独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター
(福岡県 福岡市南区)
森田 勝 院長
最終更新日:2025/03/14


福岡、九州におけるがん治療の中核を担う
1972年に設立されて以来、50年以上にわたってがん専門診療施設として地域の医療を支えてきた「九州がんセンター」。「私たちは、『病む人の気持ちを』、そして『家族の気持ちを』尊重し、温かく、おもいやりのある、最良のがん医療をめざします」という基本理念のもと、がん診療、研究、教育、患者サポートなど幅広い側面から質の高いがん医療を追究し続けている。九州におけるがん診療の拠点として、手術療法、放射線療法、化学療法の三大療法を兼ね備えた集学的治療のほか、ゲノム医療や緩和ケアにも対応。ロボット支援手術や放射性医薬品を用いたがん治療などの先進的な治療も積極的に取り入れている。2024年から院長を務める森田勝先生は、「患者さんにとって良い病院であることはもちろん、職員自身がやりがいを持って働ける環境をつくることで、患者さんとそのご家族に還元できる病院にしていきたい」と想いを語る。これまでの九州がんセンターの取り組み、これからめざしていく姿について森田院長に聞いた。(取材日2025年1月22日)
病院の概略、特徴などについてご紹介ください。

九州がんセンターは、1972年に九州におけるがん診療専門施設として設立されました。都道府県のがん診療連携拠点病院に指定され地域全体のがん診療、研究、教育、患者サポートの役割を担っています。当院は、通常のがん診療に加え、ロボット支援手術や先進的な放射性医薬品を用いるなど、高度な診療技術の導入にも力を入れております。このような「高度な診療」を”日常診療”として安全性に配慮しかつ適切に日々行っています。また、地域の病院・クリニック、介護施設、患者会、行政など地域全体でがん患者をどのように支えていけるかという視点を大切にしながら、福岡に根づいた活動にも幅広く取り組んでいます。
病院の方針や、力を入れている点について教えてください。

当院は「4つの柱」を軸に運営しております。第一に高度な診療、第二に研究、第三にヒューマニズム、第四にチーム医療です。これらの柱は初代院長が掲げた「病む人の気持を」というヒューマニズムの精神に根差しており、患者さん一人ひとりに寄り添ったケアを軸に据えています。また、チーム医療の実践により、医師、看護師、心理士、ソーシャルワーカーなど多職種が連携し、患者さんの全体的な健康と生活を支える体制を整えています。がんの治療は、外来から入院、治療、退院後の在宅治療、そして緩和ケアと、患者さんの一生と関わるものです。その生涯にわたって「切れ目のないケア」を提供できるように、各セクションで創意工夫をしつつ対応しています。例えば、当院の看護師の提案でスタートした退院後の「電話訪問」や「訪問看護ステーション」などが良い例ですね。退院後の不安な気持ちのサポートとしてとても重要な役割を担っています。
診療科にも特徴があるようですね。

九州がんセンターには、国内でも珍しい「老年腫瘍内科」があります。これは、高齢の患者さんの科学的な老いだけでなく、持病や経済的・社会的背景を総合的に評価し、一人ひとりの患者さんの将来を考えた上で適切な治療を選んでいくプランニングを行う科です。リスクと効果を科学的に分析しながら、きめ細かなケアを行うことで、生活の質を維持・向上しながら治療を受けられる体制を整えています。また、腎臓や膀胱などの尿路、前立腺などの男性生殖器、副腎などの後腹膜臓器、がんや肉腫などの悪性腫瘍など、複数の領域にまたがる事例に対して効率的に治療を行うため、当院では「泌尿器・後腹膜腫瘍部門」を開設しました。悪性腫瘍である後腹膜肉腫の窓口となり、各領域を専門とする医師、スタッフが合同で行うカンファレンスを行い、最適な治療の提供をめざして、手術療法、薬物療法、放射線治療による集学的治療に取り組んでいます。
より良い病院運営に向けて取り組んでいることを教えてください。

「オール九州がんセンタープロジェクト」という取り組みがあります。これは、医師、看護師、スタッフなど職種を問わず、自ら手を挙げて主体的に多職種でチーム医療を行っていくプロジェクトです。例えば、一人のソーシャルワーカーの「経済的問題を理由とし治療を断念する患者を減らしたい」という思いから始まったチーム活動は、全国的にも注目されています。また、「はなまるチーム」という名前の、医療安全の意識向上の取り組みも。これは、潜在的なリスクを未然に防ぐための報告を積極的に行い、その内容に対して適切に評価を行っていくものです。これらの主体的な取り組みのもと、職種を問わず全スタッフが前向きに治療、業務に取り組んでいます。患者を笑顔にするためには、病院のスタッフが、主体的に楽しく笑顔で働けることが重要ですからね。
最後に、今後の展望やめざす姿について教えてください。

やはり、患者さんに「九州がんセンターに来て良かった」と思ってもらえる病院にしていきたいですね。その上で、家族や知り合いに「がんならやっぱり九州がんセンター」だと言ってもらえる、そんな病院になれるのが理想です。その上で、患者さんに満足してもらうためには職員も満足出来る病院であることも重要です。職員の笑顔から、患者さんの笑顔へ、そしてご家族の笑顔へと、笑顔のループが生まれる病院にしていきたいです。一人ひとりの職員が、目の前の患者さんのために、九州がんセンターのために、そして自分自身のために何ができるのかを常に考え、行動に移していける環境整備が、院長としての私の役目。主体的により良い病院が生まれる土壌をつくり、高度な診療や技術力だけでない、より良い九州がんセンターをつくっていきたいですね。

森田 勝 院長
1987年九州大学医学部卒業。九州大学第二外科、九州大学大学院外科分子治療学講座准教授、九州がんセンター消化器外科部長、副院長などを経て、2024年九州がんセンター院長に就任。専門は消化器外科、消化器がん。「患者さんのために考え、そして行動する」という行動指針、「切れ目のないケア」というモットーのもと、病院運営に取り組む。