病巣の切除と機能温存をめざす
腹腔鏡手術による子宮内膜症の治療
明理会東京大和病院
(東京都 板橋区)
最終更新日:2023/08/03


- 保険診療
- 子宮内膜症
- チョコレート嚢胞(卵巣子宮内膜症性嚢胞)
月経痛をはじめとする月経困難症に悩みながらも、月経痛は病気ではなく我慢するものととらえて市販薬でやり過ごしていたり、学校や会社につらいことを言い出せない人も多いのではないだろうか。実は月経困難症はさまざまな病気のサインであることもあり、気になったときには婦人科を受診することが望ましいとされている。例えば、だんだんひどくなる月経痛は子宮内膜症の初期症状の1つで、放置しておくと不妊や卵巣がんへと発展するリスクもあることから、早期の発見・治療が重要視されている。そこで、婦人科分野において大規模病院と遜色のない高い治療技術と地域に密着した病院として女性の健康をトータルにサポートする「明理会東京大和病院」の明樂重夫病院長に子宮内膜症の治療について詳細を聞いた。(取材日2022年8月31日)
目次
月経痛や排便痛、性交痛があるときは婦人科受診を。薬物療法または手術で、妊娠しやすい状態の子宮をめざす
- Q子宮内膜症とはどんな病気ですか?
- A
「気になる症状があれば、まずは受診を」と話す明樂先生
子宮内膜は子宮の内側にあり、卵巣から分泌されるエストロゲンという女性ホルモンによって妊娠の準備のために厚みを増していきます。妊娠に至らなかった場合、子宮内膜は子宮から剥がれて腟から外に流れますが、さまざまな原因で剥がれた子宮内膜が月経血とともに卵管を逆流し、子宮の外で子宮内膜や類似組織が生着して、正常な子宮内膜のように増殖することがあります。これが子宮内膜症です。子宮以外の場所で増殖した内膜様組織も卵巣ホルモンによって増殖しますが、月経のように体外に排出されないため、卵巣の中に月経血様の液体がたまるチョコレート嚢胞や、子宮と直腸の間にあるダグラス窩に慢性の炎症による硬結や癒着を引き起こします。
- Q子宮内膜症の症状は? なりやすいのはどんな人ですか?
- A
主な症状は、月経痛など月経困難症が強くなったり、直腸と腟の間のダグラス窩にできた子宮内膜症が進行すると排便痛や性交痛も発症します。月経困難症のある人は、症状のない人と比べると2倍以上もの子宮内膜症発症リスクがあるといわれています。月経痛などがひどくなったと感じたときは婦人科を受診してください。遺伝的な傾向もあり、母親や姉妹で子宮内膜症の人がいれば発症の可能性が高まります。また、子宮内膜症は月経血に含まれる子宮内膜組織の卵管逆流によって起こるため、妊娠中や閉経後は発症しません。月経の回数が多いほどリスクが増えてしまうため、初経年齢の早い人、月経周期の短い人、妊娠をしないこともリスクとなります。
- Q子宮内膜症を疑う場合、どんな検査を行いますか?
- A
2023年7月に導入したMRI。より精度の高い検査が可能に
まずは問診で、月経困難症があるか、遺伝的な要素、月経痛の程度、場所、排便痛や性交痛の有無などを確認後、内診で子宮、ダグラス窩や卵巣の動きや痛みをチェックします。骨盤深部に子宮内膜症がある場合は内診では届かず、病変を見つけられないため、直腸診で病巣の位置や進行具合を診ることもあります。次に、経腟エコーと経直腸エコーを行います。この検査は、病変のすぐそばまで超音波プローブを近づけることができるので、病変のサイズや癒着の程度など圧倒的に情報量が多いのが特徴です。見つかった病変が最終的に子宮内膜症かがんかどうかの判別にはMRIが有用です。また、補助的検査として血中の腫瘍マーカー測定も実施しています。
- Q薬による治療はどういったものがありますか?
- A
薬物療法では鎮痛剤とホルモン剤を使用します。鎮痛剤は痛みを抑えることが目的なので子宮内膜症の進行を抑えることはできませんが、排卵を止めないので、妊娠を希望する人にはメリットのある方法です。ホルモン剤を使った治療は、基本的に女性ホルモンの一種であるプロゲスチンを含んだ製剤でエストロゲンの活動を抑えつつ病巣の進展抑制を図ります。プロゲスチン製剤にはエストロゲンを含む低用量ピルとプロゲスチン単独の製剤があり、症状が月経困難症のみの人には低用量ピルがお勧めです。ただエストロゲンによる吐き気などの症状や血栓症のリスクがあるため、メリット・デメリットを考え自分に合った薬を選んでいくことが重要になります。
- Q手術療法についても知りたいです。
- A
腹腔鏡手術の様子
子宮内膜症の手術には腹腔鏡手術が適しています。内視鏡が病変により近づけるだけでなく、肉眼より鮮明であるため、より精度の高い治療が可能です。さらに傷痕が小さく、癒着も少ないため開腹手術より自然妊娠をめざす上でメリットがあります。ただ、卵巣のチョコレート嚢胞切除を図る際、むやみに切除すると卵巣の正常組織まで取り除いてしまう上に出血が増加し、温存した卵巣内の卵子が電気メスでの止血で減少する場合もあります。子宮内膜症の手術のポイントは子宮・卵巣を元の状態に戻し自然妊娠しやすい状態にすることです。当院では病巣を完全に除去することと機能を残すことのバランスに留意して、卵巣に優しい手術を心がけています。
- Qその他、貴院が得意としている治療について教えてください。
- A
板橋本町駅に隣接しており、アクセスしやすいのも特徴だ
深部子宮内膜症の手術です。骨盤の奥に病巣があると子宮と卵巣、直腸の間の癒着がひどく、無理に剥がすと腸管に穴が空いて人工肛門になる場合もあります。当院では安全性を第一に考え、腸管や直腸を剥離して十分なサージカルスペースを作った後メインの病変を切除する、それまでは病変に触らないという系統的な手術を実践し、国内外にこの概念を発信しています。子宮内膜症が専門の医師がいるため、一般的には難しい部分も積極的に治療を行っています。治療には、熟練の技術、経験、知識、病気への深い理解、そして消化器外科や泌尿器科など他科とのスムーズな連携がないと難しく、そのスキルを持つ医師が複数在籍していることが大きな強みです。

明樂 重夫 病院長
1983年日本医科大学卒業、1987年同大学大学院修了。東部地域病院婦人科医長、日本医科大学付属病院産婦人科病棟医長を経て、2011年より日本医科大学産婦人科教授。2022年4月より現職。日本産科婦人科学会産婦人科専門医、日本生殖医学会生殖医療専門医。生物学的な視点で医学を考えたいと産婦人科医師に。女性医療、女性ヘルスケア領域の確立に尽力。