千葉県総合救急災害医療センター
(千葉県 千葉市美浜区)
宮田 昭宏 病院長
最終更新日:2024/12/27
身体疾患と精神疾患を併せ持つ患者にも対応
東京湾を望む千葉市美浜区豊砂にあるのが「千葉県総合救急災害医療センター」だ。同センターは、 長く県内の三次救急を担ってきた「千葉県救急医療センター」と、国内で初めて精神科救急に特化した病院として機能してきた「千葉県精神科医療センター」が統合する形で、2023年11月に開院した。救命救急と精神科救急医療の両方において高度な専門性を発揮することで、県内で重要な役割を担っている。「当センターは精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者さんに対応できる点も大きな特徴です。さらに災害医療も一つの大きな柱として平時から訓練を行っています。この病院があるから安心できる、と多くの方に信頼される医療機関をめざしてさらに体制を整えていきたいですね」と話すのは宮田昭宏院長。湾岸沿いに立つ同センターは、建築の際、地盤改良工事や地盤のかさ上げを行うなど災害対策を講じ、電気設備や給水設備なども備えているという。同センターの特徴について宮田院長に話を聞いた。(取材日2024年11月21日)
病院の成り立ちについて教えてください。
当センターは、「千葉県救急医療センター」と「千葉県精神科医療センター」を統合する形で誕生した病院です。「千葉県救急医療センター」は1980年に開業し、国内でもまれな独立した救命救急センターとして第三次救急を担ってきました。「千葉県精神科医療センター」は、精神科救急に特化して1985年に開院しました。精神科病院では患者さんを長期的に病棟に入院させる形であったものを、積極的に地域に戻していこうというスタイルを進め、精神科医療としては先駆的なシステムを運用してきました。開院から30年近くたった頃、施設の老朽化への対応に加え、精神疾患と身体疾患を併せ持つ患者に対応できる医療体制の整備が重要という話が出てきました。その後、東日本大震災や熊本地震などの影響もあり、災害に強い拠点病院と同時にDPATを保有する精神科医療センターとの共同運用なども期待され、最終的に両病院が統合されました。
病院の特色としてはどんな点がありますか。
前身の救急医療センターでは、病院全体で救命への意識が高く各診療科の垣根があまりないこともあり、看護師やコメディカルも含めて効率的な運用が可能でした。この歴史を継続して当センターでも新しい医療機器やスペースを利用して先端的な救急医療を提供していきたいと思います。例えば、当センターでは県内でも早期にハイブリッドERを導入しました。これにより患者さんを移動させることなくCTや血管造影装置などで状態を確認しながらすぐに治療を始めることができ、最重症の心肺停止や、外傷、大血管疾患による出血性ショックなどの救命率の改善につながることが期待できます。また、一刻を争う虚血性脳血管障害に対しては24時間対応の血栓回収術が可能です。当センターにはリハビリテーション室もあり、心臓リハビリテーションなどにも力を入れています。さらに切断肢や顔面外傷も依頼が多く術後は外来での作業療法も含めた治療にも対応しています。
精神科医療ではどのような特徴がありますか。
精神科医療センターにおいてこれまで進めてきた精神科救急医療と、精神疾患をお持ちの方が地域の中で共存できるシステムを引き続き運用していきたいと考えています。当センターの4階には行政機関である千葉県精神保健福祉センターが併設されており、福祉と医療の円滑な連携をめざしています。精神科医療でこれまで以上に期待される点は、身体と精神科の合併疾患への対応だと思います。この1年を通して救急医療と精神科医療の融合はなかなか容易ではないというのが実感です。精神科の入院にはさまざまな法律的な運用の難しさもあり、スムーズに受け入れられるようにするためにはさらに院内体制を整えていくことが必要です。その一方で、単独の精神科病院では発見が難しかった、精神科の入院患者さんの身体疾患が見つかりやすくなるというメリットがあると考えています。
災害医療に対応している点も貴院ならではのことですね。
災害医療も当センターの大きな柱であり、これまでさまざまな院内・院外研修を行ってきています。自然災害だけでなく、地域を守るために花火大会などにおける局所災害を想定した訓練なども行っています。災害対応施設としては防災棟を設置し、災害時にはトリアージや除染スペース、患者さんの集積場所として利用する予定です。また、病院の広いエントランスにも医療ガスや吸引などの設備を設置して災害時の患者さんの収容場所として利用できるようになっています。3階の体育館は、災害時には精神疾患の方の一次避難所として利用する予定です。また、電気設備や上水道の備蓄などの災害時のライフラインも確保しています。海沿いということで津波を心配するかもしれませんが、浸水や液状化対策として地盤の改良・かさ上げ工事も施しています。また、ヘリコプターの運用も重視していて、屋上に加えて駐車場の一部をヘリポートとして使用できるようになっています。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いいたします。
前身の2病院が行ってきた救命救急医療と精神科救急医療は引き続き充実、発展させていきたいと思います。加えて、当センターには災害医療、さらに身体精神合併疾患への対応という大きな課題が加わりました。中でも身体精神合併疾患への対応はこれまで経験も少なく、地域の中で大きな課題であると考えています。開院して1年。融合の部分はまだまだこれからという印象ですが、救急医療、精神科医療、災害医療を一つの病院で融合させる試みはこれまでにないチャレンジであり重要なミッションだと思います。病院完成までの間、多くの方々に議論していただき、その集大成としてできあがった新しいコンセプトの病院です。小規模で機動性のある病院一丸となったメリットを最大限に生かしながら、お一人お一人の患者さんに充実した医療を提供し、「この病院があるから安心できる」と誰からも信頼される医療機関をめざして、引き続き体制を整えていきたいと思います。
宮田 昭宏 病院長
1987年千葉大学医学部卒業後、同大学医学部脳神経外科入局。千葉県救急医療センター脳神経外科、国立千葉病院脳神経外科、下都賀総合病院脳神経外科、千葉県救急医療センター脳神経外科部長、同センター診療部長、同センター病院長を経て2023年11月より現職。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。