医療法人社団康心会 康心会汐見台病院
(神奈川県 横浜市磯子区)
大川 伸一 院長
最終更新日:2025/07/11


地域ニーズをくみ、困り事を断らない病院に
神奈川県医師会が運営する県立汐見台病院を前身に、磯子区では数少ない総合病院として、地域に根差した診療を続けている「康心会汐見台病院」。第二次救急医療機関として24時間365日体制で救急搬送を受け入れながら、内科系から外科系まで多彩な診療科を設けて幅広い診療を提供している。地域のニーズに応える形で回復期リハビリテーション病棟や障害者病棟を備え、機能回復をめざしたリハビリテーションにも注力しているのも特徴だ。「9年前の委譲を受けて別の病院になったと思っている方も少なからずいらっしゃるようですが、運営が変わってからも、変わらず地域目線での病院運営を続けています」と話すのは、2025年4月に院長に就任した大川伸一先生。がん医療の前線で活躍後、軸足を地域医療に移して尽力を続ける大川院長に、同院の特徴や強み、めざす医療などを聞いた。(取材日2025年6月10日)
まずは病院の概要をお聞かせください。

当院は、1963年に汐見台団地の開発とともに開設された診療所を原点に、長らく神奈川県医師会が運営を担って発展してきました。2016年に県下で医療、福祉、教育など広く事業を手がけるふれあいグループの医療法人社団康心会が神奈川県から委譲を受け、「康心会汐見台病院」となったものです。公営から法人運営へと転換したことで、別の病院になったと思っていらっしゃる方も多いようですが、地域のための病院であるという基本姿勢になんら変わりはありません。「人を尊び、命を尊び、個を敬愛す」というグループの基本理念に則り、病院の少ない当エリアの中核病院としての役割を果たしています。急性期に限らず周産期、回復期と広く対応しており、横浜市立大学附属病院と横浜市立大学附属市民総合医療センター、横浜市立みなと赤十字病院、済生会横浜市南部病院など近隣病院と太いパイプを保って密に連携しています。
幅広い診療科を設けていらっしゃいますね。

「地域のための病院」であり続けるために、地域のニーズに応える幅広い対応は必須と考えています。循環器、消化器、呼吸器などの内科、整形を軸とする外科をはじめ、産婦人科、精神科、泌尿器科と多彩な科目を標榜しており、今夏には血液内科も新設予定です。高齢者の転倒による大腿骨頸部骨折などの外傷から、股関節や膝の人工関節手術などまでオールラウンドに対応する整形外科では、年間を通して数多くの手術も実践しており、整形外科疾患や脳血管疾患の方へのリハビリテーションにも注力。回復期リハビリテーション病棟に限らず一般病棟に入院中の方、外来治療中の方にも、医師や看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、医療ソーシャルワーカーらのチームによる包括的なリハビリテーションを提供しています。地域に欠かせないものとして分娩を含む産婦人科医療にも注力しており、近年では希望による無痛分娩にも対応しています。
先生ご自身はがん診療の現場で長くご活躍だったとか。

神奈川県立がんセンターに32年間在籍し、肝胆膵を中心とする消化器がんの診療と研究にあたってきました。あらゆるがんの中でも特に難治性とされる分野ですが、最初は誰かがやらねばという気持ちでした。他臓器のがんで治療実績が急速に向上する中、膵臓がんは取り残されたような状況でしたが、抗がん剤の開発にも携わり、少しずつでも予後が伸びていく様子にやりがいを持って取り組んできましたね。そこから地域医療の現場に移り、診療内容はガラリと変わりましたが、患者さんから「ありがとう」と感謝の言葉をいただく喜びを知り、新たなやりがいを実感しています。人は何のために生きるのかと考えた時に、自分のためだけではモチベーションが保てず働き続けるのは難しいものです。そういう意味で、この年になっても人の役に立つ喜びを実感でき、子どもが小さい頃に一時暮らしたこのエリアに恩返しできることをありがたく感じています。
院長として感じる課題やそれに対する取り組みはありますか?

先にもお話ししたとおり、9年前の運営委譲をきっかけに、地域の方が持つ病院への印象が変わってしまったように思えることは大きな課題であると感じています。法人運営とはなりましたが、地域へのまなざしをブレることなく持ち、ニーズに応える医療を提供し続ける姿勢であることを広く周知して、さらに多くの方に気軽にアクセスしていただける病院をめざさねばと思うのです。これは何らかの施策で一発逆転的にかなうものではなく、粘り強くコツコツと活動を続けていくしかありません。医学講座などを開催して地域の皆さんへ病院の「今」をお伝えする機会をつくり、看護部長が町内会の会合に参加させていただくなど、病院側から地域に出向いてその本音を伺うような活動もしています。今の地域ニーズを捉えられることに加え、改善すべきところが明確になる貴重なご意見などもいただける良い機会であると考えています。
今後の展望と地域へのメッセージをお願いします。

相談を受けた時に断ることのない病院でありたいと思います。当院で全ケースに最後まで対応できるわけではありませんが、検査体制も整っている以上、地域の方から「困った」とお声がかかればまずはお受けし、必要な対応へとつなげる場でありたいのです。救急車を呼ぶ前段階や、クリニックの先生方が大きな病院へと送るべきか迷うような際にもお声がけいただければと存じます。幸いこのエリアは高次病院へのアクセスも良好で、いわゆるシームレスな医療がかなう体制です。熱意を持ったソーシャルワーカーも複数おり、当院を離れて加療先を探す際にも豊富な情報を提供できます。私自身は医師人生の終盤にありますが、当院に限らず医療の現場には真面目に一生懸命に取り組んでいる医療者が数多く活躍しています。そうした人たちがやりがいを持って医療という素晴らしい仕事に邁進し続けられるよう、国の施策を含めて哲学を持って方針を見定めていきたいですね。

大川 伸一 院長
北海道函館生まれ。東京大学在学中に医学の道を志し、横浜市立大学医学部へ。1987年の卒業後は同大学附属病院、藤沢市民病院などを経て神奈川県立がんセンターに入職。胆管膵治療を中心に消化器内科の診療や研究に携わり、難治性が高いとされる同分野がん診療の進展に貢献する。2016年より同センター病院長、2020年からは湘南東部総合病院院長を歴任。2025年4月より現職。