医療法人徳洲会 松原徳洲会病院
(大阪府 松原市)
吉田 毅 院長
最終更新日:2021/06/16
命と安心を守る救急診療を院全体で提供
徳洲会グループ最初の病院として、松原市で1973年から診療を続ける「松原徳洲会病院」(旧・徳田病院)。「断らない医療」を根幹に据えて24時間対応の救急医療を展開しており、松原市内や近隣市町村から多くの救急搬送を受け入れてきた。中でも吉田毅院長が率いる心臓血管外科では15年ほど前から独自にドクターカーを運用し、緊急を要する患者の迅速な治療開始に取り組む。先進の検査・診療機器導入に加え、スタッフ間で「一刻も早い治療開始」という共通目的への意識やスキルを高め続けてきたことが、大きな強みになっているという。さらに近年では、がん診療の拡充や日帰り手術、人間ドックなどの予防医学にも力を入れている同院。回復期や在宅医療にも目を向け、地域のニーズに応えるべく将来像を描いている。救急の最前線に立ち続け、近隣病院との医療連携や医療情報の発信など、「地域と積極的につながる」病院運営を行う吉田院長に、診療の特徴や地域における役割、高齢社会における急性期医療や看取りの課題について話を聞いた。(取材日2021年5月24日)
救急搬送の件数が多いそうですね。
「断らない医療」という徳洲会の理念をベースに、地域の中核病院として救急診療には力を入れています。大阪府では、高度外傷は原則として3次救急指定病院が担当しますので、当院ではそれ以外の外科、特に心血管の病変で心臓外科、循環器科などがチームを組み、大動脈瘤や急性心筋梗塞など緊急性の高い疾患を積極的に受け入れています。迅速な対応を実現すべく、設備面では早い時期からハイブリッド手術室や手術支援ロボットシステム、320列CTや 血管造影装置などを導入してきました。ただ最も大事なのは、全スタッフが「迅速な診断と治療開始」という共通の目的を意識し、それぞれの業務を行うことです。かつてはスムーズにいかないこともありましたが、今では細かい指示がなくても各スタッフが必要な段取りを考え、迅速に治療を進められるように動いてくれています。
心臓血管外科ではドクターカーを活用しているのだとか。
これも、一刻も早く治療に入るための取り組みです。大動脈瘤や心筋梗塞では数分の差が生死を分けることもあり、私自身、何度も悔しい思いをしましたので、2004年の着任当初からドクターカーの運用に取り組みました。これらの疾患が疑われる患者さんが他院から紹介された場合には、当科の医師が専用の大型救急車に同乗して患者さんを迎えに行き、その場で診断をつけて治療方針を立て、処置をしながら搬送します。同時に、院内ではスタッフが治療の準備を進めます。例えば大動脈瘤では手術とステントグラフトという大きく2つの治療法があり、必要な機器やスタッフは大きく異なります。しかし、搬送前に治療戦略を立て搬送中に準備を整えておければ、到着直後からスムーズに治療が始められるでしょう。またドクターカーで迎えに行けば紹介元の病院の医師は同乗する必要がなく診療を続けられることも、限られた医療資源においては大きなメリットになります。
地域の医療における貴院の役割を、どのようにお考えですか。
当院は189床という限られた規模であり、あらゆる診療科がそろうような大病院とは異なる動きが必要です。そこで、近隣にある複数の病院と密なネットワークを結び、当院でできる診療はなるべく引き受け、分娩のように当院で扱っていない診療については他の病院にお願いする、という役割分担を積極的に行っています。1つの病院ですべての病気を診療できないことは、一見非効率なようですが、日本の医療では「身近な地域に救急を担える病院がある」というアクセスの良さも求められます。このため、同じ松原市内で病床のある2つの病院や、南河内医療圏内にある病院とは各科の医師同士、あるいは地域医療連携室のスタッフが日頃から顔の見える関係を築き、各病院の強みを生かしながら、それぞれの病院がある地域の医療を支えていけるように協力しています。
一般の方に向けた情報発信も充実していますね。
医療講演会や院内ツアーは以前から活発に実施しています。なぜなら、病気は病院へ行けば治るのではなく、患者さんと医師が一緒に治すという気持ちが必要です。また、心筋梗塞などは症状があれば早急に受診すべきですが、この地域の患者さんはかなり進行してから受診する傾向があります。病気を知り、適切な治療を受けるために、日頃から病気への理解を深めてほしい。同時に、講演会などを通じて病院に親しんでもらい、受診への敷居を下げたいのです。さらに近年では病気や治療だけでなく、人生の最期について考えてもらう機会を増やすべく取り組んでいます。今、高齢者ではご本人の意思が確認できないまま救急搬送され、さまざまな救命処置を受けたり、病院で看取られたりするケースが増えていますが、それでよかったのか、考えてしまうケースも少なくありません。自分の最期について、元気なうちに意思表示しておくことが大事だと強く感じています。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
治療の面では、外科や泌尿器科、消化器内科、婦人科などを中心にがん診療や緩和ケアにも力を入れていますので、いずれは地域がん診療連携拠点病院の指定を受けたいと考えています。また、当院には高気圧酸素治療の装置があり、さまざまな疾患に適応となっています。関西では対応可能な医療機関が限られていますので、必要な方にはぜひご活用いただきたいですね。それから、救急をより一層充実させるためには、急性期に続く回復期や在宅医療への対応が不可欠です。介護老人保健施設、訪問看護ステーションなど当院関連施設のキャパシティーだけでは十分とはいえず、どこまでサポートするのか悩ましいのですが、高齢化が進み老老介護が日常的に行われる今、避けて通れない課題でもあります。救急から人生の最期まで、皆さんが安心し、それぞれに納得して暮らせる地域になるよう、今後も医療の面から支え、また一緒に考えていく病院でありたいですね。
吉田 毅 院長
1995年徳島大学医学部を卒業後、信州大学医学部附属病院第二外科で勤務。1996年庄内余目病院を経て1997年より千葉西総合病院で勤務し、2004年より松原徳洲会病院へ入職、2009年より副院長、2015年より現職。専門は心臓血管外科。過去の悔しい経験から、迅速な診断・搬送を実現するためにドクターカーの運用や院内体制の構築にまい進してきた。