公益財団法人天理よろづ相談所 天理よろづ相談所病院白川分院
(奈良県 天理市)
坂上 祐司 院長
最終更新日:2024/10/18
回復期医療や精神科診療、在宅医療に注力
天理駅から車で15分ほどの場所にある「天理よろづ相談所病院白川分院」。大和青垣国定公園内という緑豊かなロケーションで、療養にも適した心安らぐ環境が特徴だ。2003年に開設された同院は、独立した2つの病棟で構成される。内科とリハビリテーション科があるA棟では、急性期治療後の療養やリハビリテーションが必要な患者を一定期間受け入れるほか、在宅診療部門としての在宅世話どりセンターも併設。病院での治療と、自宅や施設での療養を橋渡しする役割を担う。一方、B棟には精神神経科の外来と病棟があり、精神神経科診療に特化した環境の中で連続性のある治療やケアを実施。また両病棟の医師やスタッフは、患者の症状に応じて密に連携しているという。同院で2023年10月から院長を務める坂上祐司先生は、本院である「天理よろづ相談所病院」で研鑽を積んできた循環器内科疾患の専門家だ。本院とのつながりに加え、「これからはレスパイト入院やリハビリ、在宅医療の研修などを通じて、地域医療に貢献していきたいですね」と展望する坂上院長に、同院の診療内容や新たな取り組みを聞いた。(取材日2024年7月22日)
貴院の診療内容や、本院との関係についてご紹介ください。
当院には、療養病棟・回復期リハビリテーション病棟や在宅部門が入るA棟と、精神神経科病棟のB棟があります。A棟では、本院である「天理よろづ相談所病院」で急性期治療を終えた患者さんが当院へ転院し、治療やリハビリを継続しながら、その後長期に過ごせる治療や生活の環境を調整する場として使用しています。本院の患者さんには、ご高齢で複数の疾患を持つ方や認知症の方、大きな手術を受けた方も多く、病状が落ち着くまでの一定期間を過ごせる受け入れ先の選定が困難なことも多く、A棟がその間をつなぐ役割を担っています。また在宅世話どりセンターでサポートする患者さんのレスパイト入院やお看取りなどもお受けしていますし、今後は地域の患者さんについても、レスパイト入院などをお受けしたいと構想しています。B棟には精神神経科の外来部門と病棟があり、通院治療から入院、作業療法など、ここで一貫した治療を提供できることが特徴です。
どのような疾患の方がリハビリを受けていますか。
1つめは脳梗塞や脳出血など脳血管疾患の急性期治療後の患者さんで、約半数を占めています。2つめは運動器疾患、骨折術後や膝関節や股関節の人工関節置換術後の患者さんで、状態に応じて最大90日のリハビリを実施。3つめは心血管や腹部などの大きな手術を受けた患者さんです。本院では心血管病変の超急性期治療を多数実施しており、術後の心臓リハビリを本院と当院で連携しながら実施しています。さらに当院では、慢性期の心臓リハビリも始める予定で、今後は地域からも患者さんを広く受け入れたいと考えています。病棟は、リハビリを行う前提で設計されていて、作業療法室を含む広大なリハビリ室のほか、スロープになった廊下で歩行訓練も行えます。医師やリハビリに携わる理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等の専門職スタッフ、病棟の看護師など多職種とこまやかに連携し、ご家族とも関わりながら、退院後の生活につながるリハビリをめざしています。
精神神経科の診療について、詳しく教えてください。
精神神経科が入るB棟は当院の開設当初からありましたが、2009年には本院にあった外来診療部門もこちらへ移転。患者さんが、落ち着いて治療や療養のできる環境が整っています。統合失調症やうつ病の患者さんが多いですが、最近では本院から認知症を持つ患者さんの転院も増えています。身体疾患と認知症が併存すると急性期治療後の受け入れ先は見つかりにくいのですが、当院では本院の電子カルテを閲覧できますので、治療経過も詳しく把握して、身体科と協働してフォローが可能です。もし症状が急に悪化した場合には、本院の救急を受診して再評価を行うなど、スムーズなサポートも行えます。ですので認知症のある方も当院入院中に症状の安定を図り、地域に移行するという流れになります。なお精神神経科の医師やスタッフは、当院のA棟や、本院の病棟にも交替で足を運び、認知症や術後のせん妄など精神科的な治療を必要とする患者さんをサポートしています。
歴史ある在宅世話どりセンターは研修も実施しているそうですね。
介護保険制度が始まる9年前から本院で在宅世話どりセンターを開設していました。その後、地域で在宅医療へのニーズが高まったことを受け、2019年に部門本体が当院内へ移転しました。同部門は当院の入院患者さんが自宅へ戻られる場合や、本院で治療する患者さんがご自宅での最期を希望された場合に、サポートに入ります。逆に当院の病棟で、在宅患者さんの一時入院や在宅看取りが困難になった方の入院も行います。スタッフが訪問看護や訪問診療など地域の事業者と連携し、チームの一部として動くこともあります。なお当院では、在宅医療を志す先生に向けた指導も行っています。開業での訪問診療の必要性を痛感する先生方は増えています。当院で幅広い経験を積んだ先生に、当院をバックアップ施設としてご開業いただければ、相互に助け合えると考えています。
今後の展望と、地域の方へのメッセージをお聞かせください。
当院の入院患者さんはこれまで、本院からの転院が大半を占めてきました。ただ、社会全体でご高齢の方が増え、一方で急性期病院で入院できる期間が限られている現在、「まっすぐ家に帰れる状態ではない」「もう少しリハビリができたら元気になるかも」と、お悩みのご家族も少なくないでしょう。当院では精神科も含め医療的なサポートがしっかりしていますし、リハビリも充実しています。長期療養を行う病院や施設、ご自宅へ移る前のワンステップとして、当院がお役に立てる場面は多いと思います。また、ご自宅で療養される患者さんやご家族にとって、「いざ」という場面で頼れる病院があるのは大きな安心です。ご家族の体調不良に伴う患者さんの一時入院や、お看取りのご依頼は今もある程度お受けしています。精神神経科でも、診断や治療、日々のケアにお困りでしたらサポートできる部分は大きいと思いますので、まずは一度、ご相談ください。
坂上 祐司 院長
1990年北海道大学医学部卒業。天理よろづ相談所病院で研鑽を積む。その後大阪市立大学医学部付属病院(現・大阪公立大学医学部附属病院)や大阪市立総合医療センター循環器内科で勤務し、2003年には米国スタンフォード大学留学。2007年より東住吉森本病院に入職し、2009年には循環器内科部長。2023年天理よろづ相談所病院白川分院に着任、同10月から現職兼天理よろづ相談所病院副院長。