医療法人社団天紀会 こころのホスピタル町田
(東京都 町田市)
宮地 英雄 病院長
最終更新日:2025/06/05


地域に根差し、幅広い精神科医療に対応
東京都町田市の自然豊かな環境の中で、精神科を専門に診療を行っているのが、「こころのホスピタル町田」だ。1968年の開設以来、地域に根差した医療に取り組んできた同院。現在は、7つの病棟に計378床を備え、統合失調症やうつ病、認知症をはじめとする幅広い精神疾患の急性期から慢性期までに対応している。また、地域の医療機関や福祉施設と連携したアウトリーチや身体科医療を提供する病院と連携する精神科リエゾンサービスも展開するなど、医師、看護師、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士など、多職種が連携しながら、患者一人ひとりに応じた包括的な医療とケアの提供をめざしている。「私たちは『心』の専門家として、患者さんの内面にある課題に向き合うだけでなく、生活背景や地域の特徴といった、表面からは見えにくい部分にも目を向けていく必要があると感じています」と語る同院の宮地英雄院長に、診療の取り組みや、地域における精神科医療への思いについて話を聞いた。(取材日2025年4月14日)
最初に病院を紹介していただけますか?

当院は、町田市の中でも自然に恵まれた地域にある比較的規模の大きな精神科病院として、長年にわたり地域貢献をめざし医療を提供してきました。近年では高齢化に伴い、精神の症状がある方に身体の問題が合併する患者さんも増えています。当院では常勤の内科医に加え、非常勤の内科医、整形外科医、皮膚科医が勤務し、歯科医師にも往診いただくことで、それぞれの問題に対応できるよう体制を整えています。また、7つある病棟のうち1つは急性期病棟として、主に統合失調症や双極性感情障害(躁うつ病)、うつ病など、精神症状が急激に現れた患者さんの短期集中治療を行っています。残る6つの病棟は慢性期に対応しており、長期的な療養が必要な方や、身体疾患を合併している方、認知症の方を中心に受け入れて、身体と精神の両面からのケアを重視した包括的な医療の提供に努めています。このように、幅広い精神疾患の患者さんに対応できるようになっています。
力を入れていることは何ですか?

アウトリーチともいいますが、病院内での診療にとどまらず、施設や一般病院など、精神科医療が届きにくい場所にも目を向ける必要があると考えています。これは、日本の医療の盲点でもあるのですが、人間というのはどこからが精神で、どこまでが体とはっきり分けることはできず、その患者さんのことをトータルでどう考えるかが重要です。しかし、「身体的な疾患は受け入れられるが、精神症状への対応が難しい」という一般病院や施設は少なくありません。また、不眠や不安感など精神的な不調を抱えている方もいます。そういったときには、当院に入院していただく場合もあります。ただ、必ずしも入院が必要とは限らないため、当院の医師が出向き、薬物治療や対応のアドバイスをするといった支援も行っています。生活の場を支えるという観点からも、こうした「有機的な連携」が患者さんと施設の双方に有益になると考えています。
ほかに特徴はありますか?

医師以外の各部門も充実しています。例えば、当院では理学療法士が身体リハビリテーションを提供しています。精神疾患や認知症のある方は、精神症状や認知機能低下のために、整形外科手術後や脳血管疾患などの、急性期や専門の病院でのリハビリテーションの継続が難しいことも少なくありません。また、病院から施設へ移行する際に重要なのが、どれだけ自立した日常生活を送れるかという「生活力」です。そのため、患者さん一人ひとりの状態やニーズに合わせたリハビリテーションを提供できるよう体制を整えています。また、入院中の患者さんにおいしく、栄養バランスの取れた食事を提供することにも力を入れていて、管理栄養士が献立の作成から調理までを担っています。さらに、言語聴覚士が摂食・嚥下機能の評価やサポートを行っており、高齢者に多い嚥下機能の低下や誤嚥性肺炎のリスクに対し、医師と連携しながら適切に対処するよう努めています。
病院を運営する上で心がけていることを教えてください。

まず大切なのは、職員自身が元気であることです。患者さんのために頑張ろうという気持ちがあっても、職員が疲弊していては、医療の質を保つことはできません。実際、精神科病院などで職員によるハラスメントや虐待が問題となるケースも報道されており、職場環境の重要性があらためて問われています。私は、就任した当初からハラスメントや虐待防止のための院内の勉強会に力を入れてきました。もちろんそれだけですべての問題が解決するわけではありませんが、「職員が安心して働ける環境」があってこそ、患者さんに良い医療を届けられると考えています。また、医療を提供する際には、私の考えを一方的に押しつけるのではなく、常に「患者さんのニーズはどこにあるのか」を丁寧に探るよう心がけています。患者さん本人と家族の希望が一致しないこともありますが、双方の声に耳を傾け、バランスを取りながら最適な方針を一緒に考えていくことを大切にしています。
最後に今後の抱負と読者へのメッセージをお願いします。

医療は、医師だけが頑張るだけでは成り立ちません。多職種が連携し、それぞれの専門性を生かして患者さんを支えていくことが重要だと考えています。当院でも、患者さん一人ひとりを全人的に捉え、どのようなリソースを結集すれば最適なサポートができるかを、常に意識しながら診療を実践しています。今後もこの取り組みを継続し、さらに発展させていきたいと考えています。また、専門的な医療の提供は重要ですが、今後ますます求められるのは、心と体の両面から患者さんを支える「全人的医療」だと思います。私たちは「心」の専門家として、患者さんの内面にある課題に向き合うだけでなく、生活背景や地域の特徴など、表面からは見えにくい部分にも目を向けていく必要があると感じています。そして、当院ではうつ病や不安障害などの外来診療も行っています。心の変調に気づいたときなどには、気軽にご相談いただきたいと思います。

宮地 英雄 病院長
1996年北里大学卒業後、同医学部精神科学に所属。2007年北里大学医療系大学院修了。同大学病院でリエゾン・コンサルテーション業務を中心に従事。北里大学健康管理センターなどを経て2022年より現職。日本精神神経学会精神科専門医。