トヨタ記念病院
(愛知県 豊田市)
岩瀬 三紀 病院長
最終更新日:2021/10/20
改善を重ね、笑顔と真心ある医療を提供
矢作川沿いに建つ「トヨタ記念病院」は、工場内にできた診療所が始まりの企業立病院。今では、豊田市を中心とする愛知県西三河北部の地域医療において中核的な役割を果たす病院に成長した。「小児の二次救急医療を輪番で行うなど、豊田厚生病院と連携しつつ、良好な医療の役割分担ができています」と岩瀬三紀病院長は話す。病院完結ではなく、地域完結をめざしており、地域内の救急車の応需率向上にも貢献。「断らない救急」を目標に、日々、改善を重ねてより良い医療を追求している同院は、地域住民にとって頼もしい存在と言えるだろう。新しい病院も建設中で、ますます期待される同院。運営母体となる企業の精神を病院経営にも生かし、発展につなげているという。その取り組みについて、笑顔と真心のある診療をモットーとする岩瀬病院長に、詳しく話を聞いた。(取材日2021年9月8日)
病院の歴史について教えてください。
当院の始まりは、工場内にできた診療所です。1942年には、企業立病院として、地域の方にも利用していただける病院となりました。その後、1987年に本社の50周年を記念し、「トヨタ記念病院」と病院名を改め、現在地に移転新築しました。現在は、患者さんの約8割は地域住民。幅広い診療に対応できる医療体制と527の病床があり、約1100人の職員が働く大規模病院に成長しました。臨床研修指定病院であることも、優秀なスタッフが着実に増えている要因となっています。毎年の研修医募集でも多くの優秀な研修医が集まり、人材育成にも注力してきました。付属のトヨタ看護専門学校もあります。地域災害拠点病院、救命救急センター、地域周産期母子医療センター、地域医療支援病院などの指定も受け、地域に根づいた病院として着実に進化を続けています。
研修医が多く集まる理由は、どこにあると思われますか?
当院では「断らない救急」をめざしていますが、すべての診療科と連携する救急科で、初期研修からしっかり学べるということがあると思います。本社の精神、「教え、教えられる風土」を伝統的に引き継いで、人材育成に生かしています。私が病院長に就任してから呼びかけているのは、「笑顔と真心」。職員同士も患者さんに対しても笑顔で接し、真心ある診療で患者さんの笑顔をつくりたいと思っています。もう一つは、あいさつ。患者さんの返答に耳を傾ければ、体と心の健康状態も把握できます。研修医には、「自分の関心のある症状だけを聞かないように」と教えています。「ごはんはおいしいですか」と尋ねるのも大事です。治療して良くなれば通常は食欲が出てくるはず。でも、食欲がいまいちという場合には、合併症の発症はないかと疑うことも必要です。心臓だけ治っても腎臓が悪くなっていたのでは、患者さんの食欲は低下し、笑顔の提供はできませんからね。
こちらの病院が提供する救急医療の特徴について教えてください。
当院の「ERトヨタ」は、北米型のシステムを採用しています。受け入れるだけでなく、救急患者さんを適切な診療科へ振り分けることが大事なので、総合的に診られる救急担当医が常駐しています。技術や治療法の進歩により、臓器別の各科の専門性は細分化する傾向にありますが、患者さんは一つの領域ではなく、脳血管、心臓、がんなど、多領域にわたって複数の疾患を持つ方も少なくありません。超高齢社会を迎え、複雑化する患者さんの病態を総合的に捉えながら、院内のすべての診療科と連携して適切な治療をしています。そして全科オンコール制によって、専門医師の協力要請を速やかに行える体制を整えています。より迅速に初期治療を開始するために、2019年よりドクターカーの運用も開始。医師と看護師が直接救急現場へ出動できるため、救命率の向上に寄与できると期待しています。また、今後は総合内科とER、集中治療科の連携をさらに強化する予定です。
近年はどんな診療に注力していますか?
近年、進化のめざましいがん医療については、患者さんに最善の医療を提供できるよう、幅広い選択肢を用意することをめざしてきました。先進機器と優秀な人材をそろえ、がんの集学的治療をしています。手術支援ロボットを用いたがんの手術をはじめ、放射線治療機器2種を駆使した放射線治療、化学療法、緩和ケア、がんゲノム医療や遺伝カウンセリングなどに対応しています。手術支援ロボットを活用した手術については、前立腺がん、腎がん、直腸がん、胃がん、肺がん、縦郭腫瘍、子宮体がん、膣式子宮全摘出術に対して実施。中でも直腸がんは、当院で初期研修を終えた医師が、直腸がんのロボット手術で実績のある病院で9年間の研鑽を積んだ後、当院に戻って対応しています。他には、整形外科での肩、膝、足関節などの診療にも力を入れています。スポーツ障害の診療を専門とする医師が在籍しているので、スポーツ障害・外傷の分野にも強みを持っています。
現在、敷地内に新病院を建設中だそうですね。
そうです。新病院では屋上へリポートを設置したり、ハイブリッド手術室を新設したり、救命救急医療の動線を最適化するなど、ハード面が充実しますが、ソフト面も忘れてはなりません。職員同士も日頃から会話が飛び交う、風通しの良い病院にしていきたいですね。病院全体で意識のベクトルを合わせるのは容易ではありませんが、日々のコミュニケーションを愚直に続けることが大事だと思っています。例えば当院にはすべての診療科で当直日誌があり、私や副院長が毎日読んで感想を書いています。率直な意見を書いてもらい、そこから改善策を見い出しているのですが、これは企業価値観の一つ「カイゼン」でもあります。待ち時間を減らすための改善など、成功例はいくつも生まれました。今後も開業医の先生方や回復期病院、救急隊員の方々と深く連携を取りながら地域医療に貢献し、患者さんに選ばれる病院をめざして改善を重ねていきます。
岩瀬 三紀 病院長
1983年名古屋大学医学部卒業後、トヨタ記念病院にて研修。静岡県西部医療センターを経て、1985年トヨタ記念病院循環器内科に勤務。米国ハーバード大学霊長類研究所心臓血管部門留学、JR東海総合病院循環器科医長、名古屋大学医学部助教授を経て、トヨタ記念病院総合診療科部長・副院長を歴任。2013年現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医。大学時代はラグビー部のセンターとして活躍。