地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立大久保病院
(東京都 新宿区)
苅田 達郎 院長
最終更新日:2024/08/16
つなげる医療でつながる安心。地域と連携を
都内屈指の繁華街、新宿歌舞伎町。「東京都立大久保病院」はこの街で100年以上も診療を続け、新宿区や西武新宿線沿線の地域医療を支えてきた。透析から生体肝移植まで手がける「腎センター」、複数の科、多職種が血管のトラブルに対応する「脳・心臓・血管センター」を中心に、二次救急医療にも注力。2023年には女性のライフステージに沿った診療を行う「女性医療センター」、2024年には消化器内科と消化器外科が連携を取ってがん治療に取り組む「消化器センター」を開設し、ニーズに応えようとしている。2023年に就任した苅田達郎院長は「近隣に大きな病院が多い中、当院は地域を支えることこそ、大事な使命」と話し、地域支援を病院の柱としている。地域医療支援病院としては地域包括ケア病棟を持ち、地域の医療機関や介護施設とも密に連携を取って、入院患者を生活圏にスムーズに戻すための役割を果たしている。その一助として、リハビリテーション科では土日の診療を始めるという。多くの臨床経験から「患者さんの立場に立った診療」を掲げる院長に、病院の特色や今後の展望を聞いた。(取材日2024年6月12日)
病院の歴史についてお聞かせください。
当院は1879年、明治時代に、伝染病の専門病院として発足した、長い歴史を持つ病院です。関東大震災で倒壊し、その後帝都復興計画により改築されたのですが、戦争時の空襲で焼け、戦後また新たに復興しました。その後、腎センターなどの開設、さらに東京都の中でも早期に全身用のCTを導入するなど、先進的な医療の導入に力を入れてきました。1993年には複合型施設と一体となった現在の建物が完成し、大いに注目されましたね。その間経営母体が移管された時期もありますが、2022年に東京都立病院機構の発足とともに、東京都立大久保病院となって、スタートを切ったところです。
こちらの病院の役割についてはどのようにお考えですか。
ご存じのように、周囲には国立国際医療研究センターや東京医科大学病院、東京女子医科大学病院、慶應義塾大学病院など大学病院がひしめき合っています。その中で当院が果たすべき役割は、やはり地域を支援する、地域に密着した病院であることと思っています。新宿区は老老介護の世帯や、ご高齢の方の独居世帯が多く、在宅医療を受けていらっしゃる方も少なくありません。そういった在宅の先生方や介護老人保健施設をサポートするのもわれわれの役割でしょう。具合の悪くなったご高齢の患者さんを一時的に受け入れ、フレイルなどをチェックし、またおうちに戻っていただけることをめざすのも大事な仕事です。そういった側面からも、リハビリテーションには力を入れています。急性期においては、土日も休まずリハビリテーションを行うことが改善に役立つことがわかっていますので、今後徐々に実施していく予定です。
診療面での特色を教えてください。
昔から腎医療には力を注いできました。腎臓内科、泌尿器科、移植外科などが連携を取り、「腎センター」として人工透析、腎移植などを積極的に行っています。新型コロナウイルス感染症が猛威を振るっていた時期においても、透析の必要な患者さんを受け入れていました。また血管系のトラブルに対しては、複数の科、多職種が協同し「脳・心臓・血管センター」で診療を行っています。特に脳卒中の患者さんのコンスタントな受け入れはわれわれの実績の一つです。2023年には「女性医療センター」が開設され、女性のライフステージに合わせた診療に力を入れていこうとしています。さらに2024年に「消化器センター」が生まれ、消化器内科と消化器外科が綿密に連絡を取り合ってがん治療にも取り組む体制を整えました。整形外科では肩関節に精通する先生が赴任し、今後注目される科となるでしょう。
地域連携についてはどのようにお考えですか。
当院の「患者・地域サポートセンター」はこの規模の病院としてはマンパワーも充実し、誇れる部署の一つだと思っています。地域に向けて発信する医療連携の講演会を毎月開催していますし、各種の勉強会も行われています。また地域のクリニックの訪問にも力を入れ、日頃からコミュニケーションが円滑になるよう、努めています。レスパイト入院で一時的にお預かりした患者さんを、地域の元の生活圏にお返しするべく段取りを整えるスタッフも、看護師さんや事務職はじめしっかりした体制を組んでいます。大久保病院では、スタッフが一丸となって、地域住民の方が生涯住み慣れた地域で安心した生活を送るための医療の提供をめざしています。患者さんは、医療関係者の一挙手一投足、言葉の端々を頼りにしています。私が医師として大切にし、スタッフにも望んでいるのは、そのような患者さんの気持ちを考え、その立場に立った診療を届けることです。
今後の展望についてお聞かせください。
現在の建物はできてから30年以上になるため、配管など見直すべきところが多々あり、改修する必要があります。更地にして建て直すことはさまざまな事情から難しいため、いながらリノベーションをしていくことになります。改修に際しては、大久保病院は将来どういう病院であるべきかを考え、それを設計に仕込んでいく必要があります。それが大仕事の一つですね。今後の展望としては、一つは大久保病院が今何をしているのか、より多くの方に知っていただけるよう広報に力を入れたいと思っています。もう一つは情報管理におけるDX化ですね。患者さんが予約から受付、支払いまで一貫して行えるアプリの導入や、職員が電子カルテやナースコールを一括管理できる端末の導入など、実現できればいいですね。働くスタッフが、医師や看護師をはじめ、コメディカルや事務のスタッフ一人ひとりまで働きがいのある、魅力的な病院にしていくのが私の使命だと思っています。
苅田 達郎 院長
1990年東京大学医学部医学科を卒業。同大学整形外科学教室に入局。関係病院での勤務後、東京大学医学部講師、東京都立多摩総合医療センター整形外科部長、副院長などを経て、2023年より現職。専門は股関節分野。東京大学大学院医学博士。日本専門医機構認定整形外科専門医。