地方独立行政法人 東京都立病院機構 東京都立駒込病院
(東京都 文京区)
戸井 雅和 院長
最終更新日:2024/06/11
がん・感染症を軸に高度医療を展開
「東京都立駒込病院」は、1879年に感染症を診る病院として生まれ、その後がんの罹患数が増加し始めた1976年からがん診療にも対応。開設150周年を目前に控えた今も感染症とがんの診療を二大基軸に据え、高齢化に伴う併存疾患にも対応できる多様な診療科をそろえて総合的な診療を行っている。2023年から院長を務める戸井雅和先生は、長期にわたって乳がん領域の医療をけん引してきたスペシャリスト。研究や臨床の豊富な経験を生かして、先進医療の推進と、患者がその人らしく生きるためのケアの充実に力を注ぐ。同院ならではの医療の強みや、患者への思いを中心に話を聞いた。(取材日2024年3月11日)
まずは、病院の成り立ちからお聞かせください。
当院は、コレラに罹患した患者を収容するための「避病院」として1879年に開設された病院です。1975年からは増加し始めていたがんにも対応するようになり、関係する各科が連携して効率的に医療を提供する機能を備えた病院として生まれ変わりました。2022年には、独立行政法人化によって独立裁量権を持つ法人となりました。現在も、感染症とがん診療が当院の診療の要であることは変わりません。感染症分野では第一種及び第二種感染症指定医療機関と東京都のエイズ診療拠点病院、がん分野ではがん診療連携拠点病院および造血幹細胞移植推進拠点病院も担っています。
感染症に対する医療体制はどのようになっていますか。
新型コロナウイルス感染症の流行時には多くの患者に対応し、全体の3〜4割の医療従事者を新型コロナウイルス感染症の対応に割いていた印象です。現在は少しずつ平時に戻りつつありますが、病院の性質上、高齢の方や合併症をお持ちの方が罹患することがないよう対策を継続しなくてはなりません。第一種感染症に対応できる医師が在籍し、ほぼすべての感染症疾患に対応できる体制を維持しているほか、次のパンデミックに備える体制づくりも進めています。また、常にリアルタイムの正しい情報に基づいて行動できるよう、海外を含めた先進のエビデンスのキャッチアップ、周辺病院との平時からの連携強化なども継続的に行っているところです。
がん診療についても、特徴をお聞かせください。
高度で侵襲性が低い治療を基本としています。2台体制で実施しているロボット手術、6台で展開する高精度放射線治療などは、治療の精度を高めつつ患者さんの負担軽減を図り、術後の復帰を早めるための取り組みの一つです。また、AYA世代のがんや難治性がん、稀少がんの診療にも積極的に取り組んでいます。中でも、72床の無菌室で行う造血幹細胞移植では、造血幹細胞移植推進拠点病院にも再選定されました。従来の抗がん剤治療や骨髄移植治療では難しかった血液がんに対してCAR-T治療も行っています。稀少がんや標準治療が難しいがんには遺伝子パネル検査を実施しています。今後は、大腸や胃、食道がんの早期発見をサポートする内視鏡AIをはじめとした医療DXに力を入れ、医師の診断能力の向上に役立てて行きたいと思っています。
アピアランスケアセンターを設立されたそうですね。
治療後の外見を含め、QOLに配慮して治療をしている点も当院の特色の1つです。会話や嚥下といった機能を失うことがある頭頸部がんや、乳房の摘出によって見た目が変わる乳がんなどは、術前と術後の変化に戸惑い苦しむ人が少なくありません。自分らしく生きる術を見失い、社会生活がうまく送れなくなる方をこれまでたくさん見てきました。こうした患者さんに対して外見を補完するケアを行い、苦痛を軽減する取り組みを「アピアランスケア」といいます。高度で専門的ながん医療を提供している当院だからこそできる総合的な支援として、アピアランスケアセンターを立ち上げました。当院では、正しい情報に基づき、治療の継続性を損なわないアピアランスケアを行うことができます。医師、看護師、院内美容室のスタッフが一丸となって、専門性を生かしたケアを提供してまいります。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
より機能的で一貫性のある治療のため、関係する診療科を1つに統合して連携を強化するセンター化を進めてきました。現在、大腸がんセンター、稀少がんセンター、乳腺センター、造血・免疫細胞治療センター、アピアランスケアセンターなどが設立されています。2024年度中には、がん、および急性心筋梗塞・拡張型心筋症、脳卒中・脳動脈瘤、慢性腎不全、肝硬変、糖尿病、高血圧性疾患を合わせた6大疾病のセンター化を完了させたいですね。患者さんの高齢化に伴って増加している、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患といった併存疾患を持つ方が適切な医療に最速でつながれるよう、各部門の診療にもさらに磨きをかけていく予定です。先進医療の実践と新しい医療法の開発を進めつつ、地域連携の強化にも努め、地域の皆さまに信頼される病院であるために努力してまいります。今後の駒込病院に、どうぞご期待ください。
戸井 雅和 院長
1982年広島大学医学部卒業。1990年よりオックスフォード分子医学研究所分子血管生物学部門ならびに同大学附属John-Radcliffe Hospital 臨床腫瘍学部門に留学。東京都立駒込病院を経て京都大学大学院医学研究科外科学講座乳腺外科学分野教授。2023年より現職。一般社団法人日本乳癌学会理事長。平時から乳房を意識し乳がんの早期発見につなげる「ブレスト・アウェアネス」を呼びかける。