西知多医療厚生組合 公立西知多総合病院
(愛知県 東海市)
吉原 基 病院長
最終更新日:2022/10/20
患者を第一に考えた医療を実践し地域に貢献
2015年開院の「公立西知多総合病院」は、東海市と知多市にあった市民病院が統合して誕生した、地域の急性期医療を担う中核病院だ。一般病床をはじめICUや救急病床、結核モデル病床、緩和ケア病棟を有し、救急医療をはじめ専門性の高い医療に積極的に対応。知多エリアにおける地域医療連携にも力を注ぐ。32の診療科に加え、内視鏡治療や放射線治療など専門領域に特化した部門を設けるなど、広く深い医療の提供に尽力。また、独立した健診部門を設けるなど病気の早期発見、予防医療のアプローチに重点を置いているのも特徴の一つだ。2024年に新駅設置が予定されており、同院の開院は周辺エリアの地域医療はもちろん、住民の暮らしにも大きな変化をもたらしたともいえるだろう。地域に根差した医療を展開する同院の基本理念は「すべては患者さんのために」。自身も東海市出身であり、「生まれ育った地域に医療で貢献できることがうれしい」と語る吉原基病院長に、基本理念に込める思い、同院の特徴やこれからの展望について話を聞いた。(取材日2022年8月9日)
貴院の成り立ちをお聞かせください。
もともと東海市には東海市民病院、知多市には知多市民病院がありましたが、いずれも医師不足やそれに伴う診療科の縮小が課題となっていました。2008年に東海市民病院は「東海産業医療団中央病院」と統合し、さらに同年に両市で病院を立ち上げることが決定し、2015年の開院に至りました。数年のうちに3つの病院が統合して誕生したという点では、病院再編・統合の先駆け的存在ともいえるでしょう。開院にあたり医療機能の柱としたのが、救急医療、災害医療、脳血管疾患・心疾患、がん診療、小児医療、予防医療です。特に救急医療は、2次から2.5次救急は当院で、当院で対応できない重篤患者は3次救急で受け入れるといったように、地域連携を図りながら救急患者に対応する体制を整えています。一極集中ではなく、地域全体で医療をバックアップし合う関係性を築く重要性は、救急医療のみならずコロナ禍においても強く実感させられました。
基本理念「すべては患者さんのために」に込める思いとは?
この基本理念は本年度に改定しました。長年臨床医として診療にあたってきた中で、常に考えるようにしてきたのが「患者さんのためになる選択とは何か」です。医療におけるエビデンスはあくまで基礎であり、縛られるものではありません。エビデンスに基づきながらも、まず目の前の患者さんのことを一番に考え、その人にとってより良い選択を導き出すのが医師の役目ともいえるでしょう。院長就任後も、患者さんにとってより良い選択とは何かを考えることを意識してきました。それを考え続けることが、より良い方向に向かう原動力となると感じているからです。ここで示す「患者さん」とは、1人の患者さんという意味だけでなく、地域に暮らす人というマスの意味も込めています。さらにいえば医師に限らず、当院の職員一人ひとりが業務を通じて迷いに直面した際に、まず「患者さんのため」を基準に考えることを根づかせられたら、と思っています。
診療の特色、力を入れる取り組みは何ですか?
近年はがん医療の充実に特に力を注いでいます。当院のがん医療の強みは、早期発見、精度の高い診断、低侵襲な治療、緩和ケア、そして終末期まで一貫して当院が対応できる点です。治療においては放射線治療、化学療法、手術と、選択肢もさまざま。加えて、腹腔鏡や内視鏡などによる鏡視下手術を積極的に行い、体の負担の少ない手術に取り組んでいます。診療科の枠にとらわれず、外来化学療法や各種手術といった専門性に特化した部門を設けているのも特徴です。地域性を踏まえた医療体制づくりにも積極的で、例えば小児医療においては、子どもが多く暮らす病院周辺エリアの特性を踏まえ、小児科の医師が休日診療に対応する体制を整備。脳血管疾患・心疾患といった高齢者に多く、命に関わる病気の迅速診療にも尽力しています。また、いずれの診療科も大学の医局と強く関連しておりますので、足りない部分があれば適宜補填できる体制が整っています。
地域医療連携についてどのような取り組みを実践されていますか?
医師会とは常に互いに協力体制を取り、近隣の医療機関の先生方からもCT、MRIなどインターネットでの検査依頼ができ、紹介患者も多く日頃から頼っていただけていると自負しております。地域連携において特に活躍しているのが、患者サポートセンターです。当院の窓口役として、地域の医療機関の要望を受け止め、臨機応変な対応につなげられるよう尽力してくれています。定期的に実施する医療機関向けのアンケートでは、厳しいご意見をいただくことも少なくありません。ですがそれは、当院に期待を寄せてくださっているからともいえます。近隣の医療機関の先生方からの要望に応えて、消化器内科の受診無しで上部消化管内視鏡検査を受けることができるように体制を整えました。他にも、患者さんとその家族のあらゆる相談に対応し、入退院支援などにも精力的に取り組んでくれています。地域医療の充実を図る上で、私たち医師としても非常に心強い存在です。
今後の展望と読者へのメッセージをお聞かせください。
これからも、「すべては患者さんのために」を合言葉に、医療の質の向上や診療体制の改善につなげていきたいと考えております。地域医療連携においては、近隣の医療機関の先生方から頂いたご意見をもとに改善を行い、取り組みの成果を報告しさらなる要望につなげられるように努めてまいります。また、専門性の高い治療をわれわれのような地域の中核病院で提供できれば患者さんの選択肢が広がり、治療ハードルを下げる一助となると考えます。例えば、乾癬に対する生物学的製剤を用いた治療にも対応できる体制を整えました。がん医療においては、将来的にゲノム診療にも取り組めるよう準備を進めているところです。都心部に出向かずとも、住み慣れた地域の中で希望する治療が受けられる。そんな未来につなげるためにも、地域のニーズに真摯に耳を傾けていく思いです。地域の皆さまも、どうぞ要望・ご意見をお寄せください。
吉原 基 病院長
東海市出身。1991年名古屋大学医学部卒業後、半田市立半田病院での研修を経て愛知県がんセンター中央病院消化器外科、JCHO可児とうのう病院に勤務。消化器がんをはじめ外科全般の研鑽を積む。豊橋市民病院出向に伴い乳腺外科を専門分野とし、数多くの乳がん治療を手がけるとともに、院内チーム医療体制や地域連携体制の構築、後進育成に尽力する。2020年より現職。日本乳癌学会乳腺専門医。日本外科学会外科専門医。