地方独立行政法人 三重県立総合医療センター
(三重県 四日市市)
新保 秀人 理事長
最終更新日:2024/08/07
柔軟な発想と先進性で地域医療をリードする
前身から数えて70年以上の歴史を誇る「三重県立総合医療センター」は、急性期医療の担い手として救命救急や周産期医療、感染症治療や放射線治療など先進的で専門性の求められる医療の提供に力を尽くすことで地域をリードする。四日市のみならず市内外から患者が訪れるなど、信頼を集める同院。しかし現状に甘んじることなく、「医療の価値を高める」を目標に掲げ、医療機能の適正化や医師の働き方改革にも取り組んでいる。新保秀人理事長は「医療の犠牲を減らし質を向上させることで、医療の価値を高めていきたいと考えています」と意気込む。地域医療連携にも積極的に取り組み、住民のより良い暮らしを支える同院の強み、医療にかける思いについて新保理事長に話を聞いた。(取材日2024年4月12日)
病院の成り立ちや強みをご紹介ください。
当院は三重県立医学専門学校・三重県立医科大学附属塩浜病院を始まりとし、その後県立総合塩浜病院に改称してからも県立病院の役割を果たしてきました。1994年の建物老朽化に伴う移転と併せて現名称となり、現在に至ります。一貫して四日市をはじめとする北勢地域の急性期医療を担い手としてまい進し、近年は感染症内科を新設し、放射線治療機器の導入にあたり新病棟の建設を進めるなど、今なお医療の充実・刷新を図っています。先進的・専門的な医療の提供に力を尽くす当院がとりわけ注力するのは、医療の原点でもある救命救急と、高いニーズを誇る周産期医療です。併せて近年重点的に取り組んでいるのが「医療の価値」の向上と接遇の改善です。これらは地域住民の皆さまに医療を適切に、より良い形で提供する上で欠かせないものと考えています。
「医療の価値」を高めるためには何が必要とお考えですか?
医療の質を、医療の犠牲で割ったものが「医療の価値」です。設備や医療の提供体制、接遇などがどれほど高品質であっても、それが医師などの過重労働の犠牲のもとで成り立っているのなら「医療の価値」は低くなります。裏を返せば、医師や医療に従事するスタッフの負担を減らすことは犠牲の低減につながり、それに上乗せするように提供する医療の内容や接遇面をブラッシュアップし、より良いものにできれば医療の質は向上し、その結果「医療の価値」が底上げされるといえます。犠牲を減らすため、例年多数受け入れている臨床研修医の先生方も含め、当院の診療に関わる皆さんが、無理なく働ける環境で成長できるよう病院としても体制の刷新に努めています。患者さんに価値ある医療を提供していくためにできることに力を尽くすのも、私たちの大事な使命と考えています。
力を注がれている救急医療や周産期医療の特徴をお教えください。
四日市地区では当院を含め3つの病院が輪番制で救急の受け入れに応じており、当院は年間換算で最も当番日が多く、件数も非常に多いです。市の中心近くに位置しており、断らない救急をモットーとしておりますので、できる限り短い時間のうちに搬送できるのも当院の強みの一つであり、地域住民の方の安心感にもつながっているといえるでしょう。もちろん市外からの受け入れ要請もあり、近年件数も増えています。四日市のみならず北勢地域の医療を支えるためにも、引き続き体制の見直しが必要と感じています。周産期医療に関して、全体の分娩数は減っているものの高齢出産や帝王切開、合併症の管理などハイリスク分娩は増えており、母体搬送の受け入れも珍しくありません。当院ではNICUも併設しており、妊娠・出産さらにその後も手厚く対応できる体制を整えていると自負しています。
整形外科の手術にも積極的に応じられているとか。
外科医師不足や麻酔科医師の不足などもあり、手術体制を維持できず手術から撤退する医療機関は少なくなく、当院のような大規模病院に患者さんが集中しやすい傾向にあります。特に整形外科は、入院を伴うような手術は大きな病院で、という動きが顕著で、当院でも膝関節や股関節に症状を抱える患者さんを市内外から受け入れ、手術に応じています。最近では精度アップを図るため、デジタル技術を取り入れた手術支援システムも導入し活用しています。関節は筋肉や骨と違い、鍛えることは難しいのでできるだけ悪くならないように、もしも悪くなってしまっても手術によって良い状態に回復できるようにと努めています。手術内容の充実だけでなく、近年注目されている再生医療の活用も視野に入れていく考えです。
地域に医療を提供する上で、地域連携の強化も不可欠ですね。
もちろんです。四日市地区では伝統的に医療連携が重視されており、病病連携、あるいは開業医の先生方とも病診連携の体制が築かれています。また在宅医療に熱心に取り組む先生も多く、全国的にも三重県は在宅での看取りの件数が増加傾向にあります。医療連携体制が地域の中で構築されているからこそ、自宅で最期の時間を過ごすという選択もかないやすくなっているといえるでしょう。医師同士だけでなく、時には患者さんの代表者を募って意見交換の場を設けたり、介護や福祉との連携にも取り組んだりと、さまざまな関わり合いを通して関係性を深めています。また、療養患者の苦痛軽減に放射線治療を活用するなど、当院だからこそ提供できる医療の在り方の模索にも取り組んでいるところです。今後も地域の医療をリードするべく、当院自体のブランド力向上に努めていきます。そのためにも、誇りを持って働ける病院づくりを進めていく思いです。
新保 秀人 理事長
1979年三重大学医学部卒業。同大学附属病院で研鑽を積み、1989年にはリサーチフェローとして米国ハーバード大学医学部に留学する。三重大学医学部附属病院胸部外科で講師、助教授、教授を経て、2005年には副院長に就任。2015年から三重大学副学長、三重県立総合医療センター理事を務める。2018年より現職。日本外科学会外科専門医、日本心臓血管外科学会心臓血管外科専門医。