東京女子医科大学病院
(東京都 新宿区)
肥塚 直美 病院長
最終更新日:2024/08/29


安全・安心な患者ファーストの医療の提供を
「現場に足を運び、現場の声を聴く」。2024年4月に「東京女子医科大学病院」の病院長に就任した肥塚直美病院長は、安全で安心な患者ファーストの医療の提供を実現するべく、院内をくまなく巡っている。まずは全病棟、総合外来センター、看護部、薬剤部、リハビリなどを巡り、コミュニケーションをとり、問題を吸い上げて解決に向けた調査と分析につなげている。当事者の立場に立った改革は、働く人の心を動かし、病院の雰囲気をより良い方向へと変えつつあるようだ。「質の高い高度医療と先進的な医療、そして重病の救急患者に対応する救急医療をスピーディーに提供することが私たちの使命です。建学の精神や伝統を重んじつつ、時代に合わせて変えるべきところは変え、地域に求められる病院であり続けたいですね」。そう話す肥塚病院長に、同院の特徴や強み、病院運営にかける思いなどを聞いた。(取材日2024年6月21日)
まずは、病院の成り立ちや理念についてお聞かせください。

当院は病床数1139床の高度急性期病院です。「医学の蘊奥(うんおう)を究め兼ねて人格を陶冶(とうや)し社会に貢献する女性医人を育成する」という建学の精神と、理念である「至誠と愛」の2つを軸とし、患者さんファーストの医療を116年にわたってめざしてきました。今後も当院の基本方針であり、長い歴史の中で築いてきた患者さんとの信頼関係を大切に病院運営にあたります。一方、時代とともに求められる医療が変わり、私たちに求められる役割が変化しつつあることにも目を向けなければなりません。得意な医療だけでなく、地域が必要としている医療を提供できるよう、社会の変化に適応していく必要があるでしょう。“自然淘汰によって生き残る種というのは、最も強いものでも、最も知性があるものでもなく、変化に対応できるものである”と唱えたダーウィンの「種の起源」のように、生き残る適者になるべく努力していかなければならないと思います。
今、地域から病院に求められる役割は何だと思われますか。

新宿区には大学病院の本院が当院を含めて複数あり、地域の方のみならず埼玉などの近隣エリアからも多くの患者さんが受診されます。今後はさらなる環境の充実に努め、高度急性期医療と救急のニーズにより多く応えられる体制を整えていく必要があります。また、高齢化が進む中、当院で治療を終えた方が住み慣れた地域で安心して暮らし続けられるよう、回復期・慢性期の患者さんの受け入れ先となる医療機関との後方連携の強化も急務です。医療連携・入退院支援部地域連携室を中心に、地域の先生方との連携を深めていきたいですね。
診療の強みをお聞かせください。

高度で適切な治療を提供するため、数多くの専門分化された診療科と、個別の診療科では判断がつかない症状を多角的に診て診断する総合診療を行う部門があります。先進の内科的治療を行うと同時に手術も数多く手がけており、近年は高度な低侵襲手術も多く実施してきました。中でもロボット支援手術は、新型の機器を3台用いて積極的に行っており、腎がん、肺がんなどで数多くの手術を提供してきました。ロボット支援手術の増加に伴う在院日数の短縮も顕著で、患者さんの身体的な負担の軽減に配慮しつつ、早期の社会復帰に力を注いでいます。また、全身性エリテマトーデスや潰瘍性大腸炎、多発性硬化症などを中心とした難病医療にも精力的に取り組んでいます。
診療科間の連携もスムーズだと聞きました。

合併症がある患者さんの手術に際しては、関係する各診療科の医師、看護師、薬剤師などの多職種が症例を検討するハイリスク症例検討会を週2回実施して安全性の確保に努めています。また、病気や臓器別に、診療科を越えて密接に連携する診療体制が構築されています。例えばがんに関しては、各科の医師と、放射線治療や化学療法などのエキスパートが連携する専門の部門をつくり、肝臓・胆道・膵臓も含む消化器全般と呼吸器、泌尿器、乳腺に対応しています。女性の乳がんについては、乳腺外科が整容性を重視しながら体への負担が少ない低侵襲治療を行い、放射線科が再発を防ぐことを重視した放射線治療を行うほか、必要に応じて形成外科による乳房再建手術まで一貫して当院で行うことが可能です。神経精神科の医師によるメンタルサポートなど、心身両面から患者さんの回復をサポートする取り組みも連携の一環ですね。
今後の病院運営について、お考えをお聞かせください。

安全と安心を最優先に考慮した患者さんファーストの医療を提供すること。このことがすべての礎になると私は考えています。そこで、病院長就任以降、積極的に現場に足を運んで現場の声を聞くようにしてきました。そうすると、患者さんに近い場所にいるからこその意見や改善案がたくさん出てくるんですよ。予算や施設の関係上、すべてのアイデアをそのまま実現するわけにはいかないのが難しいところですが、忌憚(きたん)のない意見をぶつけてくれるのは本当にうれしいことです。全員が志を一つに、患者さんにとって親しみやすく声をかけやすい雰囲気づくりに努めていますので、お困りのことがあればなんでもお尋ねください。患者さんとともにつくる東京女子医科大学病院として、引き続き真摯に努力を続けてまいります。

肥塚 直美 病院長
1974年東京女子医科大学卒業。1979年同大学大学院博士課程内科学(第二)講座修了。医学博士取得。アメリカ国立衛生研究所、国立糖尿病・消化器病・腎臓病研究所、DiabetesBranch客員研究員。東京女子医科大学内科学(第二)講座助手、同助教授を経て、2002年同教授。2015年に定年退職し、同年4月より名誉教授。同年6月同大学理事、女性医療人キャリア形成センター長。2024年より現職。