国立研究開発法人 NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター病院
(東京都 小平市)
戸田 達史 病院長
最終更新日:2025/07/31


精神・神経医療の中心地をめざす
1940年に国立精神療養所として開設されて以来、長い歴史の中で精神や神経、筋肉の疾患、そして発達障害に対して専門的な医療を提供してきたのが、「国立精神・神経医療研究センター病院」だ。国立高度専門医療研究センター(ナショナルセンター)として、精神・神経疾患の高度専門医療の研究と臨床に取り組んでいる同院。2025年4月より病院長を務める戸田達史先生は、これまで大学の神経内科学の教授を歴任し、福山型先天性筋ジストロフィーという遺伝性難病の原因解明から発症機序の解明、治療薬の開発にまで取り組んできたという豊富な知識や経験を持つ医師。同院では「地域に生き世界に伸びる」をモットーに掲げ、日本の精神・神経疾患診療の中心地となること、そして「治る精神・神経疾患」の診療の提供をめざしている。そんな戸田病院長に、同院の特徴や取り組みについて話を聞いた。(取材日2025年5月20日)
最初に病院の特徴を教えていただけますか?

当院は、全国に6つあるナショナルセンター(国立高度専門医療研究センター)の一つで、精神・神経疾患、つまり脳と心の病気を専門としています。もう一つの特徴は、病院に加えて研究所がある点です。2つの研究所と、臨床研究支援施設、ゲノム医療開発施設、認知行動療法研究施設、臨床画像研究施設を併設しています。当院では、こういった施設と連携して、新しい薬を広く普及させることにも取り組んでいます。このように、病院と研究所が一体となり、医療の先端を追究するというミッションを持つ点も当院の特徴の一つです。同時に、当院は地域の精神・神経疾患診療の中心的な医療機関でもあります。そのため、「地域に生き世界に伸びる」をスローガンに、地元の医師会などとも連携しながら地域医療に取り組んでいくことにも力を入れています。
どのような診療を行っているのですか?

神経内科では、パーキンソン病や脊髄小脳変性症、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、アルツハイマー病などの神経変性疾患、多発性硬化症などの免疫性疾患、筋ジストロフィーや筋炎などの筋疾患といった神経難病を中心に、専門的な医療を提供しています。精神科では、統合失調症、うつ病や双極性障害などの気分障害、認知症、睡眠障害、依存症、てんかんなどに対して対応しています。また、多発性硬化症、筋ジストロフィー、てんかん、パーキンソン病、睡眠障害、統合失調症、気分障害、認知症、薬物依存症などに応じる専門部門を設置しています。特に、筋ジストロフィーについては国内でも中心的な役割を担い、てんかんについても難治例に対しては手術にも対応しています。アルツハイマー型認知症に対して、原因物質であるアミロイドベータを除去するための点滴治療など、先進的な治療法にも取り組んでいます。
研究の取り組みについても教えてください。

当院で取り組んでいるのは、いわゆる治験です。筋ジストロフィーの新薬の治験には、国内でも早期から取り組んできましたし、パーキンソン病をはじめとした神経難病の新薬の治験の多くに参加するなど、力を入れて取り組んでいます。かつては神経難病は診断がついても有用な治療法が乏しく、リハビリテーションを中心とした対応が主流でした。しかし、過去5、6年ほどの間に原因遺伝子を標的とする「分子標的治療」が次々と登場し、治療の選択肢が大きく広がっています。例えば、片頭痛には発作の大幅な抑制が期待できる注射薬が登場し、ALSでは遺伝子に作用する治療薬の開発が進んでいます。アルツハイマー型認知症においても、従来の対症療法に加え、アミロイドベータを除去するための新たな薬剤が登場しました。このように、近年では多くの神経疾患において新たな治療法が次々と実用化され、発症の予防や進行の抑制への期待が徐々に高まっています。
病院を運営する上で心がけていることはありますか?

来て良かったと患者さんに思っていただける病院、地域に信頼される病院でありたい。これが一番のモットーです。当院は、これまでお話ししたような先進的な医療だけを行っているわけではありません。風邪をひいたとか、熱が出たといったことは対象ではありませんが、頭痛や体のしびれなどの診療も行っています。もしかしたら、それらの中に難病が隠れているかもしれませんので、そういった診療も行っていくことが大切です。その意味では、「これだけしか診ません」というのではなく、精神神経疾患はすべて受けて立つという心構えを持っています。また、私は「地域に生き世界に伸びる」という言葉を大切にしています。まずは地元の皆さんに親しんでもらい、精神・神経疾患になったら当院に来ていただく。地域の開業医の先生方からも、精神・神経疾患の疑いのある患者さんがいたら、どんどん紹介していただく。その上で、世界に伸びていきたいと思っています。
最後に今後の抱負をお願いします。

日本の精神・神経疾患診療の中心地となることをめざしています。例えば、がんを患ったとき、多くの方が「がんセンターで診てもらいたい」と考えるように、精神・神経疾患においても、全国から患者さんが「ぜひこの病院で診療を受けたい」と思っていただけるような存在になりたいです。加えて、ナショナルセンターには、治療はもちろん研究所も一体となって新しい治療方法の開発をめざすミッションがあります。これらの意味で、国内外を問わず患者さんがわざわざ訪れるような病院となることも目標です。それが、中心地をめざすことの真意です。もう一つのゴールは、「治る精神・神経疾患」です。精神・神経疾患は、これまで治すことがほとんどできませんでした。今でも、すべてが治せるわけではありませんし、これからも年月が必要だとは思いますが、臨床と研究のコラボレーションで、精神・神経疾患を少しでも治すことができるように頑張っていきたいですね。

戸田 達史 病院長
1985年東京大学卒業。東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学助手、東京大学医科学研究所助教授、大阪大学大学院医学系研究科臨床遺伝学教授、神戸大学大学院医学研究科神経内科学/分子脳科学教授、東京大学大学院医学系研究科神経内科学教授などを経て、2025年より現職。日本神経学会理事、日本人類遺伝学会理事。医学博士。