市立岸和田市民病院
(大阪府 岸和田市)
横見瀬 裕保 院長
最終更新日:2025/09/09


地域の急性期と救命救急を支える医療拠点
1937年に岸和田市、近隣5町村組合病院として設立された「市立岸和田市民病院」。1998年に建て替えられたホテルを思わせる上品なたたずまいの同院は、長い歴史の中で地域医療を支え親しまれてきた。現在は、幅広い診療科と400床の一般病棟を持つ総合病院として、「高度急性期医療」と「断らない救急医療」に力を尽くす。2つのミッションの実現に向けて、放射線治療装置やPET‐CT、内視鏡手術支援ロボットなど、先進医療機器の拡充にも注力。中でも、カテーテルを用いた不整脈治療では、数多くの症例に取り組んでいる。2021年より病院長として同院をけん引し、地域の人々が安心して医療を受けられる体制づくりに努めるのは、呼吸器外科が専門の横見瀬裕保院長。「以前と変わらない外観の中に、生まれ変わった医療体制があります」という言葉からは、同院の明確なビジョンが感じられる。「コンパクト・スピーディー・オールインワン」を掲げて診療に取り組む同院の地域医療における役割や今後の展望について、穏やかな表情と明快な語り口が印象的な横見瀬院長に話を聞いた。(取材日2025年7月24日)
病院の基本理念、地域における役割について教えてください。

当院は泉州二次医療圏に位置し、圏域の対象人口は約90万人、うち岸和田市は約18万人です。この地域には大規模な病院がなく、当院のような病床数300~400床の中規模病院、公的病院が多いのが特徴です。その中で、当院は33の診療科、400床を有し、オールインワンで完結できる幅広い診療分野をカバーしています。がん診療連携拠点病院、がんゲノム医療連携病院、大学病院に準じた高密度な治療ができるDPC対象病院、地域医療支援病院として、がん診療、高度で先進的な医療の推進と24時間365日断らない救急医療に注力する地域の中核病院です。地域の皆さんに「心のこもった質の高い先進的な医療を提供すること」に努め、患者さんに安心して良い医療を受けていただくことはもちろん、スタッフが働きやすく、やりがいを持ち、幸せを享受できるような職場環境の整備にも力を入れています。
診療の特色と力を入れている医療分野について教えてください。

がんや成人病に対する先進的な医療の提供と、断らない救急医療に力を入れています。がん診療、高度で先進的な医療の推進に不可欠な医療機器の充実に努めています。例えば、がんの診断精度の向上を目的に、高性能なPET‐CTに更新。先進的な放射線治療装置を新たに導入し、患部へピンポイントに放射線を当て、周囲の正常組織への影響を抑える治療法・IMRTを多く実施。また、消化器外科、泌尿器科、婦人科、整形外科における人工関節置換術ではロボット支援手術を導入し、繊細で患者さんの負担の少ない手術を行っています。その他、血管造影装置2基を更新し、先進の循環器・脳外科治療、IVRを提供。不整脈治療においては、熱を使用せず電子パルスで治療するパルスフィールドアブレーションを導入し、より高度な治療手技の実現や、患者さんの被ばく低減が期待されます。これからも地域の不整脈治療におけるリーディングランナーであり続けたいですね。
注力されている部門についても教えてください。

救命救急部門では1年間で約5000件(2024年4月1日~2025年3月31日)の救急車を受け入れています。これは400床クラスの病院としては、かなり多い数ではないでしょうか。24時間、365日断らない救急、緊急手術やカテーテル治療、内視鏡治療も含め対応できる体制の整備に努めています。先ほどお話ししたように、当院はがん診療に力を入れており、がん治療に携わる領域をすべてまとめ上げた「がんセンター」を設置しています。ホームページにアクセスすれば、当院で受けられるがん治療や受診先などについて詳しく知ることができます。また、がんゲノム診療を推進し、オーダーメイドのがん治療をめざしています。このような当院の診療を支える要は、患者支援部門です。患者さんの入退院や退院後の行先、救急の受け入れや病診連携などをコントロールし、病院機能の最前線を担う心臓部です。
先生が病院運営で大切にされていることは何でしょう?

当院のめざすスタイルは、コンパクト、スピーディー、オールインワンです。400床のコンパクトさの中で、診療科間の連携が良く、スピーディーな対応ができる病院だと自負しています。当院には、がん患者さんがつらい状態にあるとき、心と痛みの両面からケアを行う緩和ケア病棟があります。患者さんも主治医も困ってしまったとき、すぐに緩和ケア病棟に相談できるスピーディーさ、さまざまな診療科を持ち、院内で自己完結的に治療に専念できるオールインワンの病院をめざしています。もう一つは、今年度の目標でもある「相手に優しく」の実践です。スタッフがやりがいを持って働ける環境を整えることが、私たち自身の笑顔や活力につながり、それが患者さんの回復を支える力になると考えています。患者さんに気持ち良く治療を受けていただけるよう、常に笑顔で「相手」に接することを病院全体で心がける。当院が継承してきたこの文化は、守り続けたいですね。
最後に地域へのメッセージをお願します。

私自身の医師としてのモットーは、卓越した技術・アート、心のこもった医療・ハート、そして科学的データに支えられた医療・サイエンスです。院長としては、自分で考え、アイデアで少しでも病院のどこかを良くすること、誰かを少しでも幸せにすることに努めていきたいと思います。病院の建物は40年ほどが限度といわれていることから、改築から27年が経過した当院はこれから10年以上、現在の建物で継続していくことになるでしょう。救命救急センターに関しては、稼働しながらの改修計画を練っているところですが、全体的には古い建物だと思われるかもしれません。しかし、先ほどお話ししたように、当院は高度急性期医療と救急医療を実践するため、先進の医療設備と技術の導入・刷新を行っています。外見は同じでも、中身は常に新しく生まれ変わっていることを皆さんに知っていただき、患者さんにより寄り添い、そばにいる病院でありたいと思います。

横見瀬 裕保 院長
京都大学医学部卒業後、同大学結核胸部疾患研究所胸部外科に入局。倉敷中央病院呼吸器科、国立姫路病院(現・姫路医療センター)呼吸器外科で研鑽し、トロント大学胸部外科研究員、京都大学医学部附属病院呼吸器外科、日本赤十字社和歌山医療センター呼吸器外科を経て、香川医科大学第二外科教授、香川大学医学部附属病院病院長を務めてきた。2021年より現職。日本外科学会外科専門医、 日本呼吸器外科学会呼吸器外科専門医。