阿伎留病院企業団 公立阿伎留医療センター
(東京都 あきる野市)
武井 正美 院長
最終更新日:2025/04/30


医療の充実で地域の人々の健康を支える
武蔵引田駅より徒歩約5分の場所で、あきる野市をはじめ、日の出町、檜原村といった周辺地域を対象に、地域医療の充実に努めているのが、「公立阿伎留医療センター」だ。高度急性期医療から慢性疾患の管理、リハビリテーション、緩和ケア、在宅療養のサポートなどまで、幅広く提供している同院。特に、がん治療や血液内科、整形外科、内科などでは専門性の高い医療にも対応している。医療DX(デジタルトランスフォーメーション)にも積極的に取り組んでおり、ペーパーレス化や電子カルテ、無線LAN環境の整備など先進の技術を導入し、医療の質の向上や効率化をめざしている。そんな同院の院長に2024年6月に就任し、「患者さんに寄り添った医療を提供することで、地域の方々に信頼され、愛される病院をめざしていきたいですね」と語る武井正美先生に、診療の取り組みや地域医療への意気込みなどを聞いた。(取材日2025年3月4日)
最初に病院の概要を教えてください。

当院は地域の公立病院として、地域医療に貢献する使命を担っています。公立病院全体に共通する役割ではありますが、私立病院のように収益を重視した効率的な運営ができるわけではありません。非効率な部分を抱えつつも、地域の方々に必要な医療を提供することが大きな特徴です。また、当院は急性期医療だけでなく、緩和ケアや地域包括ケア、回復期リハビリテーションも提供する「ケアミックス型病院」として機能しています。同時に、公立病院であっても高度医療の提供は欠かせません。当院では、先端の医療技術を地域の方々に提供することをめざし、先進的な放射線治療装置としてリニアックを導入しました。この装置の導入により、多くの固形がんや転移性がんの治療が提供できるようになりました。そして、当院の存在意義は、地域の人々に信頼されることにあります。患者さんへの対応はもちろん、医療従事者全体が誠実に対応することが求められます。
力を入れていることは何ですか?

当院の使命は、地域のニーズに応じた医療を提供することです。私自身、着任してまだ半年のため、すべてを把握しているわけではありませんが、現状で特に強化すべき分野として緩和ケアが挙げられます。がんの終末期患者さんが待機を強いられるような状況をつくってはならず、より充実した体制を整える必要があると考えています。次に、先進の医療をいち早く提供することです。血液内科では医師の体制を充実させて、白血病やリンパ腫、多発性骨髄腫の治療を行えるように体制を整えています。CAR-T細胞療法の窓口も準備しています。このような先進の治療を地域の患者さんに提供できることには、大きな意義があります。この地域では高齢者に多い骨髄異形成症候群など、血液がんへの対応が不足していたため、血液内科の診療は非常に重要だと認識しています。がん診療においては、先ほど述べたリニアックをどれだけ有効に活用するかも大切であると考えています。
シェーグレン病のための外来を開設されたとか。

その背景には、シェーグレン病(シェーグレン症候群)が、膠原病では関節リウマチの次に患者数が多く、米国では300~400万人いるといわれているにもかかわらず、治療法が確立されていないことがあります。そのため、適切な診断や治療を受けられない患者さんが多く存在しています。特に、肌の乾燥や痛み、倦怠感といった症状は、ほかの疾患と誤診されたり、気のせいとして片付けられたりすることが多く、患者さんは長期間苦しむことがあります。この地域では、シェーグレン病の専門的な医療を提供できる医療機関が不足しており、患者さんは医療難民化している状況でした。シェーグレン病は、早期に診断し適切な治療を行うことで、症状の進行を抑え、QOLを向上させることがめざせるので、認知度を向上させることが重要です。当院では、シェーグレン病の患者さんが、必要な医療を安心して受けられる環境を整備することをめざしています。
医療DXにも力を入れていると伺いました。

私が院長になる前からですが、当院では医療DXの取り組みがかなり進んでいます。例えば、ペーパーレス化の徹底が徹底されていて、実際に私の周りでも、紙の資料を持参すると厳しく指摘されるほどです。また、病院内の無線LAN環境は整備され、電子カルテとネットワークの連携もスムーズになっていて、小型タブレットでどこからでも電子カルテを閲覧できる環境を整えています。これにより、医師が自宅でオンコール対応を行う際にも迅速に行えるようになっています。地域連携も進めており、将来的には、紹介患者の情報を安全に共有できるよう、個人情報の契約を整えた上でのデータ共有システムを導入する方針です。ほかに、地域医療の課題として檜原村のような限界集落の医療提供があります。この地域では、住民の多くが救急要請をためらう傾向があり、適切な医療を受けられていない現状があります。そのため、将来的な遠隔診療の導入にも取り組んでいます。
病院を運営する上で大切にしていることを教えてください。

最も大切にしているのは、地域の方々に貢献する意識を持つことです。当院を利用している患者さんはもちろん、まだ利用していない地域の皆さんのことも考慮しながら適切な医療を提供することが求められます。ですが、当院は日本大学の関連病院であり、地域のことを十分に理解していないまま派遣されてくる医師も中にはいます。例えば、救急車で搬送されてきた患者さんが軽症だった場合、都市部では帰宅を勧めるのが一般的ですが、この地域では帰宅手段が限られる場合もあるため、柔軟な対応が求められます。このように、当院が所在する地域は東京都の中でも特殊な点が多くあるため、その特性を理解しながら診療を行うことが重要なのです。そして、患者さんに真摯に向き合い、医療従事者一人ひとりが地域への貢献を意識すること。患者さんに寄り添った医療を提供することで、地域の方々に信頼され、愛される病院をめざしていきたいと考えています。

武井 正美 院長
1980年日本大学卒業。1985年同大学大学院医学研究科臨床系内科学I課程修了。2004年同大学医学部内科学系血液膠原病内科学分野主任教授兼附属板橋病院血液膠原病内科部長。同大学医学部内科学系主任教授、同大学副学長を経て2024年より現職。日本リウマチ学会リウマチ専門医。日本大学医師会会長。NPOシェーグレンの会理事長。日本大学医学部血液膠原病内科上席客員研究員。理化学研究所客員研究員。医学博士。