大阪市立総合医療センター
(大阪府 大阪市都島区)
西口 幸雄 病院長
最終更新日:2022/08/29
大阪市民の幅広い医療ニーズに応える
「大阪市立総合医療センター」は大阪の市街地を流れる大川からほど近い、都島通沿いにある。病床数1063床で幅広い診療部門があり、その名の通り大阪市の大規模基幹病院として、高度急性期を中心に専門性に基づいた医療を提供していく体制を整える。手術支援ロボットや思春期~青年期のAYA世代専用の病棟も備え、小児医療やがん医療などを中心に難症例の患者も積極的に受け入れている。また3次救急医療機関でもある同院では、急性期の患者の受け入れだけでなく、新型コロナウイルス感染症患者の診療も両立して奮闘してきた。2022年4月に病院長に就任した西口幸雄先生は、同院の消化器外科で長く診療に従事した後、大阪市立十三市民病院で病院長を務め、このほど同院へ復帰してきた人物。「私が離れていた4年の間にも、さらに機能が充実し、多くの患者さんに対応できる病院へと進化しています」と現在の印象を語る。多くの領域で特色ある診療を展開する同院だが、取材では特に近年力を入れている分野について、現状を聞いた。
(取材日2022年7月4日)
まず、貴院の特徴や地域における役割を教えてください。
大阪市では、1887年に最初の市民病院が開院しました。そこから地域のニーズや時代の環境に応じて開院や閉院、統廃合が行われ、現在は当院と大阪市立十三市民病院の2病院がその系譜を受け継いでいます。このうち当院には多くの診療機能が集約され、がん医療をはじめ、小児・周産期医療、感染症医療、精神医療、災害医療、また地域医療支援病院として、大阪市民の健康や暮らしを守るために必要な医療を提供する体制を整えています。救急医療の面では第3次救急医療機関としてだけでなく、小児救命救急センターとしての役割も担っていますし、新型コロナウイルス感染症が拡大した時期も救急搬送の受け入れを最大限継続してきました。同時に診療内容の専門化や高度化にも取り組み、小児がん拠点病院や、地域がん診療連携拠点病院(高度型)、がんゲノム医療拠点病院としての医療も提供を行っております。
小児やAYA世代に対する診療体制が非常に充実しています。
子どもには先天性など特有の病気がありますし、同じ病気であっても子どもと大人では治療や看護の手段などさまざまな違いがあります。当院では小児医療の分野で幅広く専門的な医療を提供しています。特に小児がんは専門性が必要となるため治療に対応が可能な病院が限られてきますが、当院は小児がん拠点病院として希少ながんを専門とする医師も在籍し、大阪府内外の小児がん患者さんを広く受け入れています。また15歳から30歳代の思春期・若年成人、いわゆる“AYA世代”と呼ばれる世代の患者さん専用の病棟があるのも特徴で、治療面だけでなく進学、就職、将来への不安など、この世代ならではの悩みや問題を支援していく環境を整えています。小児病棟にはネット環境を整えた学習室もあり、ボランティアが学びをサポートすることも。また院外の団体と連携しながら、入院中でも楽しく遊べる場所や機会を設けたり、ご家族への支援にも取り組んでいます。
手術では、ロボット支援手術を活用しているそうですね。
急性期の治療では手術が主体となることが多く、当院でも全身麻酔による手術を多く行っています。また以前より腹腔鏡下手術を積極的に行っていたこともあり、ロボット支援手術を早期から導入し、現在は泌尿器科、消化器外科、婦人科、心臓血管外科、呼吸器外科などで利用されています。がんに関しては、前立腺がん、腎がん、膀胱がん、食道がん、胃がん、直腸がん、早期子宮体がんなどではロボット支援手術が保険適用になる場合もあります。2020年にはロボットを1台から2台に増やしたので、手術までお待ちいただく期間がかなり短縮されたと思います。現在は、ロボット支援手術を行う術者の育成にも力を入れており、当院の医師が他院へ指導に行ったり、全国からの見学も受け入れています。がんの早期発見が増えた今、手術精度の向上や患者さんの負担軽減が期待できるロボット支援手術の重要性は、さらに高まると考えています。
診療する医療機関が少ない疾患にも、積極的に対応されています。
あまり知られておりませんが、てんかんでお困りの患者さんは多く、数年前には自動車運転中の発作により痛ましい事故が起きて社会問題にもなりました。当院では以前から子ども、大人を問わずてんかんの治療に力を入れています。複数の診療科が連携し、薬による治療や、焦点切除術、脳梁離断術、迷走神経刺激法などの外科的治療も積極的に行います。てんかんは、適切に治療を行っていれば多くの症例で発作等のコントロールに期待ができると言われています。ただ「てんかんは治らない」と思い込み、諦めてしまっている患者さんやご家族が多いですね。また、てんかんを専門的に治療する病院が十分にないという問題もあります。そこで、当院のてんかん診療部門では遠隔地の病院とオンラインで連携する試みも新たに始めています。患者さんのQOLを高め、重大な事故を防いでいくためにも、「てんかんの治療を諦めないで」と、広く発信していきたいですね。
最後に、これからの展望をお聞かせください。
当院には多くの機能が集約され、さらに診療内容の専門化、高度化にも積極的です。現在の機能を維持・発展させながら、より多くの患者さんの診療に対応していけるようにしていくことが1つの使命だと考えています。新型コロナウイルス感染症に対しても、通常の3次救急を維持しつつ、多くの重症患者さんを受け入れてきました。また、急性期病院という役割を担っていくためには回復期や療養期の患者さんを引き受けてくださる地域医療機関との連携が欠かせません。新型コロナウイルス感染症の流行で、多くの医療機関と協力していったことから、連携がより広く、そして深くなったと感じています。今後はこのような経験や教訓も生かしながら、近年増えている突発的な自然災害にも率先して対応できる体制を、救急部門を中心に構築していきたいと考えています。
西口 幸雄 病院長
1982年大阪市立大学医学部を卒業後、同大学第1外科で研修医・研究医、また関連病院勤務やオハイオ医科大学留学などで研鑽を積む。1992年から大阪市立大学医学部で教員も務める。2001年には大阪市立総合医療センターへ入職、大腸がんを中心とした外科治療のほか栄養指導にも注力。2018年より大阪市立十三市民病院副病院長、2019年より病院長として診療の指揮を執る。2022年4月より現職。