国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院
(神奈川県 横須賀市)
長堀 薫 病院長
最終更新日:2023/06/27
AI活用や地域連携で次世代の医療をめざす
横須賀中央駅から徒歩7分、横須賀市の中心部で「横須賀共済病院」は120年近く診療を続けてきた。現在は高度急性期医療に力を入れ、同院周辺の医療機関17施設との協力により三浦半島全体から患者を受け入れている。治療後は再び地域で患者を診てもらう連携によって、三浦半島内で高度な医療から看取りまで完結できる体制づくりをめざしている。2014年に就任した長堀薫病院長は、高度急性期医療に必要な手術支援ロボットの導入、重症入院患者向けのICU開設など院内設備の充実を図り、近年はAIなどDX(デジタルトランスフォーメーション)の活用による患者満足度の向上、職員の負担軽減に取り組んでいる。「DXや地域連携で、医療の質、患者さんと職員の利便性・快適性を高め、地域の皆さんが安心して受診でき、職員が誇りを持って働ける病院になるのが目標。当院の理念『よかった。この病院で』のとおり、この病院があって安心と思われる信頼関係を地域の皆さんと築いていきたいですね」と語る長堀病院長に、同院の診療の特色や新たな取り組みについて詳しく聞いた。(取材日2023年5月17日)
診療面での特徴や近年の動きを教えてください。
私が2014年に病院長に就任し、「小児科医療の維持」と「救急車全応需」をその時点の課題としました。小児科は横浜市立大学医学部の協力で医師を確保し、救急医療では院内の意識改革によりポテンシャルを十分に発揮することで、応需率は98%程度(2015年~2023年5月)に上昇しました。ビジョンを「高度急性期病院であること」「マグネットホスピタルになること」として診療体制を整備し、現在は救命救急センターで救急患者の初期治療に精通した医師やスタッフが救急開胸、大動脈内バルーンパンピング術など必要な措置を行い、各診療科の医師と連携も良く、緊急の手術やカテーテル治療、動脈塞栓術につなげています。高度急性期医療は手術支援ロボットの導入などインフラ整備も充実させました。横須賀・三浦医療圏の各医療機関と地域医療連携協定を結び、三浦半島全域から患者さんをご紹介いただき、治療後にお戻しする協力関係が築けています。
医療のデジタル化も積極的に進めていると伺いました。
はい。いわゆる医療DXが患者さんや職員の満足度向上、医療現場の働き方改革の実現などに役立ち、今後の病院運営に必須と考えているからです。また、新型コロナウイルス感染症の検査や治療に携わった経験から、可能な部分は非接触にすべきとの思いもありました。その取り組みの一つが音声入力による電子カルテシステムの開発で、実証実験を複数の部署で行っています。実現すれば、医師はパソコン画面ではなく患者さんの顔を見て診療できるようになり、病棟では患者さんの容体を音声でリアルタイムに電子カルテに記載できます。このほか入院時や手術に関する患者さん・ご家族への事前説明を、タブレット内のキャラクターや医師のアバターが行う取り組みも進めています。患者さんにとっての受診効率化、新たな技術による医療サービスの安心感を図れたらと思います。もちろん医師・スタッフの働き方改革にも貢献しています。
改めてがん診療などを含む地域連携をお聞かせください。
私たちは、横浜市・藤沢市の一部を含む三浦半島全体の医療を支えるため、17の連携病院と当院で地域病院アライアンスを組んでいます。横須賀市立の2病院も参加しており、各地域からご紹介いただく患者さんに対し、適した高度急性期・急性期医療が受けられるよう役割分担をしています。三浦半島の高度急性期・急性期には十分対応できると思うのですが、横須賀市内では急性期治療後の受け入れ先がまだ少ないようです。この現状は今後の地域医療体制の課題として行政に提言もしています。さらに当院は地域医療支援病院で、地域のかかりつけ医の先生方から患者さんをご紹介いただいています。また、がん診療では地域がん診療連携拠点病院として地域連携を図り、紹介患者さんには各領域で手術・放射線治療・化学療法を組み合わせた集学的治療を実施。地域の医療機関とは地域連携クリニカルパスで切れ目のないがん診療の継続をめざしています。
病院の理念についての思いをお聞かせください。
以前の「医は意なり」は「患者さんの心を理解することこそ医療である」という医療者の基本的な心構えを述べており大切な理念でした。それをよりわかりやすく、不安や悲しみ、痛みなどつらい思いも抱えざるを得ない患者さんやご家族だけでなく、当院職員にとっても大切な病院でありたいという願いを表現するため、新たな理念を全職員から募集。それによって決まった「よかった。この病院で」を2017年から掲げています。患者さんや職員はもとより、ご紹介いただく開業医や病院の方々、当院に関わるすべての人にそう感じていただきたいと願っています。また、当院には後進を育成する教育施設としての責務から、当院で研修を受けて良かったと思われる病院でもありたいと思っています。2024年から既存の建物を集約して高機能化する新棟の建設も始まり、設備面からも一層良かったと思われる病院に進化する予定です。
今後はどのような病院を目標とされるのでしょうか?
AIなどDXの活用と病院アライアンスの充実により、テクノロジーを生かした次世代型病院として機能することです。診療の質、患者さんと職員の利便性・快適性を高め、地域の皆さんが安心して受診でき、職員が誇りを持って働ける病院になります。院内に全職員を対象とした保育園を設け、働きやすさに配慮。医師の業務軽減策として事務作業を行うスタッフの拡充なども行っています。すでに看護師の離職率は減少し、仕事への意欲と満足度が高い職員の数も増えるなど、着実に成果は出ています。職員の意欲や満足度が高まることは患者さんの診療にも良い影響が出るのは間違いありません。さらに地域病院アライアンスを通して、多くの医療機関と協力しながら三浦半島全体で医療の質の向上に取り組み、地域の皆さんが将来も十分な医療が受けられる体制作りに努めますので、ご紹介の際には安心してご利用いただければと思います。
長堀 薫 病院長
横浜市立大学医学部卒業。同大学病院、横須賀共済病院、山梨医科大学医学部附属病院(現・山梨大学医学部附属病院)、City of Hope研究所、横浜赤十字病院などを経て、2001年横須賀共済病院外科部長就任。診療部長や副院長などを歴任後、2014年から現職。日本外科学会外科専門医、日本消化器病学会消化器病専門医、日本消化器外科学会消化器外科専門医、日本肝臓学会肝臓専門医。