吉野 一郎 病院長

国家戦略特区における規制緩和により医学部新設が認められ、2017年に成田市公津の杜に医学部を開設した国際医療福祉大学。そして、国内外で活躍できる医師の育成をめざし、国際的な医学教育を行う同大学医学部の病院として、2020年3月に開院したのが「国際医療福祉大学成田病院」だ。各分野において経験豊かな医師を集め、国際的にも通用するようなシステムや設備などを備えることで、地域の患者はもとより海外からの患者も積極的に受け入れられる環境を整備する同院がめざすのは、アジア全体の医療の発展に寄与する病院としてグローバルな医療とサービスを提供することだ。そんな同院の病院長に2023年4月に就任したのが吉野一郎先生。呼吸器外科のスペシャリストである吉野病院長は、「地域医療を守りながら、国際的な教育と医療提供を進めていくことが、ミッションだと考えています」と話す。そんな吉野病院長に、同院について話を聞いた。（取材日2023年5月19日）

新型コロナウイルス感染症のまん延の影響を受け、当初の予定よりも1ヵ月前倒して2020年3月に開院しました。その頃私はまだ在籍していませんでしたが、当時と変わってきたのは、新型コロナウイルス感染症の波は完全に収まっていないものの、その分類が変わってインフルエンザに近い対応になった点です。当院でも、新型コロナウイルス感染症の患者さんをたくさん受け入れてきましたが、これからは本来の病院としてのあるべき機能を少しずつ取り戻し、推し進めなければいけないと考えています。病院自体もまだフルオープンできていませんが、徐々に稼働病床数も増えてきていますので、今後3年程度でのフルオープンをめざしています。また、一番大切なのはもちろん診療で、その根幹にあるのは地域医療です。その中で当院だからこそできる医療提供体制で患者さんをしっかり診療していくのが、大きな役割だと考えています。

約40の診療科があり絞るのは難しいのですが、がん、脳血管障害（脳卒中）、心臓疾患ではかなりしっかりした診療を行っています。がんに関しては、県内でも数少ない専門性の高い放射線治療機器を導入し、放射線治療専門の医師も拡充。また、特に消化器、泌尿器、呼吸器を中心にロボット支援手術にも注力しています。そのほか血液疾患、糖尿病、消化器病、脊椎脊髄疾患、感染症などにも各分野専門の医師がそろい、先進的な医療をご提供しています。また、疾患の治療だけでなく、社会や家庭へできるだけ健康に近い状態で帰っていただくために配置している理学療法士・作業療法士・言語聴覚士などのリハビリテーションチームは、経験豊富な人材をそろえました。できるだけ断らないことを基本に救急車も年間5000台ペース（2022年4月～2023年3月）で受け入れていますが、この地域の救急医療を担っていくには一層の体制整備が必要だと思っています。

当院の特徴の一つが予防医学センターで、健診や人間ドックにも力を入れています。病院棟とは独立した健診棟の2階に4500平方メートル超の人間ドック専用フロアを設け、さまざまなニーズに対応できる人間ドックメニューを用意しています。人間ドックの受診者専用として、新鋭のMRIやCTを設置、内視鏡検査や画像検査の読影などは院内の専門の医師が精度の高い診断と健康チェックを行っています。また健診棟3階には、プールやジム、ヨガスタジオ、サウナなどを設置した健康増進センターがあり、年1回の人間ドックとともに利用可能な会員制の健康クラブも開設しています。そのほかにも、ベトナムをはじめとする海外の病院とつなぐ国際遠隔診断センターやゲノム解析に基づく遺伝子診断センター、空港至近の病原体対策として水際を守る国際臨床感染症センターなどがあります。

病院は患者さんを診るところであり、病気を治すことが最大のミッションです。患者中心の医療は大前提です。一方で、それは職員にとっては非常に多忙な職場でもあります。病院の業務はエッセンシャルであり、リモートでは不可能です。ですから、まずはスタッフが気持ち良く働けるような職場環境を大事にしたいと思っています。スタッフが働きやすく、士気が高く、明るく、前向きに働くことができる病院であることが良い医療を提供していくのに必要であり、ひいては患者さんにとっても信頼できる病院になるのではないでしょうか。病院長として、患者さんとスタッフの両方を守ることが大切だと考えています。それぞれ医師や医療スタッフは、患者さんからの信頼に応えられるような技量や知識を研鑽し自分たちの最高の医療を提供する、患者さんは医師を信頼して体を任せてくださる。簡単なことではないですが、それが理想だと思います。

まず、当院がめざしているのは国の認可が必要な特定機能病院の認証で、それに見合った診療や研究、教育体制を整備することに注力していきたいと考えています。また、国際空港至近の病院として海外の患者さんも積極的に受け入れられるよう、スタッフ全員が一丸となって一つ一つ着実に取り組んでいきたいと思います。私自身が着任して感じたのですが、当院の環境やホスピタリティーは非常にレベルが高いと思います。知らない人がもしこの敷地内に迷い込んだら、病院だとは思わないでしょう。来院される患者さんは、来たくて来ているのではなく、病気やけがの治療のために来られている。痛みや悩み苦しみを抱えながら来院された方々の気持ちを癒やすために存在するのがホスピタリティーだと思っています。このようなソフトとハードを最大限生かし、地域や国内はもとより、アジア諸国を中心とした海外からも信頼を得られる病院をめざしていきたいと考えています。