名古屋市立大学医学部附属東部医療センター
(愛知県 名古屋市千種区)
大手 信之 病院長
最終更新日:2024/08/30
地域に愛される病院をめざし、進化を続ける
緑豊かな千種公園の南側に立つ「名古屋市立大学医学部附属東部医療センター」。その歴史は長く、設立は明治時代までさかのぼる。名古屋市立の総合病院として、長年にわたり名古屋東部地域の医療を支えてきた同院。2021年に名古屋市立大学医学部の附属病院となり、現在の名称に変更された。組織改編と時を同じくして病院長に就任したのは、循環器内科を専門とする大手信之先生だ。同大学病院で長年にわたり勤務をし、副院長や病院長代行を務めてきた経歴を持つ大手病院長は今まで培った知見を生かし、「市民のための」病院づくりに力を注ぐ。病院として大切にしていきたい方向性を繰り返し医師やスタッフに伝え続けることで、皆が同じ方向を向いて病院運営を行えるよう、尽力しているという。今回のインタビューでは、地域における同院の役割や特徴、力を注いでいる診療について話を聞いた。(取材日2024年5月30日)
病院の歴史と地域における役割について伺います。
明治時代に伝染病隔離病舎を愛知県から引き継いだことが当院の始まりだといわれています。今とは違う場所にあり、昭和の時代に現在地へ移転、名古屋市立東市民病院と改称され、2011年には名古屋市立東部医療センターとなりました。その後2021年に名古屋市立大学の附属病院となり、現名称に改称されたという歴史があります。当院は大学附属であると同時に、地域に根差した病院という立ち位置を大切にしています。つまり、市民のための医療を提供すること。その柱となるのが救急医療です。2023年度には8149台の救急車の受け入れを行いました(2023年4月1日~2024年3月31日)。軽症から重症までさまざまな救急患者さんを24時間365日体制で受け入れていますが、中でも脳卒中や心筋梗塞といった脳神経・循環器疾患に対する治療を得意としています。昨年度には看護師定員を40人強増員し、救急医療のさらなる充実を図っています。
ほかにも病院の特徴があれば教えてください。
感染症診療に対応できることも特徴といえます。第二種感染症指定医療機関として、二類感染症に対応しています。また、2020年以降は、数多くの新型コロナウイルス感染症患者の入院を受け入れています。現在、新型コロナウイルスは五類感染症になりましたが、今後、新たな感染症が発生した際にも、自治体の増床要請に即座に対応することが可能な体制を取っています。設備面では感染症病床への直通の専用エレベーターを完備。病室には二重扉や陰圧隔離室を備え、感染症対策を徹底しています。さらに2024年4月には、感染症学を専門とする教授と助教合わせて3人が着任しました。感染症内科を標榜し、日々の診療を行うほか、ICT(感染対策チーム)として正しい手洗い手順や、エビデンスに則った抗菌薬の使用方法を医師やスタッフに指導しています。当院のみならず、名古屋市立大学病院群全体に向けて感染症学の知識を発信する役割も担っています。
特に力を入れている診療はありますか?
がん診療の拡充に努めています。先進がん治療センターが中心となり、がんに対する手術療法、放射線療法、薬物療法を組み合わせて取り組んでいます。手術支援ロボットを導入し、胃や大腸などの消化器がん、前立腺や腎臓など泌尿器のがん、子宮体がんに対する手術に対応しています。中でも、多臓器疾患を抱える高齢者に対するがん治療を積極的に行っていることが当院の特徴といえます。さらに、がん患者さんの肉体的・精神的苦痛の緩和を図り、自分らしく生きることをサポートするため、リハビリ・緩和ケアを提供しています。緩和ケアを専門とする医師や精神科の医師をはじめ、さまざまな専門家が連携し、多岐にわたる方法で患者さんをサポートしています。また、がん相談支援センターでは病気や治療のこと、仕事との両立や治療費についてなどのご相談を受けつけています。このように、病院が一体となり、全人的な視野に立つがん医療を行っています。
医師として、また病院長として大切にされていることは何ですか?
医師としての能力が高いことが重要なのはもちろんのこと、人としての優しさが大切だと思います。子どもの頃から母には「和顔愛語」の精神を大切にするよう言われてきました。普段は優しくても急に厳しくなったり、気分にムラがあるようではいけないと思います。医師と患者さんのどちらかが高圧的な態度を取り、それに従うのではなく、対等な関係性で一緒に病気を治していきたいですね。病院長として大切にしていることとしては、改善すべきことに対してできる限り迅速に動くことです。院内に設置された投書箱には日々多くのご意見をいただいていますが、それらすべてに目を通し、より良い病院づくりに生かしています。また、病院にとって人材を失うことが組織力の弱体化につながるとの考えから、医師や医療スタッフの離職を防ぐことを重視しています。風通しの良い職場づくりや労働環境の改善に注力し、医師やスタッフにとって働きやすい病院をめざしています。
より良い病院をめざし、進化を続けていらっしゃるのですね。
そのとおりです。診療体制の強化の一環として、新しい診療施設の整備や外来診療の拡充についても積極的に行っています。2023年には「眼科・レーザー治療センター」を開設。網膜疾患や緑内障のレーザー治療に力を入れています。加えて、2024年4月には「耳鼻いんこう科・声と鼻のセンター」を開設しました。口腔・咽頭・喉頭に関して、扁桃摘出術や声帯腫瘍に代表される手術にも対応しています。今後は、化学療法を行う加療室の増床や外来受付スペースの拡張も予定しています。また、大学の附属病院となったことで、医師の増員が進み、診療の幅が広がりましたし、研修医の育成という新たな役割も生まれました。優れた医療人を育て、研究や情報発信を行うことで、医療の発展にも貢献していく所存です。地域住民の皆さんや近隣の開業医の先生方には、新しくなった当院のことをもっと知っていただき、積極的に来院・ご紹介いただければ幸いです。
大手 信之 病院長
1981年名古屋市立大学医学部卒業。心臓機能学を専門とし、臨床・研究・教育に尽力。1994年より米国Wake Forest大学へ留学し、心不全の研究に従事。2013年11月より名古屋市立大学大学院医学研究科教授に就任し、2016年4月より名古屋市立大学医学部附属病院副病院⾧、2019年7月には同病院院⾧代行を歴任した。2021年4月より現職。