国家公務員共済組合連合会 虎の門病院
(東京都 港区)
門脇 孝 院長
最終更新日:2021/11/19
高度な専門医療を強みに、全人的医療を提供
1958年、国家公務員共済組合連合会の中核病院として設立された「虎の門病院」。設立当初から広く一般に門戸を開き、先進の医療で常に時代の先を見据え続けてきた総合病院だ。2019年5月には、地上19階・地下3階建ての新病院への移転が完了。手術室、外来診療室の拡充で受け入れ体制が強化されたほか、入院施設のプライバシーと居住性も格段に向上を図った。未来に向けた設備投資を終え、さらなる発展をめざす同院を2020年4月から統括する門脇孝院長は、「臓器別の専門医療、救急医療まで、総合的に対応できるのが私たちの強み。患者さんの全身を診てQOLを重んじる全人的な医療と、高い専門性を追求した臓器別医療で、一人ひとりの人生に伴走していきたい」と話す。コロナ禍を乗り越え、さらなる高みを志す同院の現在と今後について、門脇院長に話を聞いた。(取材日2020年8月5日)
4月のご就任からこれまでについてお聞かせください。
当院は、1958年の開設以来、「医学への精進と貢献、病者への献身と奉仕を旨とし、その時代時代になしうる最良の医療を提供すること」という基本理念のもとで質の高い医療を追求してきました。移転によってこれまで以上に充実した設備・人員を生かし、診療機能のさらなる発展を図ろうという段階での院長就任でしたが、その2日前に院内非常緊急事態宣言が発出されたばかり。院長として最初の仕事は、「これまでの高度医療体制を維持しつつ、万全の院内感染対策を講じて患者さんを受け入れる」という基本方針をスタッフに向けて伝えることでした。続いて、脳卒中専用の治療室を17床まで拡大して感染者用病床を確保。一時は重症者が増えて満床となり逼迫しましたが、宣言解除後は軽症者が中心となり、第二波、第三波に備えながら従来どおりの診療が行えるようになりました。現在は「ピンチをチャンスに」を合言葉に、経営の安定化を図っているところです。
経営面では、具体的にどのような取り組みをなさっていますか。
コロナ禍で厳しい状態に置かれた病院の経営を安定させるには、より多くの患者さんを受け入れ、強みを生かして外来数、手術数などを伸ばしていかなくてはなりません。そのためには、働く人みんながビジョンを共有し、一致団結して日々の診療に取り組む意識を醸成する必要があります。そこで、副院長を筆頭に130人ほどのスタッフと個別に話し合いの場を設け、私の考えを伝えるとともに自由に意見を出してもらいました。そこから見えてきた課題を、医療連携、外来診療、入院など9つに分類し、それぞれワーキンググループをつくって具体的な戦略立案、実行に向けて動き出しています。さらに、病院全体に向けて今後の経営計画を示し、意識の統一を図りました。感染症対応で神経をすり減らしている様子も散見されたので、職員向けに相談窓口を設け、ストレスのケアが必要な人は臨床心理士に相談できるようにもしています。
診療分野では、どのような点に注力されていく予定ですか。
まずは日本人の死因の多くを占めるがん、循環器疾患に対する治療です。当院はがん診療連携拠点病院です。2019年4月にがん総合診療部を設立し、多くの診療科と多職種が連携して、患者さんの治療から退院後の支援に至るまで、がん治療を総合的にサポート。2019年に導入した手術支援ロボットは、泌尿器科の前立腺がんをはじめ外科のさまざまな分野で活用が進み、多くの患者さんに負担に配慮した手術を受けていただけるようになりました。将来的にはロボット手術センターを作り、対応範囲を一層拡充するとともに関係各部署のスムーズな連携を促していきたいです。循環器センター内科ではカテーテル治療、循環器センター外科では心臓外科手術の拠点として活動を展開しています。脳卒中センターも、SCU(Stroke Care Unit)で脳神経内科、脳神経外科、脳神経血管治療科が連携して1日24時間体制で脳卒中患者の受け入れを行っています。
地域における役割についてはいかがでしょう。
新病院は、東京都の災害拠点連携病院として、有事の際に十分な機能を発揮できるよう整備されています。災害時には、1階部分のERと講堂、医療研修施設を治療の拠点とし、トリアージを行うことになるでしょう。また、24時間いつでも災害に緊急対応できる体制を構築する上で、救急医療の強化も不可欠です。当院は長く高度専門医療を担ってきましたが、近年では二次救急医療も充実し、救急車の応需率も100%近くに向上しています。今回のコロナ禍で感染症病床を早い時期に確保したのも、当院に課せられた災害医療、救急医療という使命を果たすべきだと考えてのことでした。重篤な状態を引き起こす兆候を見逃さないことに努め、専門の医師による高度専門治療につなげることができるのは、当院の大きな強みです。臓器別の診療はもちろん、緊急時にもきちんと診られる病院として、地域に貢献していきたいですね。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
各領域のスペシャリストによる専門分化された医療は当院の最大の特徴ですが、高齢化が進み複数の疾患を併せ持つ人が増えた今、患者さんのQOLに配慮しながら全身を診る全人的医療の提供にもより積極的に取り組んでいく必要があると考えます。気になる症状がありましたら当院に来ていただき、専門的な治療や手術を行って、その後は定期的に外来を受診して状態を管理するという、1人の患者さんを総合的かつ継続的に診る流れをつくっていきたいですね。また、そうした体制を確立するには、スタッフが疲弊することなく働ける職場づくりも重要です。事務作業の無駄を省く、会議はすべて勤務時間内に終わらせる、といった環境改善を進め、働く人のストレスを少しでも軽減できるよう努めてまいります。
門脇 孝 院長
1978年東京大学医学部医学科卒業。アメリカ国立衛生研究所糖尿病部門客員研究員、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科教授、同大学医学部附属病院病院長、同大学トランスレーショナルリサーチ機構長などを経て、2020年より現職。2型糖尿病研究に従事し、メタボリック症候群、肥満症の専門家としても知られる。