医療法人 三星会 かわさき記念病院
(神奈川県 川崎市宮前区)
福井 俊哉 病院長
最終更新日:2020/11/25
早期診断から入院、在宅復帰まで幅広く対応
高齢化社会の中で、認知症に特化した医療を提供するために2014年に開院した「かわさき記念病院」。認知症の早期診断と適切な早期治療や、長期化を避けた短期集中型の入院治療が特徴。300床を備える病棟には少人数で療養生活を送るユニット形式を取り入れ、在宅や施設への復帰をサポートする。開院時から、病院運営を牽引してきた福井俊哉病院長は、横浜の基幹病院で地域の開業医との病診連携の構築に力を注ぎ、地域全体の認知症医療の充実に努めてきた。かわさき記念病院では、精神科と神経内科の医師に加え、看護師や専門職がそれぞれの持場で力を発揮できるよう配慮し、認知症診療に欠かせないチーム医療を実現している。「認知症に関して、何でも相談できる、地域に役立てる便利屋さんのような存在になりたい」。地域包括ケアの中で大きな役割を果たす専門病院を率い、新しいかたちの認知症診療に取り組む福井院長に、かわさき記念病院での診療の特徴や、めざすところについて語ってもらった。(取材日2017年6月26日/情報更新日2018年5月18日)
まず、こちらの特徴を教えてください。
認知症専門病院、認知症だけを対象とする精神科で300床を有する病院というのが大きな特徴です。神経内科の医師が4名、精神科の医師が5名在籍していますが、精神疾患の診療は行っていません。また、もう一つの大きな特徴は、認知症に関する適切な治療やリハビリテーションを行うことにより、問題点を早期に解決し、できるだけ入院期間を短くして、在宅や施設など地域に早くお戻しすることを目標としていること。診療面では、認知症診療にかかわってきた医師やスタッフの長年の経験を生かし、問診に重きを置いて、患者さんや家族の話を聞き取ることに時間をかけています。認知症の早期発見、早期治療にも力を入れており、神経心理検査のほか、CT撮影での画像検査を実施し、可能な限り初診日に診断を確定するようにしています。また、患者さんを尊重し身体拘束をなるべくしないこと、抗精神病薬を適切に使うことを心がけています。
病棟にも特徴があるようですね。
不安が強い認知症患者さんの入院生活に適しているとして、病棟内を少規模に区切るユニット型タイプの病床を取り入れています。長い廊下に個室が並んでいる一般的な病棟と異なり、ユニット型の病床は自分の位置が把握しやすく、人間関係も認識しやすいので落ち着いた環境で過ごすことができるメリットがあります。16人から18人の患者さんが一つのユニットに入り、患者さん同士もスタッフとも顔見知りになって、隣近所のような雰囲気が生まれることにより、患者さんはここが自分の居場所と感じられるようになるようです。認知症の患者さんは、自分はここにいるべきなのかどうかという不安感を持たれることが多いので、場になじみがでてくると「ここは自分がいるべき場所だ」という認識が生まれて落ち着くことができ、BPSD (認知症に伴う行動・心理症状)の改善にもつながります。
病院としての診療方針を教えてください。
患者さんやご家族が「この病院で良かった」と思っていただける、そして働く医師やスタッフも「ここでよかった」とやりがいを持てるような、温かい病院、地域に貢献できる病院にしようというのが基本方針です。信頼関係がないと医療は成り立ちませんから、その一歩として挨拶と笑顔を大切にしています。また認知症診療においては、医師の役目は、診断して治療の方向性を決めることが中心であり、日々のケアは看護師や病棟スタッフ、認知症リハビリテーションに関してはリハビリテーション部、栄養面に関しては栄養士というように、スタッフそれぞれが主役になります。その主役同士が連携をとりながら取り組んでいくことも重要です。そのために、各部署のコミュニケーションにも力を入れ、顔の見える関係づくりを重視しています。4年を経て、認知症診療にやりがいを持って取り組んでくれる医師やスタッフがそろってきて頼もしく思っているところです。
地域の中では、どのような役割を果たしていますか。
認知症は早期発見・診断によって適切な治療を行い、急性増悪時は専門的な対応ができる施設に入院し、状態が安定したら住み慣れた場所に帰るのが理想です。そこで当院は、適切な診断・治療を行う地域の認知症診療の拠点でありたいと考えています。認知症かどうかの診断から、BPSD (認知症に伴う行動・心理症状)が強くなった患者さんの入院診療まで幅広く対応し、認知症に関して何でも相談できる存在になりたいと思っています。そのために地域の開業医や、ケアマネジャーなど専門職とも連携をとり、必要に応じて当院で診療や入院診療を行い、回復したら地域にお返しするというサイクルがうまくまわるように努力しています。新しい大規模な病院ということから、重い症状の患者さんだけを対象とするようなイメージもあるようですので、認知症に関して何でも対応できることを地域の中でももっとアピールする必要があると考えています。
今後の展望についてお聞かせください。
患者さんやご家族と接する中で、「認知症は治らない」「入院すると悪くなるだけ」と悲観的になられたり、逆に「入院すれば認知症も治る」と認識されていたり、一般の方の認知症に対する理解が、われわれ専門家とズレがある場合が多いと感じています。そこで、認知症への正しい理解を深めるとともに、当院に親しみを持っていただきたいと考え、昨年より市民講座をスタートさせました。今後は、認知症かどうかわからない段階でのご家族の相談にも対応していく予定です。開院して4年。病院としての体制も整い、ようやく基盤が安定してきましたので、さらに診療の質を向上させ、地域に根差して病院として成長し、医療安全に関しても今まで以上に気を引き締めて取り組みたいと考えています。認知症に関することなら何でも相談できる、頼りになる存在として地域医療に貢献したいと考えていますので、ぜひ気軽に声をかけていただければと思っています。
福井 俊哉 病院長
1980年東京医科歯科大学卒業。リハビリテーション科の医師の父の背中を見て育ち、神経内科へ進む。長野県の鹿教湯温泉病院や、都立養育院病院、昭和大学横浜市北部病院などで診療に携わる。高次脳機能障害の臨床研究をきっかけに認知症診療にかかわり、カナダ留学では前頭側頭型認知症や認知症治療薬の研究を手がける。横浜市北部病院では医師会とネットワークを構築し、地域の認知症診療を充実させる。2014年病院長就任。