近畿大学病院
(大阪府 大阪狭山市)
東田 有智 病院長
最終更新日:2023/08/10
高度な医療と南大阪の地域医療を両立
大阪狭山市にある「近畿大学病院」は、丘陵地帯に広がるニュータウンに隣接した緑豊かな環境に立つ。1975年の開院から約半世紀にわたり、広大な南河内医療圏において「最後の砦」を担い続け、三次救急や高度急性期医療のみならず、大規模な病院が少ないという地域の事情に応えて幅広い層の患者を受け入れてきた。東田有智病院長は「特定機能病院として国際水準の医療の提供に努めつつ、敷居の低い、断らない医療も大事にしています」と語る。そんな同院は医学部とともに、2025年11月に堺市南区、泉北高速鉄道泉ケ丘駅前への新築移転を予定。ITの活用による診療環境の充実やアクセスの向上、さらに堺市との連携による地域の活性化や住民の健康支援など、新たな取り組みにも注目が集まる。「南河内や近隣の患者さんに、先進かつ質の高い医療を快適な環境で提供し、さらに他府県や海外から来られる患者さんにも広く貢献していきたい」と患者ファーストの姿勢で移転事業に取り組む東田病院長に、診療の特徴や新病院について話を聞いた。(取材日2023年5月25日)
開院からまもなく半世紀を迎えます。
近畿大学医学部が1974年に開設され、その翌年に病院の診療がスタートしました。当院がある大阪狭山市は南河内医療圏と呼ばれる地域になりますが、地域内には大学病院が1つしかなく、また基幹病院もさほど多くないため、開院当初から三次救急医療機関として救命救急に注力。2013年には病院棟とは別に救急災害センターを増設し、南大阪の救急の拠点として診療にあたってきました。大阪府の地域周産期母子医療センターでもあります。また研究機能をもつ大学病院ですので、各科では新しい医療や治験にも積極的に取り組んでおり、1994年には特定機能病院に指定され、がんゲノム医療中核拠点病院や地域がん診療連携拠点病院などでもあります。919床、30を超える診療科に高い専門性をもつスタッフが集まり、診療部位や領域、患者さんの年齢を問わず、高度な治療を提供できる体制が当院の特徴です。
ニーズの高いがんや心血管病変治療について、ご紹介ください。
がんの手術では各科でロボット支援下手術を積極的に実施し、患者さんの負担が少なく早期の社会復帰がめざせる治療に努めています。専門的な技術をもつ医師が多く、教育機関として後進の育成にも力を入れています。また薬物治療に関して、当院では多くの領域で治験を実施していますので、新たな治療にもチャレンジできる環境があります。難治性再発頭頸部がんでは光免疫療法を開始していますし、ゲノム医療センターではがん遺伝子パネル検査を実施するなど、新しい医療にも意欲的に取り組んでいますし、がん相談支援センターでは全人的なサポートも行っています。心血管病変については心臓血管センターが緊急症例に一元的に対応するほか、心臓血管外科のハートチームでは切開部が小さく負担が少ない手術に力を入れています。他の分野でも現在国内で行われている治療については当院でほぼ提供しており、難症例でも生活圏内で治療を受けてもらえる点は強みですね。
一方で、地域の病院として親しみやすさも大事にされているとか。
大学病院で三次救急に指定され、高度な医療に力を入れている。こうなると、患者さんにとって敷居は高くなりがちです。しかし当地域では規模の大きな病院が少なく、大学病院も当院のみ。ですから特定機能病院として難易度の高い治療がもちろんメインにはなりますが、いわゆる市民病院のような機能も、私は維持していく必要があると考えています。同時に、地域の先生方や患者さんに病気や治療について知ってもらう「教育」も、われわれが行うべき仕事ですので、私の専門であるアレルギー疾患では、医療従事者の研修や地域公開講座などにも取り組んでいます。困ったときには気軽に受診、あるいはご紹介いただいて、当院で診断をつけて治療を始め、最終的にはかかりつけの先生で経過を診てもらえるようにしたい。救急に限らず「断らない医療」をめざしていますし、システム上でも電子カルテの共有などを通じて、地域の先生方とより密に連携していきたいですね。
2025年の新築移転に向けて準備が始まっています。
開院から50年近くが経過する中で、施設の老朽化が課題になっていました。また現在の場所は、駅から少し距離があります。そこで周辺の自治体とも検討を重ね、隣の堺市、泉北高速鉄道の泉ケ丘駅の駅前へ新築移転することに。医療圏を越えての移転になりますが、直線距離で数キロ程度ですから、南河内医療圏の救急診療はそのまま継続しますし、先ほどお話しした市民病院のような役割も維持します。今度は駅から歩ける距離になるので、患者さんは来院しやすくなるでしょう。新病院はロの字型で臓器別の病棟配置を予定しており、ICUの数が増えますし、ITを活用することで診療環境は格段に向上します。アプリを利用した待ち時間対策など、患者さんの快適さも高めていきます。また病院の周辺には地域の方と共用できる商業施設を設ける予定で、堺市とは包括連携協定を締結し、ハード・ソフトの両面から地域の健康増進や活性化に取り組んでいきます。
新築移転に伴う課題や、移転後の展望をお聞かせください。
長く親しんだ場所を離れますので、患者さんや近隣の皆さんからは不安のお声もいただきますが、より良い環境で従来どおり診療を続けることを丁寧にお伝えしていきます。一方で、当院は特定機能病院であり、高度な治療を必要とする患者さんが他府県からも受診されていますし、新型コロナウイルス感染症のような状況に対して、今後もいち早く対応する覚悟と体制を日頃から備えています。利便性の高い場所への移転で、そのような特定機能病院ならではの役割も、より適切に果たせるようになると考えています。さらに将来的には、当院での治療を望む患者さんを全国や海外からも受け入れ、データを研究・集約して世界に発信し、新たな治療や創薬につなげていきたい。こういった取り組みも、大学病院や特定機能病院の役割であろうと考えています。新築移転を機に、地域の患者さんとともに国内外の患者さんにも広く貢献できる医療をめざしていきたいですね。
東田 有智 病院長
1980年近畿大学卒業ののち同医学部第4内科へ入局。1991~1992年に米国Mayo clinic Research Fellowへ留学後、近畿大学医学部第4内科講師、助教授を経て2002年同呼吸器・アレルギー内科教授。近畿大学医学部附属病院(現・近畿大学病院)副病院長等を務め2016年10月より同病院長。近畿大学特任教授。日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本呼吸器学会呼吸器専門医。
自由診療費用の目安
自由診療とはがん遺伝子パネル検査/保険診療の適格性を満たさない患者、再検査を希望の場合などは自由診療68万2000円(税込)。