学校法人北里研究所 北里大学病院
(神奈川県 相模原市南区)
山岡 邦宏 病院長
最終更新日:2024/12/17
大学病院、特定機能病院として役割を果たす
北里柴三郎博士を学祖とする学校法人北里研究所の付属施設で、1971年に開院した「北里大学病院」は多様な診療科を持つ1135床の病院へと発展。現在は高度医療、先進的な医療を追求する特定機能病院として地域に広く貢献している。山岡邦宏病院長は「患者さんが当院退院後も適切な医療が受けられるよう、地域の医療機関との連携を強めています」と語る。「今まで以上に連携を深めたい医療機関には私からアプローチし、顔の見える関係をもとにご相談するよう心がけています」。診療面では多様な治療法を組み合わせる集学的がん診療、難易度の高い循環器治療のほか、医療の質の向上にもつながる「医療安全」や大学病院として重要な「研究」にも力を入れる。「医療DXも視野に、この地域で少ない大規模な病床を持つ医療機関として大学病院および特定機能病院としての役割を果たしたい」と話す山岡病院長に、同院の特徴や今後の展望などを聞いた。(取材日2024年11月12日)
この病院の地域での役割や特徴をご紹介ください。
当院は1135床を持つ非常に大規模な病院で、相模原市と近隣の地域を合わせて150万人ほどの広域な医療圏から多くの患者さんを受け入れています。高度医療、先進的な医療を追求する特定機能病院であるため、一定の治療を終えた患者さんは主に回復期リハビリテーションを主体とした病院で治療を継続していただけるよう、地域の医療機関との連携も強めています。例えば当院の連携先の中でも、患者さんをもっと受け入れていただけそうな病院に私から直接アプローチし、関係を深めていくといった活動を続けているところです。こうした病院ごとの役割分担を明確にすることは、患者さんも病状に応じた適切な医療を受けていただけるメリットがあります。一方、患者さんのご紹介と受け入れ調整についてはトータルサポートを行う病診連携担当が窓口となるほか、地域の先生方が各診療科と直接連携を図られていることも多いですね。
病院運営ではどんな点を重視されていますか?
私が病院長になってからは前述した「地域連携の強化」に加え、「医療安全」と「研究」を当院の活動目標として重視しています。医療安全については、どの病院も院内で起きたうっかりやミス、医療的な問題などを報告して共有する仕組みを設けていますが、ややもすれば報告せずに隠す傾向になりがちです。しかし、同じミスを繰り返さないことは医療の質の向上にも資すること。このため当院では「報告が当たり前」となるよう職員の意識向上、報告しやすい雰囲気づくりを大切にしています。報告内容はすべて医療安全推進室が確認し、必要に応じて指導を行い、場合によっては院内の安全管理責任者で構成されたリスクマネジメント委員会でも検討します。また、研究は細胞や遺伝子レベルでの実験による基礎研究とは異なり、医療現場で得られる気づきやデータをもとに行うもので、より良い医療の実現に役立つ研究成果をめざしています。
診療面での特徴やトピックスを教えてください。
病院全体で患者さんの体への負担を抑える低侵襲治療に取り組み、ロボット支援手術は泌尿器科、上部消化管と下部消化管の外科、心臓血管外科、耳鼻咽喉科・頭頸部外科、肝臓・胆道・膵臓外科、婦人科で所定の手術が保険適用となっています。また、循環器内科と心臓血管外科では開胸せずに心臓などを治療する血管内治療、体外循環器が必要な手術など高度な治療に幅広く対応するのが特徴。心臓弁膜症をカテーテルを用いて治療するTAVI(経カテーテル的大動脈弁植え込み術)も実施可能です。整形外科は人工関節置換術を数多く行っており、脊椎側湾症手術をはじめ脊椎・脊髄分野の治療にも強みを持っています。このほか、がん診療は外科治療、薬物治療、放射線治療を適切に組み合わせ、臓器横断的に対応する集学的治療を行っています。特に薬物治療は日進月歩ですが、新しい薬は扱いが難しい部分が多く、当院ではがん診療に詳しい薬剤師が治療に携わっています。
大学病院としての役割も重視されると伺いました。
ええ、当院は学校法人北里研究所の付属施設となる大学病院の一つで、高度医療を提供するだけでなく、学生実習などの場となる教育機能と研究を行う研究機能を有します。しかも同じ学校法人の北里大学は医学部、看護学部、薬学部、医療衛生学部といった医療系学部に加え、理学部、海洋生命科学部、未来工学部を持つ「生命科学の総合大学」です。当院では医療系学部と連携した教育・研究のほか、データサイエンスを専門とする未来工学部と協力して治療に関わるビッグデータを解析する研究も検討しています。研究は当院のさまざまな診療科で取り組んでいますが、私自身は患者さん自身が病状をどう感じているかを一定の尺度をもとに回答してもらうPRO(患者報告型アウトカム)と、実際の病気とがどう関係しているかなどの研究を行っています。
それでは今後の展望についてお聞かせください。
私が2024年7月に病院長に就任して最初の3週間は、院内に80ほどある部門から現状と翌年に向けた計画を聞く病院長ヒアリングの期間だったんです。その後、8月から院内を回って各部署を見学したり話を聞いたりして病院全体のことを把握しようと努め、本当に多くの人の協力があって当院が成り立っていることを実感しました。医師や看護師のほか、さまざまなスタッフも含めて職員全員が気持ち良く働けるよう職場の環境整備を進めることが今後も大切と考えています。そのためには医療DXを進めてスマートホスピタル化することも必要でしょうし、患者さんに適切な医療機関で治療を受けていただき、当院が特定機能病院の役割に集中していくことも重要になります。これまで以上に地域連携を進めるため、地域の医療機関や地域にお住まいの皆さんへの情報発信も強化したいと思っています。
山岡 邦宏 病院長
1993年産業医科大学医学部卒業後、九州大学医学部第一内科入局。九州大学第一内科、山口赤十字病院内科を経て、2001年からアメリカのNational Institute of Healthに留学。2005年から産業医科大学第1内科学講座助手、学内講師、講師を歴任し、2014年慶應義塾大学医学部リウマチ内科准教授、2018年北里大学医学部膠原病・感染内科学主任教授。2024年7月から現職。