地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立がんセンター
(神奈川県 横浜市旭区)
酒井 リカ 病院長
最終更新日:2024/03/11
患者全体を診て適した治療の選択をめざす
二俣川駅が最寄りの「神奈川県立がんセンター」は、1963年に発足した神奈川県立成人病センターの再編に伴い、1986年から現在の名称となり、県のがん治療の中核機関として発展してきた。2023年に就任した酒井リカ病院長は「当センターは病床数415床のがん専門病院で、臨床研究所も併設するなど、治療から研究まで広くがん医療に貢献しています」と話す。「手術、重粒子線治療を含む放射線治療、がん薬物治療により、さまざまながんの治療に力を注いでいます。近年はがんになっても、治療により長生きをめざせる時代になりつつあります」。同センターは都道府県がん診療連携拠点病院として、地域の医療機関と連携しながら、患者ごとに最適ながん治療の提供をめざしている。「がんだけを診るのではなく、患者さんの生活環境や社会背景など全体を把握して治療を考えたい」と言う酒井病院長に、同院でのがん診療の特徴や患者のサポート体制などを詳しく聞いた。(取材日2023年5月11日/情報更新日2024年1月26日)
県内のがん診療における役割をお聞かせください。
当センターは1963年以降、60年にわたって神奈川県のがん治療に貢献してきました。2007年には厚生労働省から都道府県がん診療連携拠点病院に指定され、以来、神奈川県のがん医療の中核機関として、県内の医療機関と協力してがん診療の均てん化を図っています。一方、均てん化が難しい高度な専門治療や標準治療が確立していない希少がんの治療などは、当センターをはじめ一部の医療機関に集約して対応することになるでしょう。2019年よりがんゲノム医療拠点病院にも指定され、県内のがんゲノム医療も推進しています。重粒子線治療施設「i-ROCK(アイロック)」での治療や、患者さん個別のがんの遺伝子を詳しく調べて治療につなげることを目的とした「がん遺伝子パネル検査」にも対応しています。また、「がん相談支援センター」では、患者さんやご家族からのがんに関する不安や疑問、困り事など、さまざまなご相談に対応しています。
診療面ではどのような特徴がありますか?
当センターは診断から治療まで、必要に応じて30以上の診療科と各種の検査部門などが横断的に協力し、多面的に検討を重ねて、適切な治療を提供できる点が強みだと思います。さらに、患者さんの病状に合わせて手術療法・薬物療法・放射線治療といった標準治療を組み合わせる集学的治療では、重粒子線治療、ロボット支援手術なども選択肢となります。重粒子線治療はがん病巣に集中して効率的に照射できる点が特徴です。難治性のがんにも有用性が期待され、患者さんの体への負担も少なく、年齢や併存疾患の不安がある方も対象になり得るなどの利点があります。2022年から保険適用の範囲も広がり、利用しやすくなりました。近年は、がんになっても治療によって長く生きることも期待できるようになりました。その大きな後押しの一つとなったがん薬物療法については、60床の外来化学療法室における通院治療を中心に、入院治療も併用して行っています。
患者サポートや地域連携にも力を入れていると伺いました。
「がん相談支援センター」は、看護師やメディカルソーシャルワーカーが、病気や治療、生活上の心配ごと、経済面での不安などの多様なご相談に対応しています。治療中に仕事の継続や新たな就労を希望される方には社会保険労務士の出張相談も行っています。また、将来子どもを産み育てることを望むがん患者さんからの相談も受けつけています。当センターを受診されていない方、がんが疑われる段階の方などもお気軽にご利用いただけますので、当センターホームページに掲載している、がん相談支援センター直通の電話番号よりご予約ください。このほか、抗がん剤や手術などによる外見の変化に伴うさまざまな悩みごとには、アピアランスサポートセンターが対応しています。また、地域のかかりつけの先生方とは「2人主治医制」による連携を図り、一部のクリニックや病院とは、電子カルテの情報の一部を共有する体制を整え、協力して患者さんをフォローしています。
がんの診療で大切にされている点を教えてください。
がんという病気だけでなく患者さん全体を診て、その方の人生まで見据えた治療を大切にしています。家庭や仕事のこと、病気が見つかるまでの経緯、治療へのご希望、妊娠の可能性はどうかなど、ご本人とご家族の状況を伺った上で、その方にとって適切な治療を検討します。また、AYA世代(思春期や若年成人)のがんでは、治療と就学、就労、結婚、出産など人生のイベントとの両立も大きな課題になりますから、より丁寧な対応が必要です。一方、高齢の患者さんはがん以外にも病気をお持ちのことが多く、認知機能の問題などもあるため、最適・最善の医療を受けられるよう多職種と連携して治療を行ったり、ご家族も含めて治療開始前からがん相談の支援を受けられたりする環境整備も必要です。加えて「患者さんのための医療」という観点を忘れず、医師、看護師、各スタッフが協力して、県民の皆さんのご期待に沿えるよう、温かみのある医療を提供していきたいです。
病院長として、また病院としての目標をお聞かせください。
当センターはこれまで、手術、放射線治療、がん薬物療法による安全性に配慮した質の高い医療の提供に加え、重粒子線治療やがんゲノム医療をはじめとした新しいがん医療を先駆的に進めてきました。また、療養環境の面では、患者さんからのご要望を受けて、二俣川駅までのシャトルバスの運行、Wi-Fi環境の整備など、さまざまな取り組みを進めてきました。今後は、AYA世代あるいは高齢のがん患者さんのサポート体制や、ピアサポートと呼ばれるがん体験者同士のサポートの仕組みなど、患者さんやご家族へのさまざまなサポート体制をさらに充実させたいと考えています。患者さんやご家族の声に耳を傾け、お一人お一人にとって最良のがん医療を提供する、県民の皆さんが安心して高度ながん治療を受けられる施設にしたいと思います。
酒井 リカ 病院長
1989年佐賀医科大学(現・佐賀大学)卒業。茅ヶ崎市立病院や藤沢市民病院勤務、横浜市立大学附属市民総合医療センター無菌室准教授などを経て、2011年より神奈川県立がんセンター血液・腫瘍内科部長。副院長・医療安全推進室長兼務を経て2023年より現職。日本血液学会血液専門医、日本内科学会総合内科専門医。