学校法人 近畿大学奈良病院
(奈良県 生駒市)
村木 正人 病院長
最終更新日:2025/02/18


救急から高度医療までを担う地域医療の要
1999年の開院以来「患者本位の開かれた病院」として、医療を提供してきた「近畿大学奈良病院」。生駒山の雄大な自然に囲まれた中にある、518床と豊富な診療科を備えた西和地区の中核医療機関だ。西和地区の救命救急センターとして24時間365日体制で重症患者の受け入れに迅速に対応。「断らない医療」を掲げ、約600の地域の医療機関とのホットラインを設置し、心臓発作や脳卒中などの緊急時には医師が直接対応する体制を構築する。がん治療においては、2025年から稼働予定の放射線治療装置をはじめとする先進的な医療機器の導入や、内視鏡手術、IVR(画像下)治療など、患者への負担が少ない治療法を積極的に取り入れる。さらに複数の診療科の医師、看護師、技師がチームとなって一人ひとりの患者に適切ながん治療を提案する体制を整えている。地域がん診療連携拠点病院に指定され、西和地区を中心に、大阪府の四條畷市や東大阪市からも多くの患者が来院する地域医療の要としての役割を担う。「地域住民の頼れる存在でありたい」と語る村木正人病院長に、病院がめざす医療について話を聞いた。(取材日2024年12月18日)
御院の特徴や地域における役割を教えてください。

当院は豊富な診療科を擁する西和地区の基幹病院として、地域の中核医療を担っています。西和地区の救命救急センターとして3次救急医療を提供し、また地域災害拠点病院として地域全体での防災・災害対策にも注力しています。生駒市と協力して災害対策訓練を実施し、大規模災害時には南和地域から京都、大阪まで、府県を越えた医療連携体制の構築に取り組んでいます。特に力を入れているのが「断らない病院」としての取り組みです。現在、約600の医療機関と連携し、心臓発作や脳卒中などの緊急性の高い疾患に対しては、医師が直接対応できるホットラインを設置しています。救急医療において特に誇れるのが、救急車から処置室までわずか5mという動線で、一刻を争う救命処置にすぐに対応できる体制です。診療圏は西和地区を中心としながらも、大阪府の四條畷市や東大阪市など、府県を越えて多くの患者さんにご利用いただいています。
更新した放射線治療装置はどんな特徴がありますか?

放射線治療装置を15年ぶりに更新しました。2025年6月から稼働予定となりますが、県内でも導入している医療機関が少ない先進的ながん治療装置です。肺腫瘍などの呼吸移動に対応する点、放射線を集中させる計算を自動で最適化する点、光学カメラや熱センサーを活用して照射位置精度を改善する点、などが新規採用されています。これにより周囲の正常な組織への影響が最小限に抑えられるため、患者さんの放射線による副作用や負担の大幅軽減が期待できるのです。また、これまで手作業で行っていた計測なども機械化され、より精密な治療が可能になります。当院では、外来での放射線治療を基本としており、仕事や普段の生活を続けながらがんの放射線治療が受けられる体制を整えています。また、神経内分泌腫瘍など、これまで治療が難しいとされていた症例にも対応可能となるため、より多くの患者さんに高度な放射線治療が提供できるようになると考えています。
ご専門の呼吸器・アレルギー領域の取り組みを教えてください。

アレルギー疾患については、奈良県内の医療機関の中でも充実した診療体制を整えています。当院には、日本アレルギー学会認定アレルギー専門医が非常勤を含めて4人在籍し、特に喘息の分野ではその専門性を生かして先進的な治療を取り入れています。多くの重症喘息患者さんの診療に当たっており、充実した吸入指導はもちろん、バイオ製剤も多く取り扱っています。さらに、食物アレルギーの診断なども積極的に行っており、包括的なアレルギー診療を提供しています。また、気管支鏡検査においては、患者さんの負担を減らすため静脈麻酔を使用し、CTを使って気管支を実際に内視鏡で診ているような画像で観察する2つの異なる「仮想内視鏡システム」を併用することで、より精度の高い診断に努めています。
ほかに注力されている分野はありますか?

術後の痛みを抑え回復も早いとされる「内視鏡手術」に特に力を入れています。以前は大きく切開していましたが、現在では腹腔鏡や胸腔鏡を使用した低侵襲手術が主流です。高度な技術を要しますが、当院では腹腔鏡手術を消化器がん治療に積極的に取り入れています。また、IVR(画像下)治療も今年より本格的に再開しました。例えば、喀血(かっけつ)の患者さんに対して、カテーテルを使って出血している血管を塞栓する治療なども行っています。さらに不整脈のカテーテルアブレーション治療にも注力しています。多くの施設では循環器の医師が自身で麻酔・鎮静を行いながらカテーテル治療を実施していますが、当院では麻酔科医が専門的に麻酔管理を担当することで、カテーテル治療に専念できる体制を整えています。来年度にはロボット支援手術システムの導入も予定しており、前立腺がんをはじめ、より精密な治療が可能になる予定です。
今後の展望についてお聞かせください。

当院は市民の皆さまにとって「頼れる存在」であり続けたいと考えています。がん診療においては、例えば呼吸器の腫瘍の場合、呼吸器内科、腫瘍内科、呼吸器外科、放射線科、病理診断科など複数の専門分野の医師に加え、技師や看護師もチームの一員として、一人ひとりの患者さんの治療方針を多角的に検討する体制を整えています。一人の医師の判断ではなく、さまざまな専門分野のスタッフが知恵を出し合い、主治医を通じて患者さんに適切な治療を提案させていただいています。また、院内では、診療科間の垣根が低く、医師、看護師、臨床検査技師など、すべての職種がフラットな関係で協力し合える雰囲気が自然と育まれているのです。第三者評価でも高く評価されているこの職場環境を大切にしながら、今後も地域の皆さまの健康を守る病院として、さらなる医療の充実を図っていきたいと考えています。

村木 正人 病院長
近畿大学医学部卒業。1993年同大学大学院医学研究科修了。同大学第4内科やアメリカのメイヨー・クリニック留学などで研鑽を積む。2010年に近畿大学医学部奈良病院の呼吸器・アレルギー内科の教授に就任。これまでの経験と先進の医学知見を生かし患者の治療に尽力。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医。2021年4月より現職。