一般社団法人 呉市医師会 呉市医師会病院
(広島県 呉市)
先本 秀人 院長
最終更新日:2025/03/10


市民の日常生活を支える「医師会の病院」
呉市のシンボル、灰ヶ峰から連なる市街地にある「呉市医師会病院」。1961年の開設以来、開放病床の積極的な運用を軸に地域の開業医院の診療をサポートし、呉市民からも困ったときに頼れる病院として親しまれてきた。特に高齢者が増加した現在は、“高度急性期医療の適応ではないものの、自宅で過ごすことが難しい体調の患者”を積極的に受け入れ、医療・看護に加え在宅復帰や長期療養に向けて社会福祉面からの支援にも力を注ぐ。また大腸・肛門疾患に関しては2014年に設けた「大腸肛門病センター」で専門性の高い診療を展開。痔や大腸がんなどの外科的治療、QOLに直結する排便機能障害やストーマ(人工肛門・人工膀胱)のケア、さらに医師やスタッフが地域へ出向き、高齢者や子どもを対象に排便の大切さの啓発活動も行っている。「今後は人間ドックや大腸内視鏡検査などの検査にも注力していきたい」と語るのは、2024年から院長を務める先本秀人先生。デジタルデータの活用や快適な院内環境づくりなども視野に入れ、これからの時代に応じた地域医療支援をめざす先本院長に、診療の特色や今後の展望について聞いた。(取材日2025年2月4日)
最初に、医師会病院や開放病床について教えてください。

当院が開設された1961年当時は、病院を中心とする医療が全国的に推進され、開業医院の役割が問われていたそうです。そんな中、開業医院の重要性に注目し、これらと直接連携する病院が必要であるとの機運が高まり、全国各地の医師会が医師会立の病院を設けるように。呉市でも、当時の医師会長が若い頃に見学したハワイのクアキニ病院を参考に、全病床を開放する当院が開設されました。開放病床では、医師会会員である開業医の先生がご自身の患者さんを入院させ、そのまま主治医として患者さんを診ることができます。その際には院内の医師が副主治医としてサポートします。実は、開放病床を持つ基幹病院は多いものの、実際に使用されることはまれです。しかし当院では常に入院患者の2割程度が、開放病床として利用されています。また、当院の医師が主治医となる入院についても、医師会の先生方からのご依頼であれば速やかにお受けするようにしています。
地域ではどのような役割を担っているのでしょうか?

呉市内には病床約400床以上の基幹病院が3つあり、いずれも高度急性期医療に注力されています。このため、救命救急や原因疾患に応じた治療が必要な患者さんであれば、開業医の先生方も紹介しやすいようです。一方、「原因はわからないけれど食べられず、立てなくなっている」「体調が優れず、独り暮らしの自宅へは帰せない」という特に後期高齢の患者さんについて、ご依頼をいただければ即座に入院対応に動けるのが当院の強みです。この地域には独居している高齢者も多く、このようなケースが少なくありません。また、高度急性期病院で治療を終えたけれどまだ自宅へ帰るのは難しい患者さんや、基幹病院へ搬送されたけれど症状が落ち着いている患者さんなども、依頼があれば転院を受け入れ、在宅復帰に向けた治療や支援を行います。開業医の先生方や各病院とは顔の見える密な関係を日頃から深め、患者さんが行き先を失うことのないように努めています。
大腸肛門病疾患にも、力を入れているそうですね。

肛門疾患や排便トラブルは、基幹病院ではあまり積極的に取り扱われませんし、開業医の先生方もお困りになる領域の一つです。当院では、前院長であった中塚博文名誉院長が大腸肛門の専門家で、優秀な医師やスタッフが集まっていたこともあり、2014年に「大腸肛門病センター」を設立。医師会病院である当院の外来では、基本的には紹介状のある方のみ診ていますが、肛門疾患や排便トラブルについては患者さんからの予約や直接受診もお受けし、治療後のフォローもそのままこちらで行います。多くはお尻からの出血や痛みで受診され、痔であれば排便習慣の改善や薬物治療から始めますが、直腸脱では手術になることも多いです。また便秘や、高齢者では便漏れのご相談もありますね。恥ずかしさから受診が遅れがちな領域でもあるので、医師やスタッフが小学校や地域の子ども会、老人会などへ出前講座を行って、排便の大切さなどをお伝えしています。
これからは人間ドックなどの検査も充実させていきたいとか。

当院では地域の先生方からの検査依頼や、公務員のワクチン接種や健康診断、各種検診などを日常的に実施しており、人間ドックも行っています。従来は季節的なキャパシティーの都合からご希望をお受けできないこともありましたが、今後は検査体制や診療環境を充実させて、より多くの方を受け入れたいと考えています。例えば、胃の内視鏡検査は検査の枠数を増やしていますし、一般開業医の先生方では実施しにくい大腸内視鏡検査も、当院で力を入れていきたいですね。大腸内視鏡検査では下剤を飲む処置が必要ですが、当院は今後、病床数を絞っていく予定ですので、空いた病室を活用して、検査を受ける方はトイレのある個室で落ち着いて楽に過ごせる、そんな環境を整えられればと考えています。治療に関しては大腸肛門病センターがありますので、大腸内視鏡検査の充実によって、定期的に検査を受けて早期発見から治療へ、という流れをつくっていきたいですね。
今後の展望と、地域の皆さんへのメッセージをお願いいたします。

開業医院の日常診療をサポートするという面では、1泊入院が必要な睡眠時無呼吸症候群の検査や、大腸内視鏡検査が受けられない方のための大腸CTなども実施しています。また、もしご紹介で入院された患者さんが介護保険などの認定を受けていなければ、当院の地域医療福祉連携室が在宅復帰に向けた諸手続きや準備を進め、退院後の生活につなげていきます。さらに、デジタルの活用で診療の利便性向上にも取り組んでいます。最近更新したシステムでは、入院患者さんの検査結果や看護記録などがモバイル端末から見られるようにし、主治医である開業医の先生方が、ご自身の入院患者さんの状態を院外から確認して、必要な指示をタイムリーに出せるようにしています。今後は地域包括ケア病床を増やし、地域医療支援病院ならではのきめ細かな取り組みをさらに充実させ、医師会の先生方の診療を多方面から支援して、呉市民の健康を守っていきたいと考えています。

先本 秀人 院長
呉市出身、1987年広島大学医学部卒業。消化器外科および腹部救急が専門で、JA尾道総合病院、中国労災病院などでの勤務を経て2019年より呉市医師会病院に入職、2024年4月から院長を務める。穏やかな笑顔と語り口調で患者や職員とのコミュニケーションを深め、地域の開業医院や基幹病院の医師とも顔の見える緊密な連携を構築することで、地域医療の質の向上に努める。日本消化器外科学会消化器外科専門医。
自由診療費用の目安
自由診療とは人間ドック/2万9500円~ 胃透視検査から胃カメラ検査へ変更可能(+3500円)