社会福祉法人恩賜財団済生会支部愛知県済生会 愛知県三河青い鳥医療療育センター
(愛知県 岡崎市)
則竹 耕治 センター長
最終更新日:2025/10/22


脳性まひや重症心身障害者の支援を
緑豊かな岡崎中央総合公園の中に立つ「愛知県三河青い鳥医療療育センター」。昭和の時代、肢体不自由児のための「愛知県立第二青い鳥学園」として開園した同院は、2016年、外来診療科を増設し、重症心身障害者の入所機能を加えた病院・福祉施設として新しいスタートを切った。木を生かした2階建ての建物には広いリハビリテーションルームと140床の入所施設があり、障害のある大人も受け入れる医療型障害児入所施設、療養介護事業所としての体制が整った。則竹耕治センター長は1996年から30年近く勤務する整形外科のベテランドクター。特に小児整形外科、その中でも数少ない脳性まひによる歩行異常の治療が得意で、同院で行う下肢手術は数多い。術前には、三次元歩行解析により歩行の状態を科学的に分析、術式の決定や術前術後の評価に役立てている。「一般の方にも医師にも、もっと脳性まひのことを知ってほしい」と話す則竹センター長。専門の医師による診察を受けて、適正な時期に適正な治療やリハビリテーションを受けてほしい、というのが願いである。同院の特色や、患者、地域にかける思いを話してもらった。(取材日2025年9月2日)
こちらの病院の特徴について伺います。

当院は、病院であるとともに、医療型障害児入所施設であり、療養介護事業所であるという機能を持ちます。主な患者さんは脳性まひや肢体不自由といった障害のあるお子さんや成人の方です。一般小児整形外科疾患も含め、多くは下肢や股関節の手術を目的に3~6ヵ月の入院の後、地元に帰られるというケースですが、呼吸器や気管切開など高度な医療ケアが必要な重症な心身障害のお子さん、成人の方の長期にわたる療育、療養も行っています。子どもたちは、院内学級や、高校生ならスクールバスで特別支援学校に通いながら、日常生活動作や身体的機能面の向上をめざし、リハビリテーションに取り組んでいます。また、通園施設である医療型児童発達支援センターを併設し、運動機能に障害のある就学前の幼児の保育を行っています。医療、訓練、教育、福祉の専門家によるチームが、子どもたちの能力をよりよく伸ばし、自主性を育むことに努めています。
脳性まひの治療について教えてください。

脳性まひが根治する治療はなく、薬物療法や理学療法、作業療法、言語療法、手術が主な治療になります。脳性まひは病名ではなく、胎児の時から分娩、生後4週間までの間に、脳の運動野に異常や損傷が生じることによって運動機能や姿勢に障害が起こる後遺症のことをいいます。例えば、染色体異常や産道感染による髄膜炎、胎内での脳梗塞、外傷による脳挫傷など脳性まひの原疾患はさまざま。ですから診察は通常よりも時間がかかります。手術が適応となれば、三次元歩行解析により歩行を科学的に分析。この機器は大学や研究施設にもありますが、臨床の場で日常的に使用している施設は数少ないでしょう。当院には専属スタッフがおり、解析に関しては国内でも豊富な実績を持ちます。このデータと診察により総合的に術式を決定し、術前術後の歩行の評価も行います。脳性まひの歩行については毎年研修会を開催しており、全国から医師やスタッフが集まります。
専門的な検査が一人ひとりに合った手術に結びつくのですね。

そう思います。当院で多いのは脳性まひの下肢手術です。脳性まひは、股関節、大腿部、膝、足の骨の変形や、筋肉の過緊張やこわばり、ねじれなど複数の問題があることが多いです。何回もの手術は大変なので、三次元歩行解析で手術の方法を決め、複数の部位の手術を1回で行います。所要時間は6~8時間ほど。毎週水曜日、他院からの応援も含めて4人の医師が手術に携わります。骨切りまで含めた多部位同時手術を行う施設は国内では数少なく、多くの手術件数を持つことは当院の大きな特徴であり強みです。長くかかる手術ですが、お子さんの場合は1週間ほどで院内学級への復帰をめざします。また、当院はリハビリテーション環境も充実しており、個々に合わせた理学療法、作業療法、言語療法を実施。通常のストレッチとは異なり、脳性まひや成人の脳卒中による筋肉の緊張をほぐすことに特化したもので、リハビリテーションにおいても専門性を重視しています。
先生はなぜ整形外科を、それも脳性まひを専門とされたのですか?

臨床研修医時代に全科を回り、診察から手術、その後まで患者さんを一貫して診られる整形外科に魅力を感じました。大学病院の整形外科にいた時、先輩の医師からアメリカの小児整形外科病院の話を聞いて興味を持ちそこに留学したのですが、その病院は障害児を対象とした、各国から医師が集まるような病院でした。それで三次元歩行解析や脳性まひの下肢手術の方法など多くを学ぶことができたのです。先にもお話ししましたが、脳性まひの原疾患は多種多様で症状もさまざま。歩行異常といっても一人ひとり違い、診断はとても難しいです。しかし逆に、原因は何なのか、どうしたら歩行改善がめざせるか、どうしたらもっと能力を発揮させてあげられるか、などと考えていくことがやりがいにつながっています。整形外科の中で小児整形外科の専門家は少なく、その中で脳性まひの専門家となるとさらに数は少なくなります。後進の育成に尽力していきたいと考えています。
御院は障害のある患者さんにとって大切な場所だと感じます。

患者さんとは意思疎通が難しいこともありますが、声かけや治療説明の際は、ご本人にもご家族にもわかりやすく優しく丁寧に、ということを職員一同心がけています。音に敏感な子や緊張しやすい子もいますので、その子の表情を見ながらリラックスできるように努めています。職員の中には排尿の困り事に対しておむつの専門的なアドバイスができるスタッフもいますので、安心してなんでもご相談ください。専門病院が少ないだけに、当院は「最後の砦」のような存在でもあります。一般の方にも、そして地域の先生方にも脳性まひについてもっと知っていただき、適正な時期に適正な治療やリハビリテーションを受けてほしいと切に願っています。中学生になって歩けなくなってからでは筋肉が硬くなり治療が困難になることもあり得るのです。今後も当院から手術の説明に積極的に出向き、三河地域、ひいては東海地方で、当院ならではの使命を全うしていきたいですね。

則竹 耕治 センター長
名古屋大学医学部卒業。市立岡崎病院(現・岡崎市民病院)、西尾市民病院、名古屋大学医学部附属病院などの整形外科を経て、米国ジレット小児病院に留学、脳性まひの三次元歩行分析などを学ぶ。1996年愛知県立心身障害児療育センター第二青い鳥学園(現・愛知県三河青い鳥医療療育センター)へ。2006年整形外科部長、2020年より現職。日本整形外科学会整形外科専門医。脳性まひの専門家として診療、手術を数多く行う。