病院
(東京都 板橋区)
畑 明宏 病院長
最終更新日:2024/07/16


救急医療やがん医療を中心に地域医療に貢献
1897年に板橋町のほか8ヵ所の町村組合が創設した伝染病院を前身とする「東京都立豊島病院」。診療開始から100年目にあたる1999年に都立病院となり、2009年には公益財団法人東京都保健医療公社へ運営を移管。さらに、2023年には地方独立行政法人として組織化され現在の体制となった。医療の質の向上と安全性、地域の医療との連携を積極的に推進している同院では現在、救急医療、脳血管疾患、心血管疾患、がん医療の診療を中心に、小児、周産期、感染症、精神疾患といった「行政的医療」に注力。コロナ禍では地域で率先して、多くの患者を受け入れてきた。新型コロナウイルスが5類となりようやく本来の急性期医療を再開できるようになった同院の取り組みについて、2024年4月に病院長に就任した畑明宏先生に聞いた。(取材日2024年5月13日)
重点医療である救急医療の体制について教えてください。

当院は以前から消化器疾患の救急に強く、24時間体制で内視鏡検査・治療や緊急手術を行っています。脳血管疾患に関しても、24時間365日すべての脳卒中治療に対応できる体制であり、心血管疾患に関しては東京都CCU ネットワークに加盟し、急性心筋梗塞に対する緊急カテーテル治療や心不全の対応をしています。これらについては2次救急で受け入れた患者さんが心停止などの3次急変をしても対応できる設備と技術をそろえ、2.5次救急として機能しています。また、救急外来の看護師不足を解消するため、救急救命士の資格を持つERエイドを採用し午後から準夜勤帯に看護師や看護助手の補助にあたっています。それによって看護師の負担が軽減されています。2024年4月からは院内に勤務する救急救命士も加わり、医師や看護師の負担を減らすとともに救急医療の強化に取り組んでいます。
がん医療についてはどのように取り組んでいますか。

泌尿器科の前立腺がんと外科の直腸がん、結腸がんでロボット支援手術を導入しており、従来の開腹手術や腹腔鏡手術とともに幅広い手術を提供しています。ロボット手術については今後、胃がんなど対応できる疾患をもっと増やしてきたいと考えています。消化管がんを中心とした化学療法にも力を入れているほか、緩和医療も早期から介入しています。当院で緩和医療を受け自宅へ戻られる患者さんは緩和ケア病棟全体の約6割となっています。これは緩和ケア内科の医師やコメディカルの努力と地域連携がうまくいっているからこその結果だと思います。緩和ケア病棟は改修工事が終わり、とてもきれいになりました。庭も広く共有スペースも明るくて快適な療養環境が整備されています。また、がんの末期の患者さんの痛みに対する放射線治療については入院患者さんだけではなく、地域の先生からのご紹介患者さんも受け入れていますので、ご利用ください。
心血管疾患やリハビリ、周産期医療についてはいかがですか。

循環器内科では、虚血性心疾患に対する心臓カテーテル検査及び冠インターベンション、閉塞性動脈硬化症への血管内治療、徐脈性不整脈に対するペースメーカー治療と心房細動を含む頻脈性不整脈に対するカテーテルアブレーション(2023年1月から2023年12月までの1年間で114件)などに積極的に取り組んでいます。リハビリについては、リハビリテーション科職員の協力のもと土曜日に加えて日曜日のリハビリを開始しました。切れ目のないリハビリで早期の回復をめざしています。また、重点医療でもある周産期医療では、以前から麻酔科医が当直し24時間体制で無痛分娩(和痛分娩)を行っています。妊婦さんの食事に特別食を導入したり、大部屋は仕切りを作ることで準個室化し家具も入れ替えるなど、産前産後をリラックスして過ごしていただけるように工夫をしています。
地域医療連携についてのお考えをお聞かせください。

地域の先生からのご紹介患者さんはなるべくお断りせずお受けするほか、当院で急性期治療を終えた患者さんを受け入れていただく長期療養型病院との連携を密にすることで、途切れることなく必要な医療を提供できるようにしています。今後はDX化を推進することで、オンラインでの患者さん情報のやり取りや、MRIやCT 検査、ホルター心電図など土曜日の検査も増やしていければと思います。興味のある開業医の先生にはオンラインシステムの立ち上げのお手伝いもできればと考えています。当院が中心となり、患者さんにも地域の先生にも病院にも負担にならない医療連携が構築できればと思います。
最後に、地域に向けてのメッセージをお願いします。

豊島病院は地方独立行政法人化される前の公社病院時代から「医療で地域を支える」を理念に掲げてきました。これについては今後も変わることのない柱として、地域に貢献していきたいと考えています。この気持ちを職員で共有できるよう、私が病院長に就任してからは、ミーティングなど職員が集まる際に運営理念を唱和することを始めました。運営理念は病院がその方向に向かっていくということを示しています。豊島病院の存在意義を示すためにも、職員一人ひとりが地域医療で何ができるのか考えていってほしいと思います。それが地域の医療機関、住民の皆さんの支えになればと考えています。都立豊島病院は長い歴史の中で地域の皆さんのために機能してきた病院であり、その姿勢はこれからも持ち続けていきます。先端かつ質の高い医療が提供できる環境が整っていますので、何か不安なことや困り事があればぜひご相談ください。

畑 明宏 病院長
1988年東京医科歯科大学卒業後、東京医科歯科大学第三内科に入局。カリフォルニア大学心臓部門研究員、東京医科歯科大学循環器内科講師、葛西循環器脳神経外科病院副院長などの勤務を経て、2012年より公益財団法人東京都保険医療公社豊島病院(現東京都立豊島病院)での勤務を開始。同内科部長などを経て2024年より現職。専門は心エコー図、冠インターベンション、循環器一般。