内視鏡のエキスパートが行う
不妊治療を見据えた腹腔鏡手術
公益財団法人ライフ・エクステンション研究所 付属 永寿総合病院
(東京都 台東区)
最終更新日:2025/01/31
- 保険診療
- 子宮内膜症
- 子宮筋腫
- チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)
代表的な婦人科疾患である子宮筋腫・子宮内膜症・子宮腺筋症は、いずれも良性の病気。月経痛や月経過多などの症状が軽く、日常生活に支障がなければ治療はせず、経過観察のみになることもある。一方で、症状が重い場合や不妊・流産の原因になっている場合は、手術が勧められることが多いという。「永寿総合病院」の産婦人科では、良性疾患に対する腹腔鏡手術に注力。子宮筋腫や子宮内膜症の根治を目的とした子宮全摘出術や、子宮や卵巣を残して腫瘍だけの摘出を図る保存手術など、患者の病状や年齢、妊娠の希望の有無などを考慮して、一人ひとりに合わせた方法を提案している。産婦人科部長の小田英之先生に、婦人科内視鏡手術の実際や、同院の腹腔鏡手術の特徴について話を聞いた。(取材日2024年11月27日)
目次
体に負担が少ない腹腔鏡手術に注力。子宮筋腫や卵巣チョコレート囊胞など不妊の原因となる良性疾患に対応
- Q不妊の原因となる疾患にはどのようなものがあるのでしょうか?
- A
主に3つあります。1つは子宮筋腫で、子宮の筋層にできるこぶのような良性の腫瘍です。2つめの子宮腺筋症は子宮の筋層自体が厚くなり子宮全体が大きくなる病気です。子宮筋腫の大きさや数・位置や、子宮腺筋症の増大の具合によっては、受精卵が着床し育っていくための場所である子宮内膜が変形して妊娠率が下がることがあります。3つめが子宮内膜症です。本来、子宮内のみに存在するはずの子宮内膜と似た組織が別の場所に広がり、周囲の組織と癒着して痛みや不妊の原因となります。また、卵巣内に子宮内膜症の一種であるチョコレート囊胞(卵巣子宮内膜症性囊胞)が発生すると、卵巣機能低下につながり、より妊娠しづらくなることがあります。
- Qどのような治療法がありますか?
- A
大きく分けて薬物療法と手術療法があり、病気の種類や症状の程度、腫瘍や病変の位置・大きさ、年齢や妊娠の希望などを考慮して選択します。薬物療法では、ホルモン剤の使用により病変の縮小をめざしますが、期待できる効果は一時的です。またホルモン剤使用中は妊娠しづらくなります。手術で根治をめざす場合は病変のある子宮すべての摘出を図る子宮全摘術が選択されますが、妊娠を希望する場合には子宮を温存するため筋腫や病変のみを摘出する保存手術や、卵巣機能に配慮して病変の表面を電子メスで焼く焼灼術が選択されます。ただし、手術自体に卵巣機能を低下させる恐れがあるため、治療法や治療のタイミングを慎重に見極める必要があります。
- Q内視鏡手術について教えてください。
- A
内視鏡手術には、子宮鏡手術と腹腔鏡手術があります。子宮鏡手術は、子宮の中に細いカメラを挿入し、先端に取りつけた電気メスを使用して、子宮の中に突出した腫瘍を取り除く手術です。おなかを切らないので術後の痛みは腹腔鏡手術よりも軽く、より早期の退院をすることができます。腹腔鏡手術には、おなかに開けた小さな穴から器具を入れて行う腹腔鏡手術、ロボットアームを駆使するロボット支援下手術があります。開腹手術に比べて傷が小さいため、術後の痛みが少なく回復が早く傷痕も目立たなくなりやすいのがメリットです。また、おなかに傷が残らない経腟的腹腔鏡手術(vNOTES)という手術方法が新たに登場し、当院も導入しています。
- Q不妊治療中でも手術はできますか?
- A
婦人科疾患が不妊の原因になっている場合は手術の適応になりますが、手術自体が卵巣機能の低下につながることもあるため注意が必要です。例えば、子宮内膜症は再発リスクを考えれば病変の完全切除が理想ですが、不妊治療中は卵巣機能の温存を優先し、一部切除にとどめることも。また、子宮筋腫の手術は一般的に月経を止めてから行いますが、それが採卵数減少の要因になることもあり、不妊治療の医師と相談して月経を止めずに手術することもあります。さらに、通常の腹腔鏡手術では電気メスでの止血で卵巣が熱ダメージを受ける可能性がありますが、vNOTESは腟から卵巣を引き出し直接縫合するため、卵巣への負担が軽減されると考えられます。
- Q手術後や退院後はどのような生活になりますか?
- A
一般的に腹腔鏡手術の入院期間は術後4~5日間で、退院後も2~3週間は安静に過ごすことをお勧めします。また、腹腔鏡手術では炭酸ガスを使用しおなかを膨らませた状態で手術を行うため、術後は残ったガスの影響で腹痛が起こることもあります。しかし、vNOTESは通常の腹腔鏡手術と比べてガスの残気量が少なく、痛みも少ないといわれています。術後の不妊治療の再開は不妊治療を担当する医師の判断となりますが、体外受精の採卵は術後すぐでも問題ありません。一方、人工授精や胚移植など妊娠につながる治療は、筋腫切除の場合は半年ほどお休みします。手術を受ける場合は、不妊治療のスケジュールも考慮して計画を立てることが大切です。