財団法人創精会 松山記念病院
(愛媛県 松山市)
木村 尚人 理事長
最終更新日:2023/09/11
地域と連携し、健康な社会を支える
愛媛県中予地方において、「松山記念病院」は、精神科医療の中核病院として知られている。1932年に松山脳病院として開院し、1992年には現在の名称に改称した。「いつでも、安心して、入院できる病院」を理念に、365日24時間対応の精神科救急病棟をはじめ、重度認知症デイケア施設や訪問看護ステーション、児童思春期の外来などを備え、さまざまな精神疾患に対応する。「長年地域との関わりを大切にしながら、患者さんやスタッフたちの満足度を高めることに積極的に取り組んできました」と穏やかに話すのは、1983年から同院に勤務し、2013年から理事長を務める木村尚人先生。地域における精神科病院の在り方などを聞いた。(取材日2020年8月24日)
病院の歴史を教えてください。
1932年に松山市南吉田で松山脳病院として開院して以来、当院は地域における精神科の基幹病院として、救急医療から患者さんの社会参加サポートまで幅広く取り組んできました。1992年に病院名を「松山記念病院」に改称し、1997年に移転して新築建て替えを行い、現在に至ります。私が当院に赴任したのは1983年ですが、この近辺は町が非常に発展したので、昔の面影はなくなりましたね。当時は、患者さんが数多く訪れる一方で、医師は10人程度と、スタッフの数も足りていませんでした。厚生労働省の「精神障害者は病院で診療する」という隔離政策もあり、日本は世界から見ても精神科のベッド数が多い国でしたが、時代とともに、精神障害者は病院ではなく、地域で見守るという流れに変わりました。当院でも退院支援に力を入れるようになりました。
病院の特徴を教えてください。
当院は693床のケアミックス型の精神科病院として、医師や看護師、薬剤師、精神保健福祉士、臨床心理士など500人を超えるスタッフが医療に携わっています。松山市では精神科救急の輪番制度があり、市内の病院で担当していますが、1ヵ月間の約半数を当院が担当しています。一般的な二次救急医療機関に搬送された後、精神疾患の治療を優先するケースについては、サポートをする事業もあり、その半数も担っています。当院のかかりつけの患者さんに関しては、365日24時間の精神科救急対応体制を確立しており、基幹病院としての役割を果たしています。また、2008年に精神障害者のフットサルチームを立ち上げ、スポーツを通じた社会参加や地域交流のサポートをしています。単に治療して退院しただけでは、また入院を繰り返してしまう恐れがありますので、しっかりと社会参加支援に力を入れていきたいと考えています。
地域の医療機関との連携についてはいかがでしょうか?
入院や精神科救急の患者さんの多くは、他院からの紹介です。当院では、薬やカウンセリングだけでなく、作業療法士によるリハビリテーションなど、多種多様なスタッフたちが連携して患者さんのサポートに力を注いでいます。地域のクリニックとも連携し、患者さんの社会参加を積極的に支援していきたいと思っています。ただ、精神科の病院ですので、地域の方々にご迷惑をおかけすることがあるかもしれません。だからこそ、感染対策などを徹底することで、災害などの非常時に当院を避難場所として活用していただきたいと思います。さらに、スタッフたちが働きやすい環境をつくる健康経営を行い、地域への恩返しもしていきたいと思っています。地域と医療が連携して、人々の健康な暮らしを支える「スマートウェルネスコミュニティー」を目標にしています。
今、力を入れていることは何ですか?
患者さんとスタッフの満足度を上げることで、医療の質を高めていきたいと思っています。どこの病院も「うちはすごく良い医療をしていますよ」と言いますが、その質を評価するのは、在院期間と第三者評価、そして患者満足度だと思っています。これからも患者さんに、心のこもった医療を提供していきたいですね。また、内部評価も大切です。医療の質を高めるためには、スタッフを守っていくことが欠かせないため、スタッフの働き方改革も積極的に行っていく予定です。人事考課の見直しなど働き方改革によってスタッフのモチベーションを上げ、病院全体のブランディングを高めることも一種の社会貢献だと思います。当院のブランディングが評価され、それが地域に浸透していくことが、町おこしにもなると信じています。
読者へのメッセージをお願いします。
当院の一番の大きな目標は、地域包括ケアシステムの強化です。例えば、当院のスタッフに対して感染対策の勉強会を行い、そのノウハウをもとに地域の企業に「こういうレクチャーをやっています」と伝えていくこともできると思うんです。また、昨今は災害が多いため、災害時の精神医療活動にも取り組み、社会に貢献していきたいと考えています。健康経営で職員満足度も高めながら、地域にしっかりと貢献し、患者さんにもスタッフたちにも「ここに来て良かった」「働いて良かった」と思ってもらえるようにしていきたいですね。
木村 尚人 理事長
1979年鳥取大学医学部卒業。1983年より同院に勤務。2013年から現職。「人々の意識が変わり、昔に比べて精神科の担う社会的な役割は大きくなってきました。社会的なニーズの変化に伴い、当院も地域に根差した基幹病院としての役割をしっかりと果たしていきたい」と語る。精神保健指定医。