亀岡市立病院
(京都府 亀岡市)
田中 宏樹 病院長
最終更新日:2025/06/26


診療の「選択と集中」で地域医療を支える
2004年の開院以降、20年以上にわたり亀岡市の地域医療を担う「亀岡市立病院」。嵯峨野線・馬堀駅から徒歩約7分、住宅や農地の広がる一角にあり、緩やかな弧を描く病棟は自然豊かな景観に溶け込んでいる。100床という小規模病院でありながら、公立病院として市民の医療ニーズに応えるべく、各診療科で幅広い疾患に対応した急性期医療を提供している。しかし、2023年から同院を率いる田中宏樹病院長は、「社会構成や医療情勢の変化に対応しつつ、地域医療を支え続けるためには、将来に向けた方針転換も必要です」と語る。実際に同院では、全国的にも知名度を上げている脊椎センターを新たな特色に掲げ、一方でニーズが高まり続ける在宅医療の拠点として、訪問看護ステーションを開設。いずれも利用者は増加し続けているという。また田中病院長の専門である乳腺疾患では、精度の高い検診に努め、高次医療機関との連携も活用した治療を展開する。「地域中核病院としての役割と採算性を見極めつつ、市民の皆さまが安心して暮らせる医療を継続的に提供していきたい」と、田中病院長は未来を見据えている。(取材日2025年5月16日)
亀岡市の公立病院として、歴史を重ねてこられたそうですね。

かつて亀岡市内には、急性期医療を担う公立病院がありませんでした。そこで市民からの要望を受けて2004年に開院したのが当院です。当時すでに、急性期病床の過剰供給が全国的に指摘されていたことや、隣接する自治体に複数の高度急性期病院があるという事情もあり、当院は100床という規模に落ち着きました。一方で急性期医療を実施すべく、医師の数は同規模の病院よりも多く、診療機器も基幹病院レベルの種類と質を備えてスタート。しかしその後、医師の研修制度の転換や働き方改革に伴って医師の確保が難しくなり、当院の規模で多彩な急性期医療を提供すること自体が困難になりつつあります。そこで近年は、将来に向けて方針を転換。脊椎の手術を中心とした急性期医療の一部を残して収益性を確保し、新たに回復期医療にも医療リソースを割く体制を構築しているところです。
脊椎センターで受けられる治療について、教えてください。

脊椎脊髄疾患において豊富な手術実績と高い技術を持つ成田渉医師が、顕微鏡を用いて切開創が小さいMIST(最小侵襲脊椎治療)という術式を導入。出血が少なく手術時間が短い、合併症のリスクも少ないという患者さまの負担軽減につながる手術を自ら執刀しています。さらに成田医師は診療器具の開発にも注力し、VR(バーチャル・リアリティー)を用いた手術の開発にも携わっています。検査データから作成した立体画像をVRゴーグルに取り込み、実際の患部と重ねて見ることができるので、手術の精度がより高まり、スタッフとの情報共有や患者さまへの説明にも生かされています。脊椎センターには全国から患者さまが来られるため、なるべく少ない受診回数で治療が進むよう、病院としても各種検査の流れを整備。社会福祉面も含めて十分なケアやサポートができるようにスタッフを配置するなど、医療資源を集中させてバックアップを行っています。
回復期医療では、訪問看護ステーションを開設されたそうですね。

亀岡市は、隣接する京都市のベッドタウンとして発展してきた歴史があり、高度経済成長期に誕生したニュータウンの多い街です。一方、農村部では京野菜の生産などに従事するご家庭もあります。以前は京都市内まで通院していた方々も、高齢化が進むと「やはり市内で診てほしい」「通院できなくなったので自宅へ来てほしい」というニーズが高まります。そこで、南丹市にある京都中部総合医療センターや、京都市内の高度急性期病院で治療を受けた方を、一旦当院で受け入れ、入院中にご自宅へ戻る環境を整え、さらに必要があれば訪問看護でサポートするという、継ぎ目のない回復期医療を提供したいと考えています。その一環として、2023年4月には院内に訪問看護ステーションを開設。現在は常勤換算で3.5人の看護師が24時間体制で稼働しており、訪問件数を着実に増やしています。市外で急性期治療を受けた方が、安心して戻って来られるようにしたいですね。
乳腺疾患では、治療とともに検診にも注力されているとか。

私は、この地域では数少ない日本乳癌学会乳腺専門医であり、京都府で実施する乳がん検診の精度管理や乳がん検診の啓発活動にも長く携わっています。このため、当院では乳がんをはじめとする乳腺疾患に関して診断から手術、化学療法、さらに先進の治療まで、すべてに対応する体制を整えています。がん遺伝子パネル検査や、乳がん治療に伴う卵子凍結とその後の妊娠出産など、他施設と連携しながら実施。また乳がんは早期発見が非常に重要で、当院では以前から高い技術を持つ診療放射線技師と私が連携し、精度の高い検診に努めてきました。このほどマンモグラフィの機器を新機種に入れ替えましたので、一層質の高い検査を提供できると自負しています。亀岡市には暮らしやすさを求めて移住するファミリー世帯も増えています。乳がんは若い方でも発症しやすいので、ぜひ地域で気軽に検診を受けて早期発見や治療につなげ、長く健やかに過ごしていただきたいです。
今後の亀岡市の医療に寄せる思いをお聞かせください。

これからの日本は、高齢者が一時的に増え、その後は人口急減社会の到来が予測されます。その過程では医療の需要と供給のミスマッチが起こるでしょうし、物価高騰に伴い病院運営はさらに厳しくなるでしょう。そんな中でも亀岡市にお住まいの方が、当院だけでなく近隣の大規模病院も含めた地域の中で十分な医療を受け、最期の時まで亀岡市内で安心して暮らしていけるよう、お役に立てる病院をめざす所存です。同時に市民向けの健康講座などにもさらに力を入れ、今後の当院のあるべき姿について、ぜひ地域の皆さまとも相談しながら進んでいきたいと考えています。それから、自宅で安らかに最期を迎えるためには、高度な医療技術以上に、患者さまに寄り添える看護師や医療スタッフが大きな役割を担うと私は考えています。当院には優秀な看護師がそろっていますが、その技術や思いを次の世代に引き継ぐために、若い看護人材の育成にも注力していきたいですね。

田中 宏樹 病院長
1988年京都府立医科大学を卒業後、同大学第一外科学教室入局。京都第二赤十字病院や松下記念病院など関連病院で研鑽を積んだ後、2004年の開院とともに、亀岡市立病院へ入職。2018年からは同院副院長として病院の運営にも尽力し、2023年4月から亀岡市病院事業管理者兼病院長。専門は乳腺内分泌外科、消化器一般外科、下部消化管外科。日本乳癌学会乳腺専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医。