医療法人 青峰会 くじらホスピタル
(東京都 江東区)
上村 順子 院長
最終更新日:2025/02/17


回復期の患者に対して心のサポートまで行う
潮見駅から歩いて5分ほどの運河沿いにあるのが「くじらホスピタル」だ。エントランスを入ると、待合ロビーや廊下など、どの場所も大きな窓から自然光が差し込み、明るく開放的な雰囲気だ。院内随所に配された温かみのある木製のオブジェや椅子も印象的。ここは従来、心療内科の一般病床として機能していたが、2023年に回復期リハビリテーション病棟を設置し、脳血管疾患や整形疾患などの回復期リハビリにも力を入れている。また地域包括ケア病棟も有しており、自宅に戻ることが難しい患者や不安な患者へのケアも行っている。それまで行ってきた精神科診療でのスキルを生かしながらリハビリと心療内科が融合した新しいかたちの病院としてリスタートしている。同院の方向性や回復期リハビリについて上村順子院長に聞いた。(取材日2025年1月7日)
回復期リハビリテーション病棟を新設したと聞きました。

当院は精神症状を伴う患者さんに専門的な治療を行う病院として機能してきましたが、2023年から回復期リハビリテーション病棟を設置し、リハビリテーション科と心療内科の両輪でより幅広く地域の方々を支えていけるよう努めています。もともと精神科で社会復帰をめざすリハビリを行っておりましたが、骨折や脳卒中などの身体的疾患で衰えた機能を回復するための回復期リハビリにも大きな意味のあることだと思います。ですので、この回復期リハビリを通じて当院のこれまで行ってきたことが生かされるのではないかと思っています。また、当院には地域包括ケア病棟もあり、退院が不安な患者さんは地域包括ケア病棟に移っていただくことも可能です。その場合、同じリハビリのスタッフが継続してサポートをするため、安心してリハビリを続けていただけるのではないでしょうか。患者さんの不安をしっかりサポートできる体制が整っているのではないかと思います。
リハビリにおいて、体と心には共通部分があるということですか?

これまで回復期リハビリに関わってきた中で、精神的疾患を持つ方も身体的疾患を持つ方も、その方々が努力して生き抜く力を身につけていく点では、根底に流れている部分は同じなのではないかと感じます。何らかの疾患を抱えた患者さんが生き抜く力を得る、その大きな変化を共有できる場になればと思っています。もちろん回復期リハビリについては、リハビリテーション科や脳神経外科を専門とする医師が診ていますし、精神疾患については精神科を専門とする医師が診ています。それぞれが専門性の高い診療をしていますが、お互いコミュニケーションを取っていく中で新しい医療のかたちが生まれれば良いなと考えています。看護師は、心療内科から回復期リハビリに移った人も多いですが、心理的知識や経験を生かしたうえで患者さんに優しく接することができているかと思います。そして、それが他のスタッフにも広がっていてとても良い影響を与えていると思いますね。
リハビリの具体的な内容について教えてください。

脳血管疾患リハビリと運動器リハビリをはじめとしたリハビリを提供しており、ベテランの理学療法士や作業療法士が担当し、一人ひとりの状態に応じた質の高いリハビリの提供に努めています。毎日リハビリを続けていると憂鬱な気分になることもあれば、痛みを伴うことで続けるのがつらいと感じることも多いんです。そんなリハビリ生活に少しでも潤いを感じていただけるよう環境づくりにも配慮しています。リハビリ室にキッチンを設け、リハビリの一環として料理を楽しむこともできます。また、身体的疾患でリハビリを行う中で、患者さんが回復できるか不安になり精神症状を引き起こすケースもあります。そのような場合、心理士によるカウンセリングや心療内科の治療を受けることもできます。心理士がカウンセリングに入るのは、一般的なリハビリ病院では珍しいのではないでしょうか。当院では、このように心理的側面も含めて総合的にサポートを行っています。
患者さんと接する中でどんなことを大切にしていますか?

患者さんに寄り添っていきたいという思いはずっと変わりません。精神症状を持つ患者さんは自分自身にマイナスな烙印を押してしまい、心が折れたり生きづらさを感じたりしています。そのような状況から立ち上がる力がその方ならではの魅力となって、その後の人生を自立して生き抜いていけるよう、患者さん一人ひとりに寄り添っていきたいと思っています。メンタル疾患だけでなく脳梗塞の後遺症で体にまひが残ってしまった人、あるいは車いすで生活している人などは特殊な目で見られがちですが、そのような方々が不自由なく尊厳を持って生きられるようにお手伝いをしていきたいと考えています。スタッフも同じ想いで働いてくれている人が多く、患者さんのために自分たちには何ができるか、さまざまな職種のスタッフが連携して主体的に考えてくれていますね。その中で、心療内科と回復期リハビリのスタッフがお互いの分野を勉強するなど、切磋琢磨し合っています。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いいたします。

回復期リハビリと心療内科は、それぞれ独自性と専門性を生かしながら診療しています。回復期リハビリでは患者さんもスタッフもとても努力していて、その努力が心療内科にも伝わってきます。また、従来の心療内科では中学生からでも入院できる居心地の良い病院として機能しています。今後、両者がお互いコンビネーションしていく中で成長していければと思っています。また、当院の看護師は優しいという声をいただくことも多いので、院内環境も含めて地域の方々の癒やしの場になればうれしいです。より身近で通いやすい病院になったのではないかと思うので、今後は、地域のニーズに対応しながらフットワーク軽く医療体制を変えていくのが目標です。地域の医療ニーズも時代によって変化しますし、その変化にすぐに応じられるのも当院のような規模だからこそできることだと思います。スタッフと一緒に、これからも地域の皆さんを支えられる病院になりたいですね。

上村 順子 院長
1989年山口大学医学部卒業。精神科専門クリニックで研鑽を積み、神奈川県横浜市にめだかメンタルクリニックを開設。摂食障害やアルコール依存症、児童虐待、PTSDなどの精神疾患の治療に尽力。2006年からくじらホスピタルに勤務し、2018年に院長に就任。回復期リハビリテーション病棟の新設を機に心療内科とリハビリが融合した医療をめざしている。