トヨタ記念病院
(愛知県 豊田市)
岩瀬 三紀 病院長
最終更新日:2024/12/26


新病院の誕生で、笑顔と真心の診療を拡充
「トヨタ記念病院」は、2023年5月に新病棟を開院、2024年7月には健診センター、トヨタアスリートサポートセンター(TASC)をリニューアルオープン。運営母体となるトヨタ自動車株式会社での物作りの考え方を院内でも実践し、発展につなげている同院は、地域住民にとって頼もしい存在であろう。“「笑顔」と「まごころ」あふれる病院~Smile&Heart~”を基本理念として掲げる同院の取り組みについて、岩瀬三紀病院長に聞いた。(取材日2024年9月18日)
病院の歴史について教えてください。

当院の始まりは1938年にトヨタ自動車株式会社挙母工場内にできた診療所です。設立当初は社員を対象にした小さな診療所でした。1942年に37床の病院へ成長、1947年には地域の方にも利用していただける病院になり、その後1962年には334床へ増床しました。1987年に会社創立50周年を記念し「トヨタ記念病院」と名称を改め現在地に新築移転し513床へ増床。先進の医療機器や検査システムを導入しました。移転後も地域災害拠点病院、救命救急センター、地域周産期母子医療センター、地域医療支援病院などの指定を受けながら医療体制の改善を続けました。その成果として、現在では527床の病床を有し、幅広い診療に対応できる体制が整った約1300人の職員が働く当地区の基幹病院へと成長しました。このような成長を支えている要因の一つが臨床研修指定病院であり、毎年多くの優秀な研修医が集まっています。
研修医が多く集まる理由は、どこにあると思われますか?

初期研修の段階から各専門科と密に連携をする総合内科と、すべての診療科と連携する救急科の2科を完備していることが医学生には大きな魅力かと思います。当院を運営するトヨタ自動車株式会社の精神である「教え、教えられる」を伝統的に引き継ぎ、その行動指針を基盤とした人材育成にも注力しています。特に私自身が大切にしているのが「笑顔」と「まごころ」です。患者さまの笑顔をつくるため、笑顔で接し、真心を込めて診療します。また、患者さまの些細な心情の変化にも気がつける医師に育ってほしいという思いから、研修医には「自分の関心のある症状についてだけを聞かないように」と指導しています。疾患特有の症状を診るだけでなく、例えば「食事はおいしく食べていますか?」といった患者さま自身に関する平易な問いかけが役に立ちます。体調が良くなれば食欲も出てきます。逆に食欲がなければ合併症がないかと疑うことも必要です。
近年はどんな診療に注力していますか?

地域のニーズに応えるべく救急科外来・がん診療・手術と3つの領域に注力しています。救急科外来では、より迅速な初期治療をするためにドクターカーを運用しています。がん診療では手術支援ロボットを用いた手術をはじめ、放射線治療、化学療法、緩和ケア、がんゲノム医療などを行っています。手術では2023年3月に2台目の手術支援ロボットを導入し、2024年2月にロボット支援手術の総件数が1000件を超えました(2016年9月~2024年2月)。また、この地域には少ない血管外科や手の外科を専門とする医師が存在していることも当院の強みです。更にハイブリッド手術室を整備しました。2024年7月に東海地方には珍しいスポーツ医療に特化したTASCをリニューアルオープンしました。TASCでは学生をはじめ幅広い層のアスリートを診療しています。
新病院について教えてください。

当院ならではの取り組みとして、搬送ロボットを導入しました。看護師のサポートとして薬や検体などを運ぶことで看護師は患者さまに寄り添う時間が増え、本来の業務に専念できるようになりました。また、屋上に設置したヘリポートはかなり需要があると実感しています。当院の周辺には小児科の高度専門病院がありません。ヘリコプターによってより短時間で専門病院へ搬送できるようになりました。当地域は東南海地震の発生が危惧されるため、本館は免震構造としました。また救急科外来のすぐ横にCTやMRIを設置し、搬送された重篤な患者さまが迅速に検査を受けられる構造にしました。さらに、化学療法センターを15床から30床へ、血液浄化センターを9床から15床に増床するなど、今後増加が予想される疾患への備えも充実させました。両センターの部屋は落ち着いた雰囲気の木目調にし、窓からの緑を眺めながら患者さまがリラックスできるようにしました。
今後の展望をお聞かせください。

急性期医療も大切ですし、未来を背負う子どもたちのために周産期医療をしっかりと行っていくことも地域貢献の一つと考えています。当院には、地域の周産期医療を守る使命があると自負しております。さらに、地域の皆さまの健康寿命も延ばしたいと考えています。充実した健診センターを中心に予防医療にもしっかり取り組みます。また、スポーツによって健康を増進し、健康寿命を延ばしていきたいと考えています。地域の病院と役割を分担しながら、皆さまの健康を守っていくことが重要です。各病院にはそれぞれの得意な分野がありますので、各々が有機的に協力し全力を尽くし、地域一体となって健康増進に取り組んでいきます。

岩瀬 三紀 病院長
1983年名古屋大学医学部卒業後、トヨタ記念病院にて初期研修。静岡県西部医療センターを経て、1985年トヨタ記念病院循環器内科に勤務。米国ハーバード大学霊長類研究所心臓血管部門留学、JR東海総合病院循環器科医長、名古屋大学医学部助教授を経て、トヨタ記念病院統合診療科部長・副院長を歴任。2013年現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。大学時代はラグビー部のセンターとして活躍。