国立大学法人大阪大学 大阪大学歯学部附属病院
(大阪府 吹田市)
山城 隆 病院長
最終更新日:2025/05/26


口腔医学の教育研究を推進、口腔医療に貢献
診療を通じて口腔医学の教育と研究を推進し、口腔医療の発展に貢献する「大阪大学歯学部附属病院」。同院では保存科、口腔治療・歯周科、予防歯科、小児歯科、口腔補綴科、咀嚼補綴科、矯正科、制御系口腔外科、修復系口腔外科、放射線科、歯科麻酔科、検査部門、顎口腔機能治療部門、障害者歯科治療部門、口腔総合診療部門などの診療に対応。さらに大学病院として各センターも設置し専門医療の提供、医療従事者の育成、国の医療技術水準の向上に貢献するための研究開発機能を担い、大阪北摂から全国にネットワークを張り巡らせて、専門性の高い医療を提供している。その一方で、近隣の国立病院や市立病院、クリニックや医師会とフランクに連携しながら、地域に根差した医療を展開し、吹田市民にも親しまれる開かれた病院となっている。同院で2024年4月から病院長を務める山城隆先生は、「内にこもって発信することを忘れてはいけません。お声がけいただければ、どこへでもはせ参じます」と笑顔で自身のモットーを伝えてくれる。そんな山城病院長に、同院の特徴や取り組みについてじっくりと話を聞いた。(取材日2025年3月12日)
病院の特徴と地域における役割から伺います。

当院は1953年に大阪大学医学部附属病院から独立し、西日本における国立大学歯学部付属病院として発足。現在も独立を継続する国立病院です。歯科、歯科口腔外科、小児歯科、矯正歯科が一般に知られますが、当院はその中に口唇口蓋裂や口腔がん、難治性の歯科疾患、重度歯周炎に対する先進医療など、さまざまな試みを行う診療部門を多数持ち、互いにコラボレーションすることで、より多くの病状に対応しております。“困っているすべての方を受け入れる”ことが開設当時からのポリシーで、西日本における口・顔に関する疾患の「最後の砦」としての役割も担いたいと考えております。また大学機関として優れた歯科医療人の教育に注力し、「口の難病プロジェクト」のもと、分野間の垣根を越えた研究にも邁進。近年では学内外の研究施設や企業と連携した歯科治療のデジタル化、AI・ITの推進による新たな診療環境の構築、診断支援も重点課題として進行中です。
口唇口蓋裂や口・顔の先天性疾患の治療も広く知られていますね。

口唇口蓋裂は世界でもセンター化する動きのある疾患で、本院は2013年から「口唇裂・口蓋裂・口腔顔面成育治療センター」を設置して、治療を続けています。患者さんは西日本エリアを中心に多く来院されており、手術成績も年々伸びているところです。この疾患は外見よりも、実は喉の奥の疾患のほうが深刻であることが多く、例えば口蓋垂が割れていると発音・発声が困難となりますから、耳鼻咽喉科、形成外科とも連携した多人数でのチーム医療が必要となります。また、手術が複雑な上に管理も大変で、幼児期から大人になるまでの各段階で治療を検討する縦軸の医療も不可欠です。われわれは、患者さんが病気を気にせず暮らせるところまでを最終の治療目標として掲げ尽力しています。この病気以外にも、小児期に骨がやわらかくなる低ホスファターゼ症などまれな先天性疾患は数々あり、どの疾病にも対しても積極的に根治をめざし診療を行っています。
研究、開発についてもお聞かせください。

当院は世の中の歯科治療の発展を目標に、さまざまな企業や国と共同研究を行っています。その一つに「近未来医療センター」での、口腔領域の再生に関する研究開発があります。数年前には歯周病患者さんに対する医薬品を開発しています。また最近、特に重点課題と位置づけているのが、AI・デジタル化の推進による治療結果の数値化です。われわれが行う歯科治療では、その結果を目で見える形にすることはできませんでした。そこでコンピューターを介入させ、すべてをいったん数値に置き換え、治療を見える形にすることを、工学部と連携して取り組んでいます。臨床自体を他科の支援のもとで発展させることができるのも、われわれの強みの一つです。
医科歯科連携、また学外連携についても教えてください。

今や糖尿病や高血圧症などの内科的疾患がある方は非常に多く、歯を削るにしてもインプラント治療をするにしても、医学部との連携は必須事項です。また口・顔の先天的奇形では、心疾患の合併率が高いことが周知されており、循環器診療科との連携が欠かせません。障害者歯科では、先天性の疾患のみならず、普段の歯科治療にすら受診に困る方が多くいらっしゃいます。当院では歯科麻酔科の先生の協力のもと、治療困難な方を積極的に受け入れています。また、歯科医療が処置中心から予防中心へと移行した結果、社会が当院に期待する重要な課題は予防・予測、個別化医療であることが浮き彫りとなってきました。そこで企業とタッグを組み、ソーシャル・スマートデンタルホスピタルを立ち上げ、サイバー空間への病院構築を開始しました。われわれがサイバー上に展開する診療情報が、患者さんや歯科医療に従事される方々にもお役立ていただけることを期待しております。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

大学機関として臨床、研究、教育をバランス良く発展させながら、診療分野において成果を上げ、担える人材を増やしていくことが使命であると思います。これまで「リサーチマインドを持った臨床家」の育成を追究してきましたが、これからの時代にはリサーチマインドで得た、最新のサイエンスを医療に落とし込む力も必要です。たとえAIが進化しても、われわれの手に取って代わることはないでしょう。AIで変えられる部分と変わらない部分を見極め、より良く使う手段を考察していけば共存できると考えます。いろいろな病気を抱えて来院される患者さんにおかれましては、より一層、安心安全な医療提供を心がけてまいります。われわれがめざす医学の進歩において、時としてご協力をいただくところがあるかもしれません。そのような局面においても、一つ一つ確認しながら進めてまいります。ぜひご指導・ご支援を賜りますようお願い申し上げます。

山城 隆 病院長
1990年大阪大学歯学部卒業、1995年同大学大学院修了。岡山大学および大学院助手、講師、助教授、ヘルシンキ大学生命科学研究所客員博士研究員、大阪大学大学院助教授を歴任。2007年岡山大学大学院教授。2013年大阪大学大学院教授。2016年大阪大学歯学部附属病院副病院長となり、2024年から現職。