順天堂大学医学部附属 順天堂医院
(東京都 文京区)
山路 健 院長
最終更新日:2025/08/04


DXを活用したぬくもりある医療の実現へ
高度急性期病院をはじめ、多くの医療機関が立ち並ぶ文京区。その中において特定機能病院として存在感を発揮し続けるのが、「順天堂大学医学部附属順天堂医院」だ。医療安全を遵守しながら、高度医療を提供する同院だが、2025年に院長に就任した山路健先生は、「医療の質は当院の大きな強みですが、それは当然のこと。当院ならではの良さは他にもあると思うんです」と力強く語る。長年同院で診療を行ってきた山路先生がめざすのは、「ぬくもりある医療」の実現だという。目に見えない部分だけに患者に実感してもらうのは容易ではないが、だからこそ、全職員が力を合わせて多角的に取り組んでいきたい考えだ。歴代の院長からバトンを受け継いだ今、これまで積み重ねてきたさまざまな施策をさらに進化させ、高度かつぬくもりある医療へとつなげるために尽力する新院長に詳しく話を聞いた。(取材日2025年5月8日)
院長就任にあたっての先生の想いをお聞かせください。

就任にあたり、私が掲げたモットーは「ぬくもりを感じられる信頼できる病院」です。もちろん、質の高い治療を安全に提供することは、特定機能病院としての役割であり、大前提。その上で当院ならではの良さを考えた時に、私は温かみのある医療ではないかと感じました。これは、順天堂の学是である「仁」の精神、つまり「人在りて我在り、他を思いやり、慈しむ心」とも通じる部分があるなと。そこで、今一度原点に立ち返り、訪れた方が安心して診療を受けられるよう、一人ひとりに寄り添った医療の提供をめざしたいと考えました。その土台として接遇面や身だしなみには細心の注意を払い、定期的に研修を行っています。また、近年はAIの活用にも積極的に取り組んでいます。AIと聞くと「ぬくもり」とは対極に感じられるかもしれませんが、マンパワーには限りがあるからこそ、デジタルシステムをうまく組み込むことが大事だと考えています。
AIの活用が「ぬくもりある医療」とどう関係するのでしょうか?

イメージしやすいものだと、一つはAIコンシェルジュ。これは初診の事前受付を行えるシステムで、受診当日もバーチャルホスピタル上でAIが院内を案内してくれます。もちろんスタッフもいますので、AIを使うのが難しい方にはこれまで以上にじっくり対応できるようになりました。そしてもう一つは、医療連携の推進をサポートする「Patient Flow Management(PFM)AIマッチングシステム」。これは、カルテデータをもとにAIが転院先を複数提示するものです。これまで人力で行っていた一部の退院調整業務をAIに任せたことで、スタッフが患者さんやご家族と関わる時間が増え、適切な転院先の紹介につながっています。つまり、効率化によって生まれた時間をより丁寧なコミュニケーションが求められる患者さんに費やせるわけです。ですから、使い方次第でAIはぬくもりある医療を実現する上で強い味方になると期待しています。
医療連携は、先生が長年取り組んできた分野だそうですね。

医療サービス支援センター長時代を含めて20年近く、専門とする難病医療とともに力を入れてきた分野です。医療連携で大切なのは、医療機関の役割分担。そのために、地域の医療機関と病院が各々の役割を全うできるよう情報共有することが欠かせません。だからこそ、クリニックに出向いたり、地域医療機関の先生や多職種を招いて「医療連携を共に考える会」を開催したりと、長い年月をかけて顔の見える関係づくりに努めてきました。さらに近年はデジタル技術を用いた効率的な情報共有にも取り組み、安心して患者さんをご紹介いただける環境づくりを進めています。先ほどの「PFM AIマッチングシステム」以外に、SNS運用、連携先で当院の診療記録を見られるカルテ連携なども行っています。当院は「2人かかりつけ主治医制」を取っていますので、クリニックと大学病院のドクターが目線を合わせることで、より手厚いフォローができるのではないでしょうか。
ご専門の難病医療についてはいかがでしょうか?

「難病=不治の病」というイメージを持たれがちですが、私の専門である膠原病・リウマチ性疾患も含め、きちんと治療をすればさまざまなことを諦めることなく日常生活を送ることが可能です。しかし、正しい情報を手に入れる場が少ないがゆえに、患者さんは不安を解消できないのが現状でした。そこで、当院では患者さんの支援を行う「東京都難病相談・支援センター」と、難病医療連携の強化を図る「東京都難病医療ネットワーク事務局」を東京都から受託し、患者さんと医療機関の橋渡し役として支援を担ってきました。この4月には院内に機能を残しつつ、区内に誕生した「元町ウェルネスパーク」内に移転しましたので、身近な場所でより多くの方にご利用いただけるのではと期待しています。
最後に、今後の展望と地域に向けたメッセージをお願いします。

特定機能病院として地域医療にさらに貢献するために、私たちが今取り組んでいるのが、救急医療提供体制の見直しです。これまでは、受け入れ時に各科の医師がどの診療科で診るかを判断していたのですが、タスクフォースを設置して、救急科が受け入れを一手に引き受けることとしました。これにより受け入れにかかる時間が短縮されるとともに、受け入れ人数も大幅に増えました。また、窓口を一つにしたことで適切な判断がしやすくなりました。「断らない救急」を文字どおり実現するのはそう簡単ではありませんが、高度急性期病院が豊富な文京区内で、二次救急としての役割を強化することは、地域医療の底上げにつながるはずです。大学病院というと地域医療とはかけ離れた印象を与えやすいのですが、われわれも地域を構成する一員です。近隣の地域医療機関と役割分担しながら手を取り合い、当院だからこそ提供できるぬくもりある医療を実現していきます。

山路 健 院長
1988年順天堂大学医学部卒業後、1995年同大学大学院にて博士号を取得。アメリカ留学を経て、同大学膠原病内科で研鑽を積む。2019年より同教授。専門とする膠原病・リウマチ性疾患を含む難病医療に注力する傍ら、院長補佐、副院長時代には医療連携、広報、救急医療、難病医療、医療DXなど多方面の改革に尽力。その土台を生かして、2025年4月より、院長として同院をリードする。