医療法人弘善会 矢木脳神経外科病院
(大阪府 大阪市東成区)
谷口 博克 院長
最終更新日:2021/06/02
脳卒中を中心に総合診療など地域医療を提供
脳卒中を中心に脳外科領域の診療と、地域住民の発熱からけがまで受け入れる総合診療を提供する「矢木脳神経外科病院」。「ストロークケアユニット」と呼ばれる脳卒中ケア病棟を12床有し、時間との闘いである脳卒中の迅速な診断と治療・手術を行う一方、全92床のうち19床は地域包括ケア病棟として脳外科領域以外の患者にも対応している。同院一筋30年超、脳外科の専門家である谷口博克院長に、同院が専門とする脳卒中診療、力を入れて取り組む地域医療、同法人内の取り組みなどについて話を聞いた。(取材日2021年4月23日)
貴院の成り立ちと特徴、理念を教えてください。
2008年に矢木脳神経外科病院、弘善会病院を統合移転し設立されました。急性期を中心に、主に脳卒中の迅速な治療を提供することを目的とし、複数の脳卒中・脳外科の各専門医師、脳卒中の高度な専門知識を持つ看護師らを配置。「ストロークケアユニット」(脳卒中専門病棟)を12床用意し、脳卒中の治療を行ってきました。その一方で地域の方々に脳外科領域だけでなく総合的な診療を提供するべきだとの考えから、けがなどの外傷も含めあらゆる症状の患者さんを受け入れられるよう徐々にモデルチェンジも進め、現在全92床の中に地域包括ケア病棟も19床設置しています。そして当院の理念は「ここに来て良かった」。当法人には病院のほか老人保健施設、通所介護施設、訪問看護ステーションなどの施設がありますが、どのような形であれ「関わった方々に幸せになってほしい」という思いをもって業務にあたっています。
ストロークケアユニットとはどのようなものでしょうか。
当院に救急車で到着するとすぐに救急室に運び込まれます。そのすぐ横にCTやMRIなど脳卒中の診断をつけるために必要な検査機器が並び、診断がつき次第、またすぐ隣にある血管内治療室か、専用エレベーターで直接到着する手術室で必要な処置を行います。そして手術室の隣に病棟があり、そのゾーンだけで診療から手術、入院・リハビリテーションまで可能となっています。先ほども申し上げましたが、脳卒中は時間との闘い。どんなに優秀な医師であっても時間がたってから手術するのでは遅いのです。診断からリハビリまで流れるように行うことができれば、時間的なロスが最小限に抑えられます。また、当院ではより正確な脳状態を把握するため、先進の画像解析ソフトウエアや3テスラMRIを導入しています。脳卒中の患者さんは時間的猶予がなく、病院も選べません。だからこそ私たちはできるかぎりの最良の医療の提供をめざし、設備にもこだわっています。
リハビリの特徴について教えていただけますか。
当院のリハビリテーションには、2021年4月現在で理学療法士・作業療法士・言語聴覚士ら30名以上が在籍しており、専門的なリハビリを提供しています。現状では入院されている方と、退院後にご希望のある方が中心で、外部からの受け入れは難しい状況であること、また健康保険適用内でのリハビリには日数の制限があるため、2019年には大阪・難波に当グループのリハビリテーション専門施設をオープンしました。今後は脳卒中の専門病院としての一面と、地域の方々のための総合診療の提供の両面を推進していくにあたり、訪問リハビリや訪問診療・看護にも力を入れて取り組んでいきたいと考えています。
スタッフの方々と定期的に勉強会などを開催しているそうですね。
当グループは病院・クリニック・訪問看護・リハビリ施設・老人保健施設・通所介護・保育所などさまざまな施設があり、多職種が働いています。理事長を筆頭に各スタッフの目的意識がとても高く、どのような職種であれ「地域の方々のために頑張ろう」と同じ方向を向いていて、みな生き生きと働いてくれていると感じています。職員から聞いた「矢木脳神経外科病院で働いていることが誇りです」「家族に何かあったら診てもらいたいです」という言葉は印象深いですね。現在は新型コロナウイルス感染症予防の観点から開催内容に変更が生じているものの、それぞれ症例や施設活動、問題点などを発表・検証するグループ内の学術大会、一堂に会し親交を深めるシンポジウムなど年2回ほど開催しています。グループがどんどん大きくなる中で、医療・介護・保育などそれぞれ情報を共有し領域理解に努めているのです。
最後に、地域の方々にメッセージをお願いします。
何度も申し上げますが脳卒中は時間との闘いです。私たちは決して「ノー」とは言いません。違うならそれに越したことはありませんから、空振りでも構いませんので「なんだかおかしい」と思ったらすぐに受診してください。当院では「脳ドック」も行っています。例えば検査を受けて脳に異常があったとき、時間的猶予のない疾患であれば病院を探す時間が命取りになるケースもあります。すぐに治療に移行できるよう体制を整えていますので、安心して検査を受けていただけると思います。また、感染症対策として触れることの多い扉などに光触媒コーティングを施しているほか、最近導入したAI問診システムは、待ち時間軽減や受付などでの接触時間を減らすことにも一役買っています。脳卒中をはじめ脳外科領域をより追究しながら、それ以外の領域でも地域住民の方々との距離をもっと縮めていくことが当院の大きな目標です。
谷口 博克 院長
1982年大阪医科大学医学部卒業。「命に直接関わる診療科を」と脳外科を選択し、専門に取り組んできた。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。1991年に医療法人弘善会矢木脳神経外科病院に入職以来30年超、同院一筋でキャリアを積み、「勤続30年、当法人を辞めたいと思ったことが一度もない」という。医学博士。