県立安芸津病院
(広島県 東広島市)
後藤 俊彦 院長
最終更新日:2023/03/16
救急、一般、在宅を包括した医療を提供
1948年にスタートした「県立安芸津病院」は、1953年から1962年までは結核病床を併設、以後現在まで約100床の入院設備を擁する総合病院として地域医療を支えている。中でも救急医療については幅広いエリアから軽症および中等症の患者を受け入れているほか、大崎上島などの島しょ部における救急医療の中心的存在となっている。一方で高齢化に伴う地域ニーズに対応するため、高血圧や糖尿病といった生活習慣病などの慢性疾患診療をはじめ、内視鏡検査ステーションによる病気の早期発見・早期治療に努める。加えて下肢の人工関節手術を得意とし、広島市内や岡山県からも患者が訪れるという。2019年に院長に就任した後藤俊彦先生は「関節の痛みは我慢せず、体の異変を感じたらすぐに受診することが重要。早めに治療すれば早い回復につながり、結果長生きにつながる」と呼びかけている。現在も整形外科を専門として人工関節手術などにも携わっているという後藤院長に、病院の歴史や理念、診療の特徴などについて詳しく話を聞いた。(取材日2023年1月16日)
まずは病院の歴史について教えていただけますか?
当院は1944年に三井造船付属病院として診療を開始しました。1953年から1962年までは結核病床を併設、以後、時代のニーズに応える形で徐々に現在の総合病院へと姿を変えてきました。この地域には大きな造船所のほか、カキの養殖など漁業も盛んです。また眼前には海が広がり、その向こうには大崎上島、大崎下島などの島しょ部があり、島に住む人たちの一般診療や救急医療に対応するのも一つの大切な役割となっています。他方で高齢者が多い地域ということもあって、健康づくりにも力を入れています。例えば寝たきりの原因となる転倒を予防するための靴下の開発協力を地元企業に対して行ったり、転倒予防体操を考案して啓発したりと、予防面における活動も拡大しています。そのため何か一つに特化するのではなく、救急医療、一般診療、地域医療、そして訪問医療などすべての領域を幅広くカバーしていくのが当院の大きな役割となっています。
理念に込められた想いについてもお聞かせください。
「地域の皆さまの健康と暮らしを支えるために力を尽くす」という理念を掲げていますが、私自身、父が開業医ということもあり地域に密着した医療の大切さを感じていました。昼夜問わず患者さんに対応し、感謝の言葉を受ける父の姿を見てきたからこそ、強く感じたのかもしれません。地域密着というと、田舎の病院をイメージしがちですが、都会であっても患者さんの治療にベストを尽くすことは、ある種の地域密着と言えます。基本的に救急や診療を断らない、質問には丁寧に答える、説明を惜しまないという姿勢を大切にしていますが、救急要請が重複した時など、断らざるを得ない時もあります。また現代ではコンビニ受診なども問題になっていますが、完全にシャットアウトしてしまうと救急の意味がなくなってしまいますから、できる範囲で対応していくことが重要だと考えています。
内視鏡検査や整形外科領域での取り組みが特徴的です。
内科領域では内視鏡検査ステーションという、内視鏡検査に特化した部門を展開しています。可能な限り安全に配慮し確実な診察と診断をめざすもので、健康診断と連動させ病気の早期発見、早期治療につなげています。そこで拾い上げた病気を外科へとつなぐことで、スムーズな手術を実現する態勢を整えています。整形外科では人工関節手術がメインとなっており、特に人工膝関節については内側と外側の関節両方を置換するのではなく、悪くなっていない関節は保存し片側だけを置換するという人工膝単顆置換術に積極的に取り組んでいます。傷や出血が少ない低侵襲な治療法で、従来の手術よりも早い社会復帰が望めます。また、この手術では、より自然でスムーズな膝関節の動きの再現が期待できるため、治療後は正座をめざすこともできます。地域的に漁業や農業など立ち仕事に携わる方が多いので、今後も積極的に行っていきたいと考えております。
在宅医療にも力を入れていると伺いました。
この地域には85歳以上の高齢者が多く、在宅医療のニーズは非常に高いため、当院では訪問医療、訪問看護、訪問リハビリテーションにて対応しています。例えば消化器や関節の手術を受けて退院したものの、退院後の生活に不安を抱える方に対して看護師による退院前訪問や退院後の電話訪問を行ったり、さらに褥瘡ケア、終末期のサポートなど、さまざまなケースで関わっています。対象としては当院の患者さんで通院が困難になった方だけではなく、周辺のクリニックからご紹介いただいて対応することもあります。今後、ますます高齢化は進んでいきますし、幅広いニーズに応えられる体制を維持していくことも当院が果たすべき使命の一つでしょう。在宅医療は国の重要施策でもありますから、当院は広島県下において救急医療、一般診療、在宅医療を組み合わせた公的病院のモデルケースとして注力していきたいと考えています。
最後に今後の展望や読者の皆さんにメッセージをお願いします。
どの診療科においても専門性の高い医師が在籍していますが、整形外科に関しては2023年4月に医師が増員となりますので、人工関節手術はさらに強化していきたいと思います。皆さんに選んでもらえる魅力ある病院になるためにも、勉強会や公開講座など地域に対するPRに取り組んでおりますし、他方で医療関係者に対しては講習会での発表を通じ、実績や専門性を積極的に伝えアピールすることで、円滑な病病連携や病診連携につなげていきたいと考えています。メッセージとしまして、痛みなど自分の体に異常を感じたら我慢されず、できるだけ早めに医療機関を受診するようにしてください。早期治療により早期回復、機能の維持が期待できます。特に膝や股関節の痛みを取ることで歩行能力が維持できれば、心肺機能を高め、長寿につながる可能性は高くなります。何かあれば早めに医療機関に相談することを心がけてください。
後藤 俊彦 院長
1988年、埼玉医科大学卒業。広島大学医学部整形外科教室に入局し、県立広島病院などの関連病院に勤務した後、2000年に県立安芸津病院へ。2019年より現職。専門は膝関節・股関節の人工関節置換術で、日本専門医機構整形外科専門医、日本リウマチ学会リウマチ専門医の資格を持つ。