地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立大塚病院
(東京都 豊島区)
三部 順也 院長
最終更新日:2023/08/22
時代に合った医療でニーズに応える総合病院
新病院の開設から30余年がたち、施設の安全性と快適性の向上を図る大規模改修工事を進める「東京都立大塚病院」。同院に1993年から勤務し、2023年に院長に就任した三部順也先生は、「この30年でさまざまなことが変わったが、変わらないものもある」と話す。変わったのは、高齢化する患者層や、日進月歩の医療技術、それに周辺環境だ。近隣には代替わりをするクリニックも増えた。一方で変わらないのは、同院の診療の根底に流れる優しさや温かさだ。「患者とその家族を思い、小さな声に耳を傾ける姿勢が全員に根づいている」と三部院長は言う。医療の本質は「人」。どんなにアメニティーが充実しようとも、「人」の力なくして経営は成り立たない。「スタッフ全員、全診療科で地域を支えたい」と話す三部院長に、同院の強みや展望を聞いた。(取材日2023年5月31日)
1929年の開設だそうですね。特徴を教えてください。
開設以来、長く地域の皆さんの健康を見守ってきた病院です。1980年に改築のため事業を停止した後、1987年に現在の新病院がオープンしました。2022年に運営母体が東京都から地方独立行政法人に変わりましたが、行政的医療を担う方針は同じです。現在は2017年に着手した大規模改修工事を進めており、充実したアメニティーのもとで新たな一歩を踏み出しています。基本的には、安全性と快適性を高めるための院内環境やアメニティーの改善が目的ですが、NICU(新生児特定集中治療室)、GCU(新生児治療回復室)については建物内の別フロアに移り、まったく新しい環境で診療がスタートしています。一般病棟では個々のスペースが広くなったほか、照明がダウンライトで落ち着いた雰囲気になりました。今後は移転後の場所でMFICU(母体胎児集中治療室)病床や分娩室を増やし、産科病棟も同じフロアに移転して周産期機能の集約化を図ります。
周産期医療は、こちらの病院が長く注力してきた領域ですね。
周産期医療は、当院の重点的機能の一つです。2009年に総合周産期母子医療センターに指定され、24時間365日体制で母体搬送・新生児搬送を受け入れるほか、超低出生体重児を含む重症新生児の診療、ハイリスク妊娠の管理や分娩などに対応し、都内全域から多くの患者さんを受け入れています。また、2010年からは、当院と地域の医療機関が連携して周産期医療を支える産婦人科地域医療連携システム「大塚モデル」の運用にも取り組んできました。大塚モデルは、当院の連携医療機関での妊婦健診で異常が見つかったり、ハイリスク分娩と診断されたりした妊婦さんを当院が引き受けることで、誰もが住み慣れた地域で安心して出産できるようサポートする仕組みです。開始当初は豊島区、文京区が対象でしたが、現在は北区、足立区、練馬区にも範囲を拡大しました。今後は、地域におけるニーズの多い無痛分娩にも取り組む予定です。
脳卒中や救急医療も強みであると伺いました。
脳卒中治療は、2020年度から脳神経内科の医師を増員し、脳神経外科と一緒に部門化して診療体制を充実させました。2019年9月から、脳卒中の治療を専門とする部門体制を確立し、急性期脳梗塞の発症後速やかに、血栓溶解療法、血栓回収療法を行えるよう多職種で対応し、患者さんの予後に貢献しています。重点医療の一つである救急医療では、二次救急医療機関としての使命を果たすべく「断らない救急」の実践に努めています。小児救急は365日行い、また総合診療基盤を生かし、全診療科が救急診療科に協力するかたちで高齢者や、難病、障害のある方などを広く受け入れています。さらに、豊島区の災害拠点病院として、災害が起きた際の専門的な医療の提供、重症者のための医療の提供に向けた準備も怠りなく進めています。
そのほかの診療科についてはいかがですか?
地域の高齢化を踏まえた医療にも注力しています。例えば、私の専門である整形外科では、高齢者に多い変形性膝関節症、変形性股関節症に対する人工膝関節手術、人工股関節手術を多く実施しています。リウマチ外科から多く学んだ関節外科の経験を生かし関節疾患治療部門を併設し、筋肉を切らない最少侵襲手術(MIS)や、術後疼痛の軽減など、早期の回復に取り組んでいます。泌尿器科では「尿路結石」「がん」「排尿障害」に力を入れ、特に尿路結石治療は日本をリードすべく先進の治療を取り入れ続けることを心がけています。白内障の手術を多く手がける眼科なども、高齢の方のニーズが高い診療科ですね。いずれも、総合病院の利点を生かし、併存疾患がある方にも安心して手術を提供できるよう、病院全体で取り組んでいきたいと思います。
最後に、展望をお聞かせください。
私自身、当院に着任した1993年から約30年にわたりこの病院の歴史とともに歩んできました。当院は2019年8月に地域医療支援病院に指定され、紹介患者さんに対する医療提供、医療機器等の共同利用を実践し、かかりつけ医等への支援を通じて地域医療を確保する病院としての役割もあります。またロボット支援手術の導入に向け、準備中です。医療技術も、当院を取り巻く医療環境も変わりましたが、地域に寄り添い、患者さんの声に耳を傾け、かかりつけ医の先生方と連携して地域を支える当院の在り方は昔と変わりません。こうした大塚病院の核の部分はこれからも守りつつ、進む時代に乗り遅れないように、最新の医療技術と知見を取り入れる努力を続けていきたいですね。改修が済んだ東京都立大塚病院は、また新たな一歩を踏み出します。全診療科を挙げて、あらゆる角度から幅広い年代の皆さんの健康を支えてまいりますので、どうぞご期待ください。
三部 順也 院長
東京医科大学卒。1993年から東京都立大塚病院整形外科に勤務。リウマチの外科的治療や人工関節置換術も多く担ってきた。2023年4月より院長就任。専門は関節リウマチ、人工関節、関節外科、脊椎外科。低侵襲による人工関節置換術の知見と経験も豊富。日本整形外科学会整形外科専門医、日本リウマチ学会リウマチ専門医。